表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/40

第18話 公爵が磨いた最後の一石

 騒ぎが落ち着いたのは、夜もかなり更けてからだった。


 王宮の明かりを離れ、公爵家の客間へ戻ると、私はさすがに椅子へ沈み込んだ。肩が重い。けれど心は妙に静かだ。終わったのだと、ようやく身体が理解し始めている。


 扉が叩かれ、公爵が入ってきた。


「起きていたか」


「はい。眠るには、少しだけ今日が大きすぎました」


 彼は短くうなずき、手の中の小箱を机に置いた。最近よく見る箱だが、今夜のそれは少しだけ古びている。


「開けろ」


 中には、深い青の一石が収まっていた。大きくはない。けれど中心へ細く星筋が通り、余計な飾りが一つもない。爪座も、北方工房の新刻印で仕立てられている。


「これ……」


「今日の前に磨いた。俺が」


 思わず顔を上げる。公爵はいつものようにぶっきらぼうな顔のままだ。


「職人ほど上手くはない。だが、最後の仕上げだけは自分でやりたかった」


 喉が熱くなる。


「どうして」


「おまえが、北方の石を誰より真っ当に見たからだ」


 少しだけ間を置いて、彼は続けた。


「そして俺は、明日もその先も、おまえにここで石を見ていてほしい」


 甘い言い回しではない。けれどこの人が言うと、それがいちばん確かな言葉になる。


 私はそっと一石を持ち上げた。温かい。たぶんさっきまで、彼の手の中にあったからだ。


「王都へ戻れと正式に言われるかもしれません」


「断ればいい」


「簡単に言いますね」


「簡単でいい。おまえが望まない場所に戻す気はない」


 その瞬間、ようやく涙が滲んだ。悔しさの涙ではない。選んでいいと言われたことへの、遅い安堵だった。


 私は箱を閉じ、公爵を見た。


「明日も、ここで石を見ます」


 彼は小さくうなずく。


「なら十分だ」


 王宮で失ったものより、北方で得たものの方が、もうずっと確かになっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ