第17話 刻印が告げる母の名
私は書類箱から登録簿と刻印板を取り出した。
会場中央の検品台へ並べると、ざわめきがまた大きくなる。古びた帳簿と欠けた銅板は、豪華な宝冠よりよほど重い証拠だった。
「これは北方公爵家書庫と工房金庫から出た正式記録です」
頁を開き、母の署名の箇所を示す。
『登録管理者エヴァ・ノイマン』『第一継承者クラリス・ノイマン』
インクの色も筆跡も、王宮保管文書と照合できるものだと私は説明した。さらに、セリーヌがつけている耳飾りの留め具裏にある欠けが、この試作刻印板と一致することも。
「その耳飾りは、母が残した試作品です。工房金庫に保管されていたものが、なぜセリーヌの耳にあるのでしょう」
セリーヌの唇が震える。
「伯母様が……私に似合うって……」
伯母ミレイユが青ざめて一歩下がった。
「私はただ、家のために……」
「家のためではありません」私は遮る。「あなたたちは、表に立つ人間だけが価値を持つと思い込んで、母の仕事と北方工房の名を盗んだんです」
レナードが苦し紛れに言う。
「だが、社交の場ではセリーヌの方が――」
「だから偽物でもいいと?」
私の問いに、彼は黙った。
王宮監察官が前へ出て、ベルトラン局長とレナードへ事情聴取を命じる。局長はその場で崩れるように椅子へ座り込み、セリーヌは耳飾りに触れたまま泣き始めた。
私は泣かなかった。
泣きたい時期はもう過ぎた。今、胸にあるのは静かな確かさだった。母は私を選び、記録に残し、北方にも名前を置いていた。私は最初から、誰かの控えではなかったのだ。
監察官が登録簿を受け取りながら言う。
「ノイマン殿、正式継承の再登録手続を進めます」
私は深く頭を下げた。
長いあいだ、王宮では私の声より他人の演出が優先された。でも帳簿は違う。正しく残された記録は、いつか必ずその人の名を呼び戻す。
母の名前が書かれた頁を閉じた時、ようやく本当に取り戻せた気がした。




