第14話 『本物の令嬢』の耳飾り
セリーヌの耳飾りをもう一度見たのは、王都から届いた新聞画だった。
祝冠披露会の予告記事。そこに載った彼女の肖像は、これ見よがしな笑みと共に、大粒の青石の耳飾りを揺らしていた。
私は紙を机に広げたまま、しばらく動けなかった。
その留め具の裏にある、小さな欠け。
母が試作段階でだけ使っていた古い留め枠だ。正式品にはならず、工房金庫へしまわれたはずのものだった。つまり、セリーヌは母の遺品箱にまで手を入れている。
「これも証拠になるか」
公爵が隣に立つ。
「ええ。あの耳飾りは、母が私の成人祝いに残した試作品でした」
「盗まれた」
「たぶん伯母の手で。セリーヌは自分が『本物の令嬢』だと見せるために、母の仕事を飾りに使っているんです」
職人の娘である私より、華やかな従妹の方が王宮にふさわしい。そんな雑な物語を支えるためだけに。
悔しいより、もう虚しかった。
でも同時に、これで逃げ道も塞げると理解する。あの耳飾りが王都の公の場に出れば、刻印板と登録簿と繋げて一気にひっくり返せる。
「披露会へは行く」
私が言うと、公爵はうなずいた。
「こちらも招待状が来ている。北方工房の再契約交渉つきだ」
「ずいぶん堂々としてきましたね、王都も」
「北方が沈んだと思っていた頃の書状だろう」
私は新聞画を折りたたんだ。紙の上のセリーヌは相変わらず、誰よりも綺麗に見えたい顔をしている。
けれど耳元に揺れるのは、彼女自身の輝きではない。母が遺し、私が継ぐはずだった仕事だ。
夜、首飾りの箱を開け、明け星の一粒を掌にのせた。北方で磨かれたその石は、派手ではないが真っ直ぐ光を返す。
私はようやく決める。
奪われたものを、ただ数えるのは終わりだ。
王都へ戻るのは、居場所を乞うためではない。誰の輝きが本物かを、静かに示すためだ。




