表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/40

第14話 『本物の令嬢』の耳飾り

 セリーヌの耳飾りをもう一度見たのは、王都から届いた新聞画だった。


 祝冠披露会の予告記事。そこに載った彼女の肖像は、これ見よがしな笑みと共に、大粒の青石の耳飾りを揺らしていた。


 私は紙を机に広げたまま、しばらく動けなかった。


 その留め具の裏にある、小さな欠け。


 母が試作段階でだけ使っていた古い留め枠だ。正式品にはならず、工房金庫へしまわれたはずのものだった。つまり、セリーヌは母の遺品箱にまで手を入れている。


「これも証拠になるか」


 公爵が隣に立つ。


「ええ。あの耳飾りは、母が私の成人祝いに残した試作品でした」


「盗まれた」


「たぶん伯母の手で。セリーヌは自分が『本物の令嬢』だと見せるために、母の仕事を飾りに使っているんです」


 職人の娘である私より、華やかな従妹の方が王宮にふさわしい。そんな雑な物語を支えるためだけに。


 悔しいより、もう虚しかった。


 でも同時に、これで逃げ道も塞げると理解する。あの耳飾りが王都の公の場に出れば、刻印板と登録簿と繋げて一気にひっくり返せる。


「披露会へは行く」


 私が言うと、公爵はうなずいた。


「こちらも招待状が来ている。北方工房の再契約交渉つきだ」


「ずいぶん堂々としてきましたね、王都も」


「北方が沈んだと思っていた頃の書状だろう」


 私は新聞画を折りたたんだ。紙の上のセリーヌは相変わらず、誰よりも綺麗に見えたい顔をしている。


 けれど耳元に揺れるのは、彼女自身の輝きではない。母が遺し、私が継ぐはずだった仕事だ。


 夜、首飾りの箱を開け、明け星の一粒を掌にのせた。北方で磨かれたその石は、派手ではないが真っ直ぐ光を返す。


 私はようやく決める。


 奪われたものを、ただ数えるのは終わりだ。


 王都へ戻るのは、居場所を乞うためではない。誰の輝きが本物かを、静かに示すためだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ