第13話 北方工房の新作首飾り
北方工房の新作首飾りは、王都向けではなく北方の光に合わせて作った。
大粒の宝石を誇るのではなく、星筋の細い石を何粒も連ねる。朝の冷たい光を受けたとき、静かに線の輝きが走るような意匠だ。私は商品名を『明け星』とつけた。
「王都では地味と言われそうだね」
マルタが笑う。
「それで結構です。長く残る品は、だいたい最初に地味と言われます」
お披露目の日、工房の広間には商会人や近隣領の使者が集まった。公爵は余計な演説をせず、私に前へ出るよう視線で促す。
私は新しい価格表と刻印証明書を配った。どの石がどこで採れ、誰が磨き、どの番号で出たのかを全部公開した一覧だ。
「ここまで出すのか」と商会人が驚く。
「出します。曖昧さが工房を弱らせたので」
ざわめきのあと、最初の注文が入った。次いで二件、三件。石の値段だけでなく、証明書つきで買える安心に反応したのだとわかった。
夕方には、工房の帳場が久しぶりに忙しさで埋まった。
「やったねえ、台帳官」
職人たちに囲まれて肩を叩かれ、私は少しだけ照れる。王都では帳簿を見ても誰も喜ばなかったのに、ここでは記録がそのまま工房の息継ぎになる。
片づけが終わる頃、公爵が小さな箱を差し出した。
「祝いだ」
中に入っていたのは、明け星シリーズの試作第一号だった。派手な宝石ではなく、透明度の高い小さな星彩石を一粒だけ使った首飾り。爪座の裏に、二重星ではなく新しい北方工房の刻印が入っている。
「受け取れません。売り物でしょう」
「第一号は贈答用だと決めた」
私はそっと首飾りを持ち上げた。軽いのに、妙に胸に響く重さがある。
「誰への贈答用か、聞いても?」
「最初に工房を信じた人間へ」
まっすぐすぎる言葉に、返事が遅れた。
王都の宝飾はいつも、人を飾るためにあった。でもこの首飾りは、飾られる側ではなく作る側の意地を形にしている。
私は静かに礼を言った。
「大事にします」
公爵はそれ以上何も言わなかった。それでも、箱を閉じた時の指先は、朝より少しだけ近かった。




