第52章| 職場巡視の重要性 <5>ラベルと安全データシートを見よう
<5>
「アセトンの容器ですか? ええ、そこらじゅうにありますけど・・・・・・」
店長の間黒さんがそう言って、カウンターテーブルのネイリスト側に置いてある半透明の小さな容器を持ち上げた。
「お店では毎日アセトンを使いますから、もっとデ~ッカイ業務用の大容器で買って、こういう手元の小分け容器に詰め替えてるんですよ」
先日訪問したときに、タバコがやめられないと笑っていたネイリストの伊倉さんが、横から補足を入れてくれた。
ネイリストの手元に置かれている容器には何も書かれていない。
よく言えばプレーンでスッキリした印象。悪く言えば、何の液体が入っているのか、不慣れな人には全くわからない状態だ。
イマドキは収納をスッキリさせるために、調味料や洗剤なんかもできるだけ商品ラベルが目立たないように容器を詰め替えたりする。このお店でもインテリアの統一感のために、そうしているのかもしれない。
「その、もとのデッカイ容器のほうを見せてくださいますか? 」
私がそうお願いすると、間黒さんが奥から容器を出してきた。
小分けにする前のアセトンは、いわゆる一斗缶のようなものに入っている。
そこにはラベルがついていて
『100% 純アセトン CH3COCH3=58.08』
と書かれていた。
ラベルには『危険』と太字で書かれており、その隣に赤い太線で囲われた菱形が3つ並んでいて、それぞれの「◇」の中に「炎」「ビックリマーク」「人間のシルエット」が、ちょっと不気味な雰囲気の白黒イラストで描かれている。
「で・・・・・・、どこを見れば良いんでしょうか? 」
「え~と、確か・・・・・・」間黒さんの質問に対して言いよどんだ私に、鈴木先生と持野さんが助け船を出してくれる。
鈴木先生が言う。
「このラベルは、GHSという国際機関で定められた様式で作られているようです。化学物質のラベルに載っている情報はすべて重要ですが、真っ先に確認するべき部分はこの物質の『危険有害性情報』でしょう」
持野さんが付け加える。
「ラベルの絵表示はGHSで統一されていて、それぞれ意味が決まっていますので、慣れてくると意味が分かりやすいんです。でも不慣れな人にとっては読み解くのが難しいかもしれません。その場合は、日本語で書かれた文章を読むほうが伝わりやすいように思います」
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アセトン(Acetone) CAS番号:67-64-1
【警告】
1.引火性液体である。
2.有機溶剤中毒の恐れがある。
危険有害性情報
・引火性の高い液体及び蒸気
・眼刺激
・生殖能又は胎児への悪影響のおそれの疑い
・眠気又はめまいのおそれ
・呼吸器への刺激のおそれ
・長期又は反復曝露による臓器の障害のおそれ(中枢神経系、呼吸器、消化管)
・飲み込み、気道に侵入すると有害のおそれ
注意書き
【安全対策】
・すべての安全注意を理解するまで取り扱わないこと。
・使用前に必ず安全データシート(SDS)を読むこと。
・換気の良い場所で使用し、必要に応じてドラフト等局所排気装置のあるところで取り扱うこと。
・眼や皮膚への接触、吸入を避け、必要に応じて保護メガネ、手袋等の適切な保護具を着用すること。
【応急措置】・・・・・・・・・
【保管】・・・・・・・・・
【廃棄】・・・・・・・・・
【供給者】○×○△株式会社
・・・・・・
・・・
・
詳細はQRコードより、SDS(安全データシート)をご覧ください。
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ラベルをのぞき込んだ間黒さんや、集まってきたネイリスト達が眉をひそめて口々に言った。
「・・・・・・え。『危険有害性情報』ってところ、なんか怖いことばっかり書いてあるよ? 」
「メーカーが責任逃れのために、起こりそうなことを、念のためズラズラッと書いているんじゃないですかぁ? 」
「でも『危険有害性情報』に書いてあるようなことが万が一でも自分の身に起きたら嫌だな・・・・・・」
「だけどアセトンがないとネイル施術はできません・・・・・・私、将来子供産みたいし、ネイリストの仕事やめたほうがいいのかな~? うわぁ、すごく不安になってきた~! 」
「み、皆さん・・・・・・・・・、落ち着いてくださいッ! 」
リスクアセスメントをしてほしいと言った本当の意図を伝えたくて、勇気を出して声をあげた。




