産業保健師 里菜の勉強ノート㊴ 【健康食品】/【無承認無許可医薬品】/【甲状腺中毒】/【リスクアセスメント】/【化学物質の自律的管理】
【健康食品】
いわゆる「健康食品」と呼ばれるものについては、法律上の定義は無く、医薬品以外で経口的に摂取される、健康の維持・増進に特別に役立つことをうたって販売されたり、そのような効果を期待して摂られている食品全般を指している。
いわゆる健康食品の中に、国が定めた安全性や有効性に関する基準等を満たした「保健機能食品(機能性等を表示してよい健康食品)」の括りがあり、さらに保健機能食品は「機能性表示食品(届出制)」、「栄養機能食品(自己認証制)」、「特定保健用食品(個別許可制)」に分かれる。
2019年の国民健康・栄養調査によると、健康食品を摂取している者の割合は男性で30.2%、女性で38.2%であり、男女ともに60歳代で最も高い。2023年度の健康食品・サプリメントの市場規模は9000億円程度との試算もある。
【無承認無許可医薬品】
特に外国製の強壮・ダイエット目的をうたう健康食品において、「健康食品」として販売されている「無承認無許可医薬品」の多さが問題となっている。医薬品成分等を添加した健康食品は違法であるが、健康食品はあくまでメーカーにより自主管理されているため、近年でも市場での該当商品発見や、健康被害の事例が後を絶たない。平成24年(2012年)の厚生労働省と国立医薬品食品衛生研究所による調査では、市場から購入した109 製品中、56 製品に医薬品成分が検出されたとのこと。また健康食品は医薬品並の品質管理がされているわけではないため、同じ製品でもロットにより成分が異なる・不潔な環境下での製造・カプセルが溶けない・重金属等の不純物を多く含む、といった問題のある製品も発見されている。違法健康食品に含まれていた医薬品の中には、副作用の強さから既に使用禁止になっていたものもあった。
【甲状腺中毒】
甲状腺ホルモンには代謝を促進する作用があるため、甲状腺ホルモン薬をやせ目的で使用する例は昔から後を絶たない。しかし正常な甲状腺機能を持つ人が人為的に甲状腺ホルモンを摂取すると、(作為的)甲状腺中毒をきたす可能性がある。甲状腺中毒の症状は甲状腺機能亢進症(バセドウ病)に類似しており、自覚症状は「体重減少・発汗・下痢・頻脈・手の震え・食欲増進・月経不順・イライラ」など。過剰摂取では不整脈、心不全などを起こし、命に関わることもある。
【リスクアセスメント】
リスクアセスメントは化学物質のみを対象に行われるものではない。産業保健分野においては、化学物質のほか、爆発・火災・騒音・振動・暑熱・寒冷・重量物・転倒・墜落転落災害防止などもアセスメント対象になる。
リスクアセスメントの手順は以下の通り。
組織体制の確立
ステップ1: 化学物質などによる危険性または有害性の特定
ステップ2: リスクの見積もり
ステップ3: リスク低減措置の検討
ステップ4:リスク低減措置の実施
ステップ5:リスクアセスメント結果の労働者への周知
またリスクアセスメントの手法には「マトリクス法」「CREATE-SIMPLE」「ばく露濃度測定によるもの」などがある。
【化学物質の自律的管理】
『1,2-ジクロロプロパンによる職業性胆管がん』の例では、1,2-ジクロロプロパンを長年使ってきた印刷会社で、多くの従業員が疫学的に不自然な高頻度で胆管がんを発症していることが2012年に報告された。報告当時、IARC(国際がん研究機関・・・WHOのがんに特化した専門的な機関)は1,2-ジクロロプロパンを 『Group3(ヒト発がん性に分類できない)』に位置づけており、同物質は日本でも特定化学物質障害予防規則(特化則)の措置対象物質に入っていなかった。
事件を受け、1,2-ジクロロプロパンが特化則措置対象物質に入れられたのは2013年のこと、IARCが1,2-ジクロロプロパンを『Group1(発がん性がある)』と改めたのは2014年になってからのことである。
このように、これまでの化学物質管理(特化則・有機則等による個別具体的措置を中心とする規制)には以下のような複数の課題があった。
①化学物質の持つ危険性や有害性が現時点で全て明らかになっているとは限らず、のちに人体への重篤な健康影響が判明する場合がある。
②化学物質による労働災害数の高止まりがみられ、特別規則(特化則、有機則等)で対象物質と定められたもの以外の化学物質による労災が8割を占め、重篤な災害事例も発生している。
③化学物質の使用・用途が多様化し、2億種類ほどの化学物質が既に存在しており、国内で輸入・製造・使用されている化学物質は数万種類に上ることに加え、新規化学物質の届け出が年間1000件ほどあると言われている中、特別規則(特化則、有機則等)の法改正による制限では対応が追いつかない。
④2016年6月1日から労働安全衛生法において、化学物質を取り扱う全ての事業者に、指定対象となった化学物質のラベル表示・SDS(安全データシート)交付・リスクアセスメントを行うことが義務化されていたが、当時は罰則がなかったこともあり、その実施率は低いままに留まってしまっていた。
これらのことから2025年1月現在、化学物質による労災害防止のための新たな規制が検討・開始されており、化学物質管理は『自律的な管理を基軸とする規制』になっていくことが決定している。今後は国のGHS分類により危険性・有害性が確認された全ての物質について事業者が措置義務(※)を負うこととなる。事業者も、従業員も、産業保健職も、今まで以上に能動的な姿勢で職場に潜むリスクを見つけ、早めに対処することができるリスクアセスメントの目を養うことが求められるようになる。化学物質の製造元にも、信頼に値する品質管理、できるだけ正しく製品の組成・成分情報を提供することなどが求められる。化学物質について深い知識や測定技術を持っている社外専門家(オキュペイショナルハイジニスト等)との連携も、今後ますます進んでいくと思われる。
※事業者の措置義務(義務対象物質は順次追加公表される予定)
・ラベル表示・SDS(安全データシート)交付による危険性・有害性情報の伝達義務
・SDSの情報等に基づくリスクアセスメント実施義務
・ばく露濃度をばく露濃度基準以下とする義務(国がばく露濃度基準を設定した物質について)
・ばく露濃度をなるべく低くする措置を講じる義務(ばく露濃度基準未設定の物質について)
・皮膚への刺激性・腐食性・皮膚吸収による健康影響のおそれがないことが明らかな物質以外の全ての物質について、保護眼鏡、保護手袋、保護衣等の使用義務
・化学物質管理者・保護具着用管理責任者選任の義務化 など




