第七十一話 緋色の少年
第七十一話 竜の少年
落下し直撃寸前のところでルークとレヴォルに助けられた私とコハクは、大きくなってしまったコハクが降りても邪魔にならない公園を探してそこに降り立った。
散歩をしている一般のヒトからは驚かれたけど、無理もない。私もまさか空を飛べる日が来るなんて思ってもいなかった。
・・・・・・・・また今度レヴォルにお願いして空中散歩させてもおう。
そんなことを考えていると、頭の中で声が聞こえる。
「《・・・・あぁクソがぁ。やっとあの忌々しい魔道具から解放された・・・・んだあの枷は、イライラする》」
あの枷には、特殊な魔法が施されていたようで、魔力は断絶する効果があった。そのため、私とロギとの間のリンクも不安定になってうまくお互いの意思疎通が難しくなっていた。
さっきレヴォルが解錠してくれたから、それで私の中のロギが出てこれたのだろう。
「(ロギ大丈夫?何ともないか?)」
またテメェは他人の心配を・・・・と言いたげなため息をついた後、どこか申し訳なさそうな空気を匂わせながら私にこう言った。
「《俺のことよりも、アイツみてやれ・・・・》」
ロギのいうアイツとは、コハクの事を示していた。
コハクは依然意識を失ったままでぐったりとしている。
やっぱり魔力不足なのか?
「コハク」
横たわるコハクのそばに駆け寄り、頭に手を置いて直接魔力を注ごうと試みた。
本来なら魔具さえあればこんなことしなくてもいいのだけど、私もコハクもオークション会場で取られてしまいそのまま置いてきてしまったのだ。
予備は一応エレティナから預かってきてはいるのだけど、肝心のその予備は私の鞄の中・・・・。つまり、私の鞄もベルトも魔具もあいつらに取られているわけで・・・・・・・・
やばい、詰んだ!!
「頼む・・・・これで何とかなってくれ・・・・っ」
願いと一緒に魔力を込めるが、いまいち入り込んでいる感じがしない。
まずい
そう焦っていたらコハクの体から霧が吹き出し周りが見えなくなるくらい霧で覆われてしまった。これでは、誰がどこにいるのか認識できない。
焦りを隠せない私は、無闇にその場から動くことができないのであたりをキョロキョロと見回す。
しかし、幸い風が吹いていたので、白い霧は数分もすると次第に晴れていった。
ようやく周りの状況が見え、コハクの状態を確認しようと視線を下ろすと、私より遥かに大きかった体は放出された霧とともに縮んでしまい、いつもの馴染みのある小さな姿に戻っていた。
しかし依然として、コハクはぐったりとしたままである。
「どけ、俺が診る」
「ルーク・・・・・・・・」
コハクの前にいた私を肩に手を乗せ押し退ける。
ルークがコハクの事を診ようとしたその時、上空から何かが降ってきた。
それは小さく、重みのある青い石がついた首輪。
「わっ?!」と驚いたが、何とかキャッチすることができた。そして見覚えのあるそれは、どこからどう見てもコハクの魔具と同じ物だった。
「それ、お前達にとって大事な物じゃないの? せっかくボクが逃げる手助けをしてあげたのに、詰めが甘いんじゃないの」
ふわっと空から舞い降りてきた少年は、とんっと片足から軽やかに地面に着地し、腕を前で組んでとても偉そうな態度をとる。
緋色の横に跳ねた短髪に頭からは2本の黒い角が生えていた。左頬には鱗のような皮膚。
姿は人間の少年だが、これはどう見ても人間じゃない。
まず、空から舞い降りてくる時点で絶対違う。
「クソ、追っ手か」
バッと立ち上がり、戦闘に備え身構えるルークに、レヴォルが止めに入る。
「ちょっと待ってルーク君。何だか違うみたいだよ、オレ達じゃなくてシロナに用があるみたいだね・・・・」
彼は私を知っている風に話しかけてくるが、このような少年にはあった覚えもなく、ただただその姿をじっと見るだけだった私を見て察したのか、不機嫌そうに私に指を指して怒鳴る。
「お前、人間!このボクのことを忘れたのか!?あーもー嘘だろ?クソ・・・・これだから人間が嫌いなんだ、すぐ忘れるしすぐ死ぬし・・・・」
私のことをいきなり現れて貶してくる少年に、あからさまにロギは敵対心をむき出しにする。
「《何だアイツ・・・・クソ餓鬼のくせしやがって生意気なやつ》」
完全に怒らせてしまったが、あんな少年知らないものは知らないぞっ。
何だあの態度!偉そうにして・・・・どこかの誰かさんとそっくりだな。
「シロナ、知り合いか?」
「いや・・・・あんな男の子知らな・・・・・・・・・・・・あ」
この人間を見下したかのような態度、最近どこかで同じようにされた記憶がある。
でも、その時とは全く見た目が・・・・
思い当たる人物、いや、竜は一人しか・・・・
間違っているかもしれない、そう思い恐る恐る彼の名前を呼んでみた。
「・・・・シャル・・・・なのか?」
キツい目つきをさらに吊り上げ、彼はまた腕を組み直し見下す。
「やっと気づいたか・・・・シロナの阿呆」
「気付くもんか!!何なんだその姿!前回会った時と全く姿形が違うじゃないか!!そんなんでよく分かって貰えると思ったな?!誰も気付かんわ!!」
「なっ、それが助けてもらった恩人対する態度か貴様!」
「え・・・・恩人って、あの騒動の原因はあんただったのか?」
「そうだ。しかも、大事そうな荷物を忘れていくわ、白竜の様子が気になって見にきてみれば虫の息になってるわ・・・・」
「うう・・・・」
やっとわかった。彼は牢屋に入れられた時、一緒に捕まっていた緋竜のシャルだ。
少し話した後すぐに私は連れて行かれたから、どうなったか心配にはなっていたけど、まさかコハクとも繋がりがあったなんて・・・・。
しかも、逃げ出すために彼が手助けしていてくれていたとは・・・・。
「ほらこれ、お前のだろ」
ぽいっと投げつけられたものは、私の大事な鞄と魔具とベルト。あの騒動の中に紛れて、シャルが取って来てくれたんだ。
「あ、ありがとう!シャル!」
シャルから受け取った魔具を急いで装着し、コハクにも急いで首輪をつける。
これでさっきよりかは上手く魔力を供給することができるはずだ。
魔具を取り付けてさらに手を翳して魔力を注ぐ。するとコハクの表情は少し柔らかくなり、呼吸や心拍も正常に戻っていった。
よかった。本当によかった。
これでひとまず大丈夫だろう。
状況がいまいち飲み込めていないルークは、とりあえずこの少年シャルが敵ではない事を知り、抜きかけていた刀を鞘に戻しシャルに向かって話しかけた。
「よくわからんが、シャルと言ったな? 俺からも礼を言う」
彼に近づき、握手をしようと手を伸ばした。
しかし、シャルはルークの手を勢いよく払い除け眼を飛ばす。
「魔物崩れ風情が、この高貴なボクに気安く触らないでくれる? 馴れ馴れしいにも程があるぞ」
「高貴? お前が?」
「魔物崩れでも知らないはずは無いだろう? ボクの名前はシャル。 火山国の支部長ラヴバートリアの息子、シャルバートリアだ!」




