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悪役令嬢付きのしがない護衛兵士ですが、冷酷な黒太子が彼女にだけ甘すぎるので毎日腹の中で笑っています  作者: 新小岩 茶太郎


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第一話 俺の仕事は護衛です。恋愛観察ではありません

 俺の名前は、レオン・クラウス。

 グランヴァルツ帝国・第三近衛騎士団所属。

 今年で24歳。

(序章でも紹介したけど、お約束だからツッコまないでね)


 平民生まれの、ごく普通の男だ。

 ……いや、普通ではないか。

 平民が近衛騎士になるのは珍しいみたいだしね。


 ちなみに、俺はララリカ合衆国の出身のクールガイなララリカン。

 平民というより一般国民だね。


 10代の頃から故郷のララリカで冒険者として識見を広め、武術に磨きをかける日々……と言えば聞こえはいいけど、ぶっちゃけ言うと、日々の生活費を稼がなくちゃいけないので、生きるためにやっていたようなもんだ。


 いやあ、罠にハマったり、危険すぎる魔物に殺されそうになったり、毒や呪いで死にかけたりと、ヤバいことの連続だけど、何とか生きているってわけよ。


 22歳の時、腕試しにと軽〜〜〜い気持ちで、西方に渡り、帝国の騎士の入隊試験を受けたら、見事に合格。

 毎日剣を振り、毎日訓練し、魔物や野党を討伐し、戦争では敵兵を斬り伏せる。

 仕事と割り切っていたら、いつの間にかここまで来ていたんだよね。


 貴族の坊ちゃん方みたいに立派な家名もなければ、代々受け継ぐ名剣もない。


 あるのは努力とちょびっとの根性。

 それだけでここまで来た感じだねえ。

 だから今さら、自分が平民だの貴族だのと考えることもない。

 そもそも、民主国家のララリカは全ての人が平等だからね。

 他所の国の文化や習慣に対して尊重するし、ある程度は割り切って合わせるけど、過度で高圧的な制度になると反りが合わないかなあ。


 ……まあ、考えたところで頭や胃が痛くなるだけだから、考えないようにしている。

 これも俺が考えた、健康な身体を維持する秘訣。


 そんな俺に与えられた任務。

 それは……。


「レオン」


「はっ」


 俺は踵を鳴らし、敬礼する。

 目の前にいるのは直属の上官。


 近衛騎士副隊長。

 イングリット・フォン・グライフェン隊長補佐。


 今日も隙のない軍服姿だ。

 美人でスタイルも良いのに近衛騎士になるなんて勿体ねえよなあ。

「本日も黒太子殿下とクラウディア様の護衛を頼む」


「承知いたしました」


「変わった様子があれば直ちに報告」


「はっ」


 やり取り短かっ!数秒で終わったよ!

 まあ、近衛騎士の報告など、これで十分か。

 余計なお喋りで、時間は割けられないからね。

 それが軍隊であるんだろうなあ。


「……レオン」


「何でしょう」


「貴様は、疲れているように見えるが」


「問題ありません」


 ええ、問題ありませんとも。

 肉体的には。


 ただ、精神的に少し問題があるだけです。

 もちろん言わない。言えるわけがない。

 原因がお2人なんです、などと。







 帝都シュヴァルツクローネ城。

 "黒き王冠"なんて悪趣味極まりないネーミングセンスは、誰が付けたかわからないけど、俺は皇族居住層の白亜の回廊を歩く。


 磨き抜かれた床。

 豪華な赤絨毯。

 壁には歴代皇帝の肖像画。

 誰が見ても威厳ある宮殿。

 そして、この帝城の主役にして西方最強。


 黒太子ことアルベルト・フォン・グランヴァルツ殿下。


 敵国からは


 『黒い死神』


 『首狩り皇太子』


 『歩く災厄』


 など、ろくでもない異名ばかり付いているが、言いたくなる気持ちも非常によく分かる。


 三度にわたる侵略戦争を起こして3つの国をら全部滅ぼし、敵対する王族わ敵将は数え切れないほど討ち取っている武勇。

 敵軍からしたら悪夢だろあなあ。サイコパスが剣を振り回しながら徘徊している姿を見掛けようものなら、俺でも敵には回したくないね。


 そんな男が皇太子だから当然、帝国でも恐れられているわけよ。わ


 近寄り難い。

 笑わない。

 冷酷無慈悲。

 鉄仮面。


 そんな評価ばかりなんだけど、まあ、妥当だよなあ。

 

 俺が言うのも何だけど


 陰湿。

 根暗。

 もしかしたら人間のような生き物かもしれない。


 も加えたいね。

 

 そして、その婚約者。


 ローゼンベルク公爵家令嬢クラウディア様。

 社交界での名は―『悪役令嬢』と陰で呼ばれている。


 言葉が厳しい。

 笑顔を見せない。

いつも無愛想。

 近寄り難い。


 まあ、これも分かる。

 初めて会った時、俺にも怖かったもん。


 近衛騎士になったばかりの頃、

「護衛はお任せますわ」

 開口一番、ただ、それを言われただけ。


 しかも無表情だよ。

 背筋が凍ったもん、大和国にいる妖魔の、えっと確か……そう雪女!

 まさにこの方のためにある言葉。


 ああ、この人も怖い人なんだ、と……思っていた。

 ……そう、あの日までは。


「レオン」


「はっ」


「護衛、ご苦労」


 黒太子殿下がクラウディア様を連れてサイコパスな視線を投げかけてくる。

 鋭い紅い瞳。

 戦場なら敵兵が腰を抜かす眼差し。

 本当に人間なのか疑わしくなってきたなあ。


「勿体なきお言葉、光栄の極み。ありがとうございます」


 俺は一礼する。

 表情は変えられない。近衛騎士ったら辛いよなあ。


「今日は庭園を散策するとしよう」


「ええ。喜んでお供いたしますわ」


 クラウディア様が微笑んだ。


 ……微笑んだ?


 ああ、来た。

 始まる。

 今日も始まる。

 はい!本日の公開恋愛劇場のお時間ですよ〜!

 観覧料は取られません。代わりに精神力が削られま〜す。


 俺、護衛なんだけどな……。


 2人は並んで歩き始める。

 一定の距離を保って俺も続く。


 警戒は怠らない。

 護衛だから。


 しかし。


「殿下、昨夜はゆっくり眠れまして?」


「君が気になって、少しだけね」


 会話が微妙に噛み合ってねえぇぇぇ。

 完全に寝不足で、思考働いてねえじゃん!


「こうして君の薔薇のような微笑みが見られたことが喜びだよ」


 はい、一発アウト!

 何ですか、その台詞?


 敵将の首をポンポーンと刎ねる人が、言う台詞じゃないでしょう!

 やべえ!吹き出しちまうところだった!


「無理をなさらないでくださいまし」


「君が心配してくれるなら努力はしてみるつもりだ」


「……それで休んで下さるなら、いくらでも心配くらいしますわ」


 少し頬を赤くするクラウディア様。

 黒太子殿下の口元は柔らかくなり笑みを浮かべた。


 ……。

 誰だ、この好青年。

 何かの霊に取り憑かれているんでしょうか?


 疲労で寝るのに"努力してみよう"というのは、ツッコミどころなんだけど、昨日まで敵を震え上がらせてた黒太子は顔はどこへ行った。


 代わりに貴婦人が好む、恋愛小説の主人公じゃないか。

 サイコ皇子、本日は予測不能な運転にシフトしやがった。


 もちろん。

 この言葉はも絶対に口には出さない。


 口にしたら。

 俺の首が飛ぶ。

 比喩ではなく本当に。宙をまっちゃうよぉぉぉん。


 だから俺は真顔のまま、ただ護衛を続ける。

 心の中だけで笑いたい衝動に堪えながら。








  黒太子殿下とクラウディア様は、ゆっくりと庭園の奥へ歩いていく。


 季節は初夏だけあって、色とりどりの薔薇が咲き誇り、噴水の水音が静かな庭園に響いている。


 ……いや、庭園そのものは素晴らしい。そりゃあ、宮廷庭師と建築整備士が、これでもか!って言うくらい手入れしてるからね。

 本当にいい仕事してますよ。


 たが、注目すべきはそこではなく、その中央を歩く男女である。


「クラウディア」


「はい。何でしょう殿下」


「今日はいつもより綺麗だ」


 何だと?おいおいおいおい!

 開幕から最大火力で来るんじゃないよ、サイコ皇子!

 そんな甘い台詞、敵を首チョンパしながら考えてたのか!?その冷酷純度の高い顔をしているくせに、恋愛小説を舐めるようにでも見てたのか?

 やべえ、また吹き出しそうだ!堪えろ!


 おや?クラウディア様は少し頬を染め、視線を逸らしてるじゃないか。

 雪女でも照れることあるんだ。

 これは新しい生態の発見に繋がるぞ!


「……急にそのようなことを言われますと困りますわ」


「お前が困ることなかろう。本当のことだからな」


 追撃ぃぃぃぃぃっ!!

 剣だけじゃなく会話も連撃仕様かよ!

 誰だよ、この仕様にした設計者!


 クラウディア様は咳払いを一つ。


「殿下」


「何だ」


「レオンがおります」


「そうだな」


「…………」


「彼は信頼できる」


 そういう意味じゃねぇぇぇぇぇ!!

 信頼の問題じゃない!

 護衛の前でイチャつくなって話なんですよ!察してやれよ!

 あのう、サイコ皇子は俺を背景の彫像か何かだと思ってません?


 まあ、俺は俺は表情一つ変えない。

 近衛騎士だからだね。


 でも心の中では、床を這いつくばって笑い転げ回っている。

 頼むから誰か交代してくれ!腹筋もつりそうだ。


 ゴブリン百匹討伐の方がまだ気楽だ。

 オーガ3体でもいい。

 竜でもいいぞ。


 少なくとも竜なら俺の前で「君は今日も綺麗だ」なんて、能天気なことは言わない。


 その瞬間だった。


 ――カサッ。


 葉が揺れる音。


 風ではない。


 人だ。


 俺の中の笑いは一瞬で消えた。

 足が止まる。

 視線だけを左前方へ向ける。


 薔薇の植え込み。

 黒い布。

 息を潜める気配……いた。


 右手が自然と剣へ伸びる。

 すると。


「レオン」


 黒太子殿下が、クラウディア様から視線を外さないまま呟いた。


「左前方、距離二十歩」


「……確認しております」


 相変わらず化け物か、この人。ダークブラウンの髪の中に触覚でも隠してるんじゃないのか?


 恋愛モードからサイコモードへの切り替え、僅か0・3秒くらいしかなかったぞ。

 脳みそどういう構造してるんだ。もしかして脳みそ2つあるんじゃないのか?


 黒マントの男が飛び出す。


「死ねぇぇぇぇっ!!」


 俺は一歩踏み込み腰の剣を抜く。


 ―ギィンッ!!


 火花が散った。


「そうはさせん!」


 黒マントの男を睨み据える。

 フードを被って目だけ出ているけど、鼻口は隠れて見えないな。


「賊め、何者だ?黒太子殿下の御前と知っての狼藉であろうな。俺はお前みたいなのを通すほど、給料泥棒じゃない。まあ、飲み代で消えて裕福でもないけどな。世知辛いぜ!」


 男の目がへっ?とした表情となる。

 あっ、サイコ皇子も頭を抑えて呆れてる。

 しまったあ!決め台詞が……庶民感覚丸出しじゃん。

 はずかぴ〜〜〜。


 さて。悔いてもしょぅない。

 公開恋愛劇場は閉幕したので、ここからは、近衛騎士レオン・クラウスの本業をお見せしよう。


 黒い外套が風を裂く。


 庭園の薔薇を踏み散らしながら、黒マントの男は一直線に距離を詰めてきた。


 速い。

 ……こいつ足運びが軽い。

 少なくとも、そこらの野盗とは比べものにならない。


 これは当たりだ。

 賊は暗殺者ギルドの刺客かもひれないな。依頼主も今日は、ずいぶん奮発したもんだ。


 男の短剣が閃く。鋭く、無駄がない。

 喉元を狙った一撃。


 ―キィン!


 俺は半歩だけ身体をずらし、剣の腹で受け流す。

 金属音が庭園に響く。


 すぐさま二撃目。

 三撃目。

 四撃目。

 五撃目。

 どれも急所だけを正確に狙ってくる。


 なるほど。速さ重視ってわけか。

 当たれば終わり。でも俺に当てなければ、ただ忙しいだけだ。


 俺は相手の間合いに付き合わないことにした。

 余裕、ぶっこいて勝てる相手じゃないしね。

 

 一歩引く。

 半歩踏み込む。

 相手の呼吸を読む。


 根気はいるが、剣術の基本だ。


 剣先がわずかにぶれた。


 そこだ!


 ──カンッ!


 剣を軽く打ち上げると男の体勢が一瞬だけ崩れた。


「……っ!」


 男は舌打ちし、距離を取り直す。

 その目に初めて驚きが浮かんだ。

 だが、追い詰められた暗殺者は何をしでかすかわからない。

 充分に用心しないとね。


「近衛騎士ごときが……」


「ごとき、ね」


 俺は肩の力を抜いたまま剣を構える。


「その台詞、試験官にも言われたよ」


「平民風情が近衛騎士になれるものか、って。だけどその結果……」


 剣先を男へ向ける。


「今こうして飯を食っていけてる」


 いやぁ、人生って分からないね。

 あの時落ちてたら、今頃こんな抱腹絶倒間違いなしの、恋愛劇場の最前列に立たされることもなかったんだよな。

 ……それはそれで、ちょっと良いかもしれないなあ。


 男が低く構える。

 今度は一撃必殺ではない。

 あれは連撃で押し切るつもりか。


 考えたな。

 でも残念。

 俺、そういうタイプと昔から何人もやってるんだ。


 そう……冒険者時代。生活のため必死に依頼を受けていた日々。

 盗賊、野党、傭兵、賞金稼ぎ、腕自慢なら嫌というほど相手をしてきたし、剣筋も大体理解している。


 男が踏み込む。

 一閃。

 二閃。

 三閃。


 暴風雨のような素早い斬撃。


 だが……。

 カン!

 カン!

 キィィン!


 俺は最小限の動きだけで受け流していく。


 暗殺者も焦ってるなあ。

 力が入り始めているし、呼吸も浅い。

 あと三手ほどかなあ。


 男の額に汗が浮かぶ。

 さっきまで余裕を漂わせていた暗殺者の顔が、少しずつ崩れていく。


「馬鹿な……」


「何が馬鹿なんだ?」


 俺は苦笑する。


「護衛って仕事はさ」


 一歩踏み込む。


「防戦するだけじゃ務まらない!」


 ギィィン!


 男の剣を大きく弾き上げる。


「止める技術も」


 さらに踏み込む。


「いなす技術も」


 剣先が男の喉元すれすれで止まる。


「必要なんだよ」


 男は動けなかった。

 あと一歩でも動けば、自分から剣先へ飛び込むことになる。


 冷や汗が頬を伝った。

 俺は静かに息を吐く。

 暗殺者相手に講義ぶっこいてるけど、相手もかなり腕前。

 あまり生きた心地しなかったよ。

 

 さて。

 この人、依頼主を喋ってくれるタイプかなあ。


 それとも大和の忍者みたいに「暗殺者に口はない」とか言うのタイプかなあ。


 噂で聞いたけど、大和の忍者は自害するか自爆するって聞いたことあるんだよなあ。

 恐ろしい……忍者は相手したくないなあ。

 すげえな大和は!


 まあ、悪いようにはしないから、できればこいつには前者を選んでくれるようお願いしたいね。

 後者は取り調べが長引くんだよな……。


 男は剣先を喉元に突き付けられたまま、ピクリとも動かない。

 いや、動けないと言った方が正しいのかな。

 俺も剣先は微動だにしていないし、少しでも踏み込めば、暗殺者の首筋に届く。


「さて」


 俺は肩の力を抜いたまま口を開く。


「質問タイムといこうか。」


 男は黙ったままだ。


「依頼主は?」


「……」


「所属は?」


「……」


「好きな食べ物は?」


「……」


「そこは黙るところじゃないだろ」


 思わずツッコんでしまった。


「最後の質問だけでも答えようよ。焼き肉派か?魚派か?俺は焼肉派!」


 黒マントの男の肩がピクリと震える。


 おっ。

 今、怒った?

 ごめんごめん。でも無言って空気が重いんだよ。

 せめてリラックスして喋りやすい雰囲気にしたかったんだよ。


 そんな次の瞬間、男の目付きが変わる。

 ゾクリと背筋を冷たいものが走る。


「レオン!」


 黒太子殿下の声が飛ぶ。

 同時に、黒マントの袖口から小さな水晶球が転がり落ちた。


(……何だ、それ?)


 嫌な予感しかしない。

 俺は反射的に飛び退いた。


 ──パンッ!!


 乾いた破裂音。

 白い煙が一気に広がる。


「煙幕か!」


 視界が真っ白に染まる。

 庭園が見えない。

 クラウディア様や黒太子殿下も。


 うわぁ、目がしみる!

 これ安物じゃないな!結構いい煙幕使ってるじゃないか!


 耳を澄ませる。

 すでに黒マントの男の気配はない。

 

 足音が遠のいていく。

 逃げたな。


 煙の中で剣を構え直すと風が吹いた。


 いや、違う。

 風圧だ。


 黒太子殿下が剣を振るっただけで、煙が左右へ押し流されていく。


 ……え?煙を剣で吹き飛ばした?何その力技。魔法じゃないよね?

 人力だよね?

 この人、本当に人間じゃないかもしれない。生物学者が興味を持ちそうな生態だよな。


 視界が晴れると、黒マントの男は十数歩先まで退いていた。

 その顔には、初めて明確な焦りが浮かんでいる。


「黒太子めっ……!」


 暗殺者が低く呟き黒太子殿下を憎しみを込めて睨みつけると、殿下は静かに剣を下ろした。


「貴様程度では……」


 その声音は、さっきまで恋人へ向けていた柔らかなものとは別人だった。


「私の婚約者にも……」


 一歩。


「私の騎士にも……」


 さらに一歩。


「指一本触れられん」


 空気が変わる。

 庭園全体が凍り付いたようだった。


 うわぁ……出たよ。

 戦場モードのサイコ皇子。


 さっきまで『今日はいつもより綺麗だ』なんて言ってた人と同一人物とは思えない。言い方悪いが人殺し大好きマンな顔してる。

 脳みそ2つ説、いよいよ有力になってきたぞ。


 黒マントの男は後ずさる。

 俺は小さくため息をついた。


「おいおい」


 剣を肩に担ぐ。


「俺の方に逃げた方がいいぞ。黒太子殿下の相手なんかしたら、君の人生、今日で終わるぞ?」


 男はレオンと黒太子殿下を交互に見ると、腰の革袋へ手を伸ばした。


 ……また何か出す気か。

 頼むから今度は煙幕じゃなくて、素直に降参してくれ。


 俺も君も今日はもう十分働いたんだ。

 給料以上の仕事してると思うし、無事に帰って一杯引っ掛かればいいじゃない。そうえば、暗殺者襲撃の場合、労働期間手当って出ないのかなぁ……。


 とにかく、平和的解決をと思った矢先、その願いはあっさり裏切られることになるんだよね。


 男が袋から取り出したのは、小さな黒い結晶だった。


 それを見たアルベルトの紅い瞳が、わずかに細められる。


「レオン」


「はい殿下」


「下がれ」


 その一言には、先ほどまでとは違う緊張が滲んでいた。


 ……冗談抜きで、やばい代物ってことか。

 お願いだから、第一話で城を吹き飛ばすような展開だけは勘弁してくれよ……。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。


 どうも。

 第三近衛騎士団所属、レオン・クラウスです。


 え?

 主人公なのに最後まで護衛しかしてないじゃないかって?


 いや、本当にその通りなんですよ。


 俺も"怖がり巫女のモフ子"に登場する冒険者みたいに、剣を振って魔物を斬って、ついでに敵将を討ち取って「おおっ、主人公!」みたいな活躍をする予定だったんです。


 なのに現実はどうでしょう。


 今回なんて仕事の八割が黒太子殿下とクラウディア様の公開恋愛劇場の最前列。


 残り二割が暗殺者の相手。

 ……割合、おかしくない?


 俺は護衛騎士なんですよ?


 恋愛小説の読者じゃないんですよ?


 しかも給料据え置き。


 せめて「精神的苦労手当」とか「砂糖過多手当」とか付けてくれませんかね。


 あと、黒太子殿下。


 戦場では『黒い死神』だの『首狩り皇太子』だの恐れられてるくせに、クラウディア様の前だけ恋愛小説の主人公になるの、本当にやめてもらえません?


 護衛してるこっちの腹筋が保ちません。


 クラウディア様もクラウディア様です。


 悪役令嬢なんて呼ばれてますけど、殿下の前では普通に可愛いじゃないですか。


 ええい、世間に見せてやれ、その姿を!


 ……いや、やっぱり見せないでください。


 そうなると護衛がもっと増えて、俺の仕事も増える気がします。


 そして最後に現れた、黒い結晶。


 殿下が珍しく真剣な顔をしたってことは、相当ヤバい代物なんでしょう。


 嫌な予感しかしません。


 どうか次も俺が生き残れますように。


 あと、お酒を飲む時間くらいはありますように。


 それでは第二話でまたお会いしましょう。


 その時も俺はきっと真顔です。


 ……心の中では全力でツッコミながら。

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