序章 黒太子と悪役令嬢
私の大好きなジャンルの1つである悪役令嬢もの。
主人公の悪役令嬢(根は本当に可愛くて善人)やお相手役の王子様視点ではなく、モブキャラとして扱われる護衛役の近衛兵レオンを視点に「表では完璧な護衛騎士、内心では毒舌ツッコミ役」という役割を前面に出した作品全体コメディ路線に舵を取っています。
別途、連載している"怖がり巫女のモフ子"と同じ世界観、時系列が舞台です。
モフ子の息抜きに書いているので、こちらも不定期更新になりますが、一人称視点のレオンの物語をご覧いただけると幸いです。
世間は言う。
──黒太子アルベルト。
戦場では王族、敵将の首を次々と討ち取り、侵略してきた3つの王国を滅ぼし、西方諸国から「黒い死神」と恐れられる男。
──悪役令嬢クラウディア。
冷酷、高慢、不愛想。
笑顔ひとつ見せず、貴族たちすら震え上がる公爵令嬢。
……うん。
間違ってはいない。
半分くらいは。
俺はレオン・クラウス。
平民から叩き上げで近衛騎士となり、現在はそのお二人を護衛するという、何とも、非常に、メッチャ胃に悪い任務を任されている。
護衛中は無駄口を叩かない。
報告は簡潔に。
剣を抜くべき時は迷わない。
それが近衛騎士というものらしい……何それ?
だから俺は、今日も表情一つ変えずに、お2人の後ろへ控えている。
……控えているのだが。
見えてしまう。
聞こえてしまう。
黒太子殿下が、クラウディア様の前では耳まで赤くして笑っている姿も。しかも不気味といか言いようのない無表情で。
耳だけ赤くするなんて、どんな身体の構造なんだろう?
クラウディア様が「あなたの身体を案じているだけです」と一言も言えず、不器用な小言ばかり並べている姿も。
そのたびに俺は、心の中だけで盛大に突っ込む。
(また始まったよ。サイコ皇子、本日も平常運転だ!戦場で敵将の首を飛ばしてきた翌日に「君が淹れてくれた紅茶は落ち着く」って何ですか!?情緒が迷子すぎるでしょう)
もし、この人が皇帝に即位したらどうなるか。
国民はきっと讃える。
『偉大なる皇帝アルベルト陛下』。
『西方最強の皇帝』。
『建国以来最高の名君』。
……いや、俺は違う。
『サイコカイザー陛下』
もちろん心の中限定だ。本人を前に口にした瞬間、俺の首が飛ぶ。たぶん比喩じゃなく、本当に飛ぶ。宙をまっちゃうよねえ。
そんなことを考えながらも、俺は今日も剣を握る。
なぜなら、俺は護衛騎士だからだ。
お2人を守るのが仕事。
敵から守る。
刺客から守る。
暗殺者から守る。
……そして、お2人の甘ったるいコント……もとい、空気に当てられて正気を失わないよう、自分自身を守る。これすごく
重要。
それもまた、俺の仕事なのかもしれない。
そんなわけで今日も、グランヴァルツ帝国は平和だった。
俺の胃袋以外は。




