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前世で虐げられた少年は、転生後も人々を信じたかったが、裏切りを機に暴君への道を歩み始めた  作者: 塩見ヒモン


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6/15

我が家らしくなってきた

私は、前の人生を忘れないまま育った。


体がまだ歩くには小さすぎた頃から、プエボという名も、あの暮らしの記憶も、頑なに胸の底へ留まり続けていた。ルシアン・アーデントとして初めて瞼を開いた朝のことも、赤ん坊だった日々から今日までの時間も、途切れぬ一本の糸のように繋がっている。


今の私の体は、子どもの体だ。歳は五つほどで、少し下かもしれないし、少し上かもしれない。大人のように年を数えることはまだできない。けれど、走れること、小さな木剣と小さな弓を握れること、誰も探しに来ない場所へ身を潜められることは、よく知っている。


父は庭の稽古へ私を連れ出したがる。兄は遊びの合間に、木剣の握り方を教えてくれる。母は本を読み聞かせ、家事に立ち働く間も、私を傍らに座らせてくれた。


私は、母の傍がいちばん好きだった。


母は、前の母を思い出させる。顔や声が似ているわけではない。私の頭に触れる手つきに、何かが宿っているのだ。少し離れても怖がらなくていいと諭すように、ゆっくりと撫でてくれる。


二人が別人だということは、承知している。それでも、母が隣で頁をめくってくれる時間だけは、誰も失っていないふりができた。


ある朝、兄が戸口に立って腰に手を当てた。


「ルシアン、稽古の時間だよ」


私は母と並んで床に座っていた。膝には開いた本があり、こっそり取っておいた蜂蜜菓子の欠片が、袖の内側に隠れている。甘い匂いが布越しに立ちのぼるのを、私は本を閉じる音で紛らわした。


「もうちょっとだけ」


兄は靴の先で床板を軽く叩き、呆れた目で私を見下ろした。


「昨日もそう言っただろ」


私は閉じた本の表紙を指でなぞりながら、何食わぬ顔で兄を見上げた。


「それなら、昨日もまだ終わってないってことだよ」


兄の口から長い溜息が漏れた。母は俯いて、本の陰で口元を綻ばせている。肩が小さく震えていた。


兄が本気で怒っていないことは、知っている。稽古から逃げる私を捕まえたときだけ、兄は説教を始める。だから私は、捕まらないようにしていた。


剣と弓の稽古は、貴族の家の男児がまだ幼いうちに始まるものらしい。四つか五つの頃から、武器の持ち方を正しく身につけるのだという。ヴァレニオ王国のどの家でも同じなのかは知らない。けれど父も兄も、それを当然のことと考えていた。


私にとっては、隠れることも当然だった。


兄が背を向けて私を探しに行くと、私はカーテンの裏へ滑り込んだ。分厚い布の埃っぽい匂いが鼻先をくすぐる。隙間から、戸口を通り過ぎる兄の靴の先が覗いた。


「ルシアン?」


私は息を止め、布の襞に頬を押し当てた。


「さっきまでここにいたわよ」


母の声は、のんびりと落ち着き払っていた。兄の足が止まり、床板が軋む。


「だから心配なんだよ」


兄の足音は遠ざかり、廊下の奥へ溶けていった。私はそれが完全に消えるまで待ってから、カーテンの陰を抜け、母の隣へ戻った。


隠れ場所を見つけるのは得意だった。机の下、衣装棚の裏、滅多に開かれない納戸。使用人たちさえ知らない隙間を、見つけることもある。


みんな、一度は私を探した。父は庭の真ん中に立って私の名を呼んだ。兄は部屋という部屋を調べて回った。使用人たちは戸棚を開け、カーテンの裏を覗き込んだ。


それでも、誰も私を見つけられなかった。


母は、探索が長引いたところで観念したように息を吐き、皆を制して、私が自分から出てくるのを待つように言う。


私が出ていくのは、たいてい空腹のときだ。とりわけ、どこかへ隠した甘いものを取りに戻りたくなったとき。


私はいつも、食べ物を少しだけ取り分けておく。パン、果物、菓子。家に食べ物がないわけではない。食卓にはいつも皿が並び、母はおかわりを頼む私を一度も咎めなかった。


それでも、私は隠してしまう。体のほうが、優しい言葉よりも古い習慣を信じているのだ。


父や兄に見つかることは滅多にない。兄に見つかったときは、目の前に座り込まれて説教が始まる。


「食べたいなら言えばいいんだ。隠さなくていいんだよ」


私は神妙に頷き、その日のうちにまた別の場所へ食べ物を隠した。


母は私を叱らなかった。隠し場所に虫や獣が寄らないよう確かめ、長く置かれて傷んだものをそっと取り替えてくれる。私が布の山の陰から菓子を取り出すときも、気づかないふりをしてくれた。


だから私は、母の傍にいるといくらか楽だった。


父や兄や使用人たちとは、まだ距離を置いている。彼らが私を傷つけたことは一度もない。それは分かっている。けれど、頭で理解したことを、体が信じるとは限らなかった。


見知らぬ女の人が家を訪れると、私は声をかけられる前に姿を消す。使用人たちの顔や足音や声には、もう胸がざわつかない。ただ、まだ知らない女の人を前にすると、うなじが強張って動かなくなる。狭い場所へ潜り込み、息を殺し、家が静まり返るのを待つ。


無理に引きずり出されたことは、一度もない。少なくとも、まだ。


家族揃っての夕食も、覚えるのが難しかった。背筋を伸ばし、食器を正しく使い、手を伸ばす前に待たなければならない。父は貴族の作法を、根気強く教えようとしてくれた。


「フォークは左手だ」


私は卓の下で握り直し、フォークを左手に移した。


「背中を丸めるな」


私は椅子の背に押されるように、背筋を真っ直ぐに伸ばした。


「食べるのが早すぎるぞ」


私は匙を持つ手を、ゆっくりと遅くした。


そこで皿の上のパンが目に入り、私は教わったことをすべて忘れてしまった。


母も作法を教えようとしてくれた。けれど、母は授業を中断しては、お腹はいっぱいになったか、お部屋へ戻りたいかと私に訊ねてばかりいた。


私も、人の少ない家の中で母と食べるほうが好きだった。どの匙を使えばいいのか、考えずに済むからだ。


食事のとき以外は、母の傍で本を読むのが好きだった。知らない絵や言葉について、ときどき母に訊ねる。何も訊かず、ただ頁をめくりながら、母の声に耳を傾けることもあった。


弓も好きだった。


赤ん坊の頃に選んだ小さな木の弓は、今では掌にしっくりと馴染む。父は足を開いて立つ姿勢と、弦をゆっくり引くやり方を教えてくれた。兄は的を狙う私の肘を、そっと支えてくれる。


的の中心に当たるとは限らない。それでも、矢が板に突き立つ音が好きだった。


タン、と。


乾いた音が、まっすぐ的に吸い込まれる。


母は窓辺から、よく私を見守っていた。矢が当たれば、微笑む。外れても、変わらず微笑んでいる。


母に幸せでいてほしかった。だから私は、母の近くで本を読み、食べ、弓を引く。母が笑ってくれている間は、自分がちゃんとやれているのだと思えた。


母がそれだけで幸せなのかどうかは、分からない。


けれど、母が隣に座って頁をめくってくれるとき、稽古のあとで肩にもたれさせてくれるとき、私は部屋の外の足音を数えるのをやめられた。


今のところ、この家は家のように感じられる。


そして、もし私が長く隠れすぎてしまったとしても、叱らずに出てくるのを待ってくれる人を、私は知っている。


母だ。

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