ぼくがえらびたいもの!
ベビーベッドの柵の内側に、私は座らされていた。柵の木肌は磨き込まれていて、昼の光を鈍く返している。そのまわりを母と父と兄が取り囲み、三人分の影が私の膝に重なっていた。乳と蜜蝋の匂いが混じった温い空気が、小さな箱の中にこもっている。
戸口の近くには、四人の使用人が横一列に並んでいた。誰も口を開かず、組んだ手の位置まで揃えたまま、私の前に置かれた品々へ視線を注いでいる。
本が一冊。数枚の硬貨。小さな弓。木の剣。
どれも赤ん坊の手で握れるように作られているのに、剣と弓だけは私の手のひらよりまだ大きく見えた。硬貨は光を弾いて、敷布の上で小さく瞬いている。私は品物をひとつずつ、順番に見つめた。
父は母の隣に立ち、口元をほころばせていた。兄は柵のすぐそばにしゃがみ込み、誰よりも張り切った顔で身を乗り出している。膝の下で床板が小さく鳴った。
「ルシアンが大きくなったとき、何に心を惹かれるのか見てみようじゃないか」
父の声が部屋に響いた。母は柵の縁に指を添え、私のほうへ身を傾ける。指先が木目をなぞるように落ち着きなく動いていた。
「ルシアン、お金は取らないでね。本にしましょうね」
その柔らかな声を遮るように、父が首をかしげた。
「どうして本なんだ」
問いが終わるのを待たず、兄が割って入った。身を乗り出しすぎて、鼻先が柵に触れそうになっている。
「剣のほうがいいよ。ルシアンは剣を選ばなきゃ」
父は腕を組み、深く顎を引いた。兄の言葉を、そのまま自分のものにするような顔だった。
「そのとおりだ。男の子なら、剣の振り方くらい知っておかないとな」
母はそんな二人へ顔を向け、眉をわずかに寄せた。柵にかけた指に、ほんの少し力がこもっている。
「この子はまだ赤ん坊なのよ。怪我をするかもしれないものを、無理に選ばせないで」
三人の声が頭の上を行き交うあいだ、私は自分の手を口に入れていた。指をしゃぶると、言葉にできない安らぎが舌の上に広がる。頭の中に音が詰め込まれすぎて息苦しくなったとき、この癖が私を少しだけ静かにしてくれた。
前の人生で、私はいつも、恐怖が大きくなりすぎない方法を探していた。足音を数えること。ひび割れを見つめること。すべてが過ぎ去るまで黙っていること。いまはただ、自分の手を吸っていればいい。
「ルシアン」
母の声が、ひときわ柔らかく降りてきた。
「ひとつ選んでごらんなさい」
私は口から手を引き抜いた。濡れた指先が空気に触れて、ひやりとする。その指をゆっくりと前へ伸ばした。
部屋の音が、潮が引くように消えていった。母は口を閉ざし、父と兄もやり取りをやめている。戸口の使用人たちまで、衣擦れひとつ立てない。誰もが、私の手が動くのを待っていた。私は指を宙に止めた。
(何を取ればいいんだろう)
叱られたくなかった。かつては、間違った選択がひとつあるだけで、夜がずっと長くなったからだ。新しい家族が、気に入らない品を選んだ私に腹を立てないとは、まだ言い切れなかった。
母は本を取れと願っている。父と兄は剣を望んでいる。
だから、本ではない。硬貨でもない。
私の手は木の剣へ向かった。指が柄に触れ、ざらついた木肌の感触が掌に食い込む。持てる限りの力で、それを握りしめた。
「ルシアンが剣を選んだぞ!」
兄の声が弾けた。父が腹の底から笑い、兄は両腕を高く突き上げる。まるで大きな試合に勝ったのは私ではなく、自分たちのほうだと言わんばかりだった。
私は二人の顔を見つめた。誰もが私の選択を喜んでいる。それなのに、どこかが欠けているような感覚が、胸の奥から消えなかった。
母を失望させたくなかった。母は私に優しい。父も私を見るたびに笑ってくれる。兄は、大きくなったら剣を教えると約束してくれた。みんな、私にとって大切な人たちだった。
だから、空いているほうの手が、もう一度動いた。
指が、剣の隣に置かれた小さな弓をつかむ。その瞬間、部屋の笑い声がぴたりと途切れた。
母の目が大きく見開かれている。父も兄も黙り込み、使用人たちの列にも動きがない。私は母の顔を見上げ、喜んでいるのか落胆しているのかを読み取ろうとした。けれど、その表情は私には読めなかった。
(間違えたのかな)
掌に汗がにじみ、握った弓の弦が湿っていく。
けれど、少しの間のあとで、母の口元がほどけるように笑みを広げた。父が小さく吹き出し、兄は私の手の中の弓を、目を輝かせて見つめている。
「両方なのか」
父が目を細めると、兄が声を弾ませて身を揺らした。
「ルシアンは剣士で、弓使いにもなるんだ!」
剣士や弓使いが何なのか、私には分からない。両方を本当に望んでいるのかどうかも分からなかった。ただ、誰も怒っていないという事実だけが、胸の底にじんわりと染みていく。
戸口のほうから拍手が起こった。四人の使用人がそろって祝いの言葉を口にする。張りつめていた空気は、笑い声と明るいざわめきに塗り替えられていった。
私は人々の真ん中に座ったまま、手の中の二つを見下ろした。木の剣は小さく、弓も小さい。どちらも私の背丈より短かった。手首を振ってみると、剣の先がわずかに揺れ、弓も一緒に動く。
部屋にまた笑い声が弾けた。
何がおかしいのか、私には分からない。それでも今度は、みんなが笑うのに合わせて、私も口の端を持ち上げていた。




