第三話 柊サクヤ
首だけで振り返ると、さっきの他校の少女がいた。彼女は軽く息を切らしていた。
「無視しなくてもいいじゃない」
そう言うと、少女はうつむく。
「なにか用か?」
おれは足もとの石を蹴とばしてから体を少女の方に向けた。
「今日は学校が休みだったから、それで……」
少女は顔を上げたが、目を右に左にそわそわさせている。おれは「休みならなんで制服なんだ、ていうかなんで鞄持ってんの?」という言葉がのどまで出かかった。
「そうか。別にあんな目立つところで待たなくてもよかったのに」
「だってあなた携帯持ってないじゃない」
代わりに言ったおれの言葉に少女は即座に反応した。おれはうなじのあたりを手で掻いた。
「そもそも学校には携帯持って行っちゃいけないんだけどな」
言いながら、横を通りすぎていく生徒たちが物珍しい視線を少女に投げているのに、おれは気づいた。
「それで、なにか用か?」
おれはもう一度言った。少女はおれと目を合わせたがすぐにそらした。
「いや、その、もしよかったら……お昼でもどうかと思ったんだけど」
正直、最後の方は声が小さくて聞き取るのに苦労した。おれは指で髪の毛を掻いた。
「金持ってないんだけど」
「おごるわよ、そのくらい」
おれは親指で横の髪を掻きながら少し考える。
「一回家に帰っていいか? 帰りに飯食って帰るのって、校則で禁止されてるんだよね」
「え? ああ、うん、いいけど」
「そうか、じゃあ行こう」
おれは踵をかえして歩き出した。すぐに少女が追いかけてきて左を歩き出したが、おれは手で示して彼女と位置を変わった。おれの左をトラックが走っていった。
それから、十五~二十分くらいかけて家まで歩いたのだが、おれから少女に話しかけることはなかった。話題ならいくらでもあったのだろうが、特段その必要性を感じなかった。
おれは収穫間近の田んぼとか、秋晴れの空を眺めたりしていた。ときおり少女が「このへんってほんとに田舎なのね」とか「途中道に迷いそうになった」とかいう度、おれは適当に返事をした。
家(マンションの五階)に帰ると、そこらの服をひっつかんで着替えた。途中でおれだけ私服なのも変だと思い、制服の方がいいかと少女に尋ねたが、気にしないと彼女は言った。
おれが着替えている間、少女はソファに座って家の中を見たり、本棚をあさったりしていた。




