第一章4 『妙な一日』
窓から朝日が差し込み、鳥たちがのんきに――布団の下で眠る青年の惨状などまるで気にせず――穏やかな歌を歌っていた。
目を開ける。目の下には深いクマ。髪は――ボサボサでべたつき、フケまみれ――まるで意志でも持っているかのように額に垂れてきた。
『くそ……』
その思考を終える暇もなかった。国王が扉を蹴破るような勢いで部屋に入ってきたのだ。
「食堂に来てもらう」
腕を引っ張って立たせる。パジャマのまま、髪もボサボサのまま、廊下を引きずられていく。
「ちょっ、何するんですか!」
二、三秒抵抗して、結局あきらめた。国王が食堂の扉を開けると、そこには王妃と王女がすでに座って待っていた。それを確認して、ようやく手を離す。
「すまない。食べてもらわないと困るんだ。お前のためでもある」
顔を背けて不機嫌さを見せつつも、結局は席まで歩いていった。ただ今回は、いつもより少しだけ皆に近い席に座った。
視線をカトラリーに落とす。磨かれたスプーンの表面に自分の顔が映っている。一瞬長く見つめすぎた――と思った瞬間、理由もなく、その反射が話しかけてきた。
『消えちまえばいいのに。お前がいると全部台無しだ、間抜けが』
「……」
慌てて視線を逸らす。ちょうどそのとき、使用人たちが自分の気分よりずっと良い匂いのする料理を運び込んできた。
国王が横目でこちらを見る。
「髪を切って、新しい服を買った方がいい。食事のあとでな。はっはっは」
「はぁ……」
しばらく無言で食事が続いた。ようやく国王が、昨夜からずっと待ち構えていた質問を切り出した。
「えー……そうだ」咳払い、それから真っ直ぐこちらを見据えて、「昨日話していた書庫とは何のことだ?」
書庫の記憶が一気に押し寄せる。まだ言葉にもできない疑問を山ほど引き連れて。
「わ、わかりません。ただ扉を開けたら、そこにあったんです。すごく大きくて、情報がたくさんあって……使徒とかいう本があって――」
国王が手を挙げて遮った。
「その名は口にするな。すべての王国で、十二人の罪の魔導士の名を口にすることは禁じられている」
視線を落とす。隠しきれない緊張が滲む。
「わかりました……」
国王は明らかに震える手のまま、ずっと抱えていた話を切り出した。
「魔力を鍛え、その見た目を変える必要がある。近いうちに魔法学院に入れよう」
「わかりました」
席を立ち、そのまま出ていこうとして、途中で足を止めた。
「あの……見た目を変えるお金がないんですけど」
国王は微笑み、それ以上の説明もなく行けと手振りで示した。
知らぬ間に、西郷孝盛の最初の使命は始まっていた――召喚されたての浮浪者じみた見た目を、最低限見られるものに変えること。
城を出た。十歩も歩かないうちに、後ろから王女の声が追いついてきた。
「ま、待ってぇ!」
息を切らせながら肩に手を置く。
「お父様に、あなたに付いていけって言われたの」
孝盛はあきらめ気味に笑って、二人並んで首都を歩いた。市民たちが横目でこちらを窺い、隣を歩く青年が何者なのか囁き合っている――もし彼らが知ったら、それがほかでもない、召喚された勇者だと知ったら。
「どこに行こうか?」王女が本当に興味深そうに尋ねた。
前触れもなく、背筋を悪寒が走った。自分のものではない声が、頭の奥で囁く。血が凍るように。
『まずいことが起きる。姫を救え、さもなくば死ぬ』
腕が勝手に、自分のものではないかのように喉元へと曲がった。混乱しながら周囲を見回し、その命令の出どころを探す。
『一緒に唱えろ。クルシファクシス』
その瞬間、群衆の中から誰かが剣を振りかざして飛び出し、まっすぐこちらへ向かってきた。
『くそっ!』孝盛は姫の前へ飛び出しながら思う。落ち着けと言わんばかりに手を挙げるが、その相手には落ち着く気など毛頭ない。
声はますます強まり、もう抑えようがなくなった。手を襲撃者へ向ける。言葉が勝手に口から飛び出した。
「――クルシファクシス!」
真紅の光が手のひらから放たれ、男の体を貫いた。体は硬直したまま吹き飛び、血の一滴すら残さない。周囲の人々が悲鳴をかみ殺しながら後退り、まるで孝盛自身が怪物であるかのように距離を取った。姫でさえ、一歩後ずさった。
名の知れた騎士がひとり、群衆の中から現れ、自らの剣をこちらへ向けた。
「――貴様、何をした!?」
まだ動揺の抜けきらないまま、手を下ろす。騎士が近づき、顔面に一発、鋭い拳を叩き込んだ。孝盛はそのまま地面に倒れ込む。
「なぜ十二の禁呪を使った!? あの……名を呼ぶことすら許されぬ者の!」
「し、知らなかったんです……」
騎士は姫の方へ向き直る。
「ご無事ですか、姫様」
彼女はまだ青ざめた顔で頷いた。
国王が群衆の中から現れ、安堵よりも怒りに近い叫びを上げた。
「――何をしているんだ、ディアルス!」
「この者、禁呪を使いました、陛下」
「彼は召喚された勇者だぞ!」
孝盛は真顔のまま地面から立ち上がった。頬はまだ熱を持っている。騎士が二人に謝罪したが、その手の震えを完全に鎮めるには遅すぎた。青年は何も言わず、散り散りになった群衆の方へ振り返る。
「誰か、髪を切れる店知りませんか」
いくつもの手が、ほぼ同時に同じ方向を指した。何も言わず、その店に入った。
「カットお願いします」
理容師は褐色の肌に筋肉質な体つき、胸の底から響くような低い声の男だった。
「どのようなカットに?」
「短めで。でもやりすぎないやつで」
男は頷き、椅子を指し示した。誰も持っていないハサミが宙にひとりでに浮かび上がり、勝手に動き出した。
『うおっ』
ハサミが止まる。カットは終わっていた。立ち上がり、鏡を覗く――髪は短く、やりすぎず整えられ、ようやく普通の人間らしい反射を映し出していた。笑いかけたが、すぐにいつもの小さな問題を思い出した。
「すみません……お金、持ってないんです。でも、何でもお返しします」
理容師は姿勢を正し、手を振って気にするなという素振り。
「気にしなくていい。俺のおごりだ」
孝盛は――今度こそ本当に――笑い、店を出た。その日は服屋を何軒も回り、夕方も過ぎた頃にようやく城へ戻った。誰にも挨拶せず、まっすぐ自室へ向かう。
両腕に袋を提げたまま、ベッドに倒れ込んだ。
「長い一日だった……」
大きなあくびをひとつ。気づけばそのまま眠りに落ちていた。月明かりが窓から差し込み、涼しい風が頬を撫でる。
明日こそが本当の一日になる。今わかっているのは、それだけだった。




