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第5話「八百四十二万一千九百九十二回目のご来店」


 残り。


 十秒。


 秩序ちゃんはプリンターの前に立っていた。


『未観測情報共有』


『開始まで』


 00:00:09


 隣には渾沌ちゃん。


「何が来ると思う?」


「考えないようにしています」


「未来とか?」


「考えないようにしています」


「明日の売上わかったら便利ね」


「考えないようにしています」


「宝くじ」


「黙ってください」


 00:00:05


 秩序ちゃんは身構えた。


 これまで。


 見え方が混ざった。


 記憶が混ざった。


 感情が混ざった。


 なら次は。


 まだ見ていない情報。


 未来。


 未知。


 あるいは。


 認識してはいけない何か。


 00:00:03


「秩序ちゃん」


「はい」


「もし私が急に全部知ったら」


「はい」


「とりあえず今日の晩ごはん何がいいか聞いて」


「なぜですか」


「全知の有効活用」


「却下します」


 00:00:01


 ゼロ。


 紙が止まった。


 照明。


 正常。


 壁。


 正常。


 床。


 正常。


 秩序ちゃんの頭。


 正常。


「…………」


「…………」


 一分。


 何も起きない。


 三分。


 何も起きない。


 五分。


「壊れた?」


 渾沌ちゃんが言った。


 その瞬間。


 正面玄関の自動ドアが開いた。


『いらっしゃいませ』


 自動音声。


 秩序ちゃんは反射的に入口を見る。


 そして。


 動けなくなった。


 入ってきたものは。


 大きかった。


 大きい。


 などという表現では足りない。


 入口の向こう。


 空が消えていた。


 黒い。


 壁。


 違う。


 表面。


 それが。


 動いている。


 ゆっくり。


 上へ。


 上へ。


 秩序ちゃんは首を反らす。


 視界に収まらない。


 表面には。


 街があった。


「…………」


 建物。


 道路。


 光。


 雲。


 海。


 山脈。


 それらが。


 何かの身体の上に存在している。


 距離を測定。


 不能。


 存在純度。


 100%。


 全長推定。


 数値が出る。


 4,718メートル。


「…………」


 昨日まで。


 秩序ちゃんの常識なら。


 ここで一つの疑問が生じた。


 どうやって。


 入る。


 店の入口は。


 二メートル少々。


 相手は。


 四キロメートル以上。


 だが。


 入ってきた。


 入口は広がっていない。


 店も大きくなっていない。


 客も縮んでいない。


 そのまま。


 入った。


 そして。


 レジ前に立った。


 秩序ちゃんは。


 四キロメートル以上の何かを。


 見上げた。


「…………」


「秩序ちゃん」


 渾沌ちゃん。


「何ですか」


「誰もいないけど」


「…………」


 秩序ちゃん。


 横を見る。


「います」


「どこ」


「目の前です」


「え?」


「巨大な……」


 言いかけて。


 止める。


 渾沌ちゃんの視線。


 同じ場所。


 だが。


 焦点の高さが。


 自分と違う。


 秩序ちゃんは聞いた。


「何が見えていますか」


「女の子」


「…………」


「かわいい」


「身長は」


「私たちと同じくらい」


「服装」


「なんか白い」


「それ以上は結構です」


「聞いたの秩序ちゃんじゃん」


 そして。


 厨房から。


 別のクルー。


「うわ」


「何が見えますか」


「船」


「船?」


「宇宙船」


「大きさは」


「店内いっぱい」


 別のクルー。


「何言ってるんですか?」


「あなたは?」


「虫です」


「虫?」


「めちゃくちゃ脚あります」


 別。


「私は建物に見える」


 別。


「光の柱」


 別。


「何も見えない」


 別。


「音だけする」


 秩序ちゃん。


 息を止める。


 また。


 観測差異。


 だが。


 今回は。


 今までと違う。


 相手そのものが。


 各観測者に合わせて。


 違う形式へ。


 翻訳されている。


 そして。


 その客が。


 口を開いた。


 秩序ちゃんには。


 山脈が。


 動いたように見えた。


「いつもの」


 声。


 普通だった。


 若い女性の声。


「…………」


 秩序ちゃん。


 レジを見る。


「申し訳ありません」


 接客。


 まず接客。


「ご注文内容を確認させていただけますか」


 客。


 少し首を傾げた。


 秩序ちゃんの視界では。


 大陸が傾いた。


「いつもの」


「…………」


「忘れた?」


 渾沌ちゃんが小声。


「常連?」


「知りません」


「怒らせたらまずそう」


「あなたには女の子でしょう」


「秩序ちゃんには?」


「四千七百十八メートルあります」


「でっか」


 客。


「今日は急いでる」


「少々お待ちください」


 秩序ちゃんは。


 顧客検索を開く。


 本来。


 ぱんでむの客に。


 まともな顧客データベースなどない。


 少なくとも。


 昨日までは。


 なかった。


 検索欄。


 なぜか。


 文字が入っている。


『照合中』


 数秒。


『一致』


 顧客情報。


 秩序ちゃん。


 読む。


『氏名』


 空欄。


『種別』


 空欄。


『所属世界』


 空欄。


『初回来店』


 記録開始以前。


「…………」


 次。


『来店回数』


 数字。


 秩序ちゃんは。


 一桁ずつ数えた。


 8,421,991回。


「…………」


「何?」


「八百四十二万一千九百九十一回」


「何が」


「来店回数です」


「常連じゃん」


「常連という範囲でしょうか」


 画面。


 更新。


 入店が記録される。


 8,421,992回。


 客。


「まだ?」


「ご注文履歴を確認しています」


『注文履歴』


 開く。


 数百万件。


 同じ注文。


 繰り返し。


 繰り返し。


 繰り返し。


 商品名。


『境界肉ダブル』


『星殻フライ』


『無糖虚空』


 秩序ちゃん。


 黙る。


「…………」


「何頼むの?」


「境界肉ダブル、星殻フライ、無糖虚空」


「知らない」


「私もです」


「メニューにある?」


「ありません」


 客。


「あるよ」


 二人。


 見る。


「昨日も食べた」


「昨日?」


「うん」


「こちらの店舗で?」


 客。


 また。


 不思議そうに首を傾げる。


「こちら?」


「はい」


「…………」


 数秒。


 そして。


 笑った。


「店は店でしょ」


 ◇


 厨房。


 注文データを送信。


 当然。


 エラー。


『商品コード不明』


 秩序ちゃん。


 少し安心した。


 正常な反応。


 しかし。


 次。


『他営業履歴を参照します』


「待って」


 画面。


『レシピ取得』


『調理設備翻訳』


『食材翻訳』


『提供形式翻訳』


 厨房。


 変化。


 ではなかった。


 鉄板は。


 鉄板のまま。


 フライヤーも。


 冷蔵庫も。


 何も変わらない。


 なのに。


 渾沌ちゃんが。


 突然。


 動いた。


「…………」


 冷蔵庫。


 開ける。


 牛肉。


 取り出す。


 普通のパティ。


 鉄板へ。


 焼く。


「渾沌ちゃん?」


「何」


「何をしていますか」


「境界肉ダブル」


「作れるんですか」


「作れる」


「どうやって」


「普通に」


「レシピは?」


「知ってる」


 秩序ちゃん。


 凍る。


「どこで覚えました」


「…………」


 渾沌ちゃん。


 手を止める。


「わかんない」


 それでも。


 身体は動く。


 パティ。


 二枚。


 チーズではない。


 何か。


 しかし秩序ちゃんには。


 チーズに見える。


「それは何ですか」


「チーズ」


「本当に?」


「多分」


 存在測定。


 表示。


『世界内名称:チーズ』


『営業履歴名称:凝固境界膜』


「…………」


「チーズじゃん」


「違います」


「見た目チーズ」


「名前が怖すぎます」


「食べられるならいいでしょ」


「そういう問題では」


 その瞬間。


 秩序ちゃん。


 気づく。


 食材は。


 こちらのもの。


 調理器具も。


 こちら。


 調理者も。


 渾沌ちゃん。


 なのに。


 別の営業履歴に存在する料理を。


 こちらの世界で成立する材料へ。


 置き換えている。


「翻訳……」


 第3話。


 冷蔵庫の向こう。


 別の秩序ちゃんが言った。


『継ぎ目は、分断ではありません』


『翻訳です』


 ようやく。


 意味が。


 少しだけ。


 見えた。


 ◇


 星殻フライ。


 こちらでは。


 ポテトだった。


 ただし。


 一本だけ。


 秩序ちゃんが触れる。


 指先。


 熱い。


 普通。


 存在測定。


『世界内名称:フライドポテト』


『営業履歴名称:星殻』


『原材料』


 表示不能。


「…………」


 無糖虚空。


 こちらでは。


 黒い炭酸飲料。


「コーラ?」


「多分」


「無糖?」


「多分」


「虚空?」


「多分」


「全部多分じゃないですか」


「飲めばわかる」


「飲みません」


 完成。


 トレー。


 見た目。


 普通のバーガーセット。


 しかし。


 客の前へ置いた瞬間。


 秩序ちゃんの視界。


 変わった。


 バーガー。


 ではない。


 巨大な。


 黒い球体。


 表面を。


 無数の都市が覆っている。


 その中央。


 亀裂。


 内部。


 星。


 星。


 星。


 数えきれない恒星。


 それらを。


 二枚の。


 何かが。


 挟んでいる。


「…………」


 秩序ちゃん。


 声が出ない。


 渾沌ちゃんには。


「普通においしそう」


 厨房のクルー。


「宇宙船の燃料カートリッジみたい」


 別。


「赤ちゃん」


「何がですか」


「バーガーが」


「もう言わなくて結構です」


 客。


 受け取る。


「ありがと」


 食べる。


 秩序ちゃんには。


 山脈が。


 星々を噛み砕いているように見えた。


 一口。


 その瞬間。


 店内の照明が。


 一瞬。


 夜空になった。


 星。


 無数。


 そして。


 戻る。


「…………」


 客。


「うん」


 一口。


「今日はちょっと薄い」


「申し訳ありません」


 反射的に謝った。


「前の方がよかった」


「前とは」


 聞いてしまう。


 客。


 考える。


「三千二百十一回前」


「比較できません」


「厨房変わった?」


「…………」


 秩序ちゃん。


 答えない。


「まあいいや」


 食べる。


 完食。


 立ち上がる。


「じゃ」


「ありがとうございました」


 客。


 出口へ。


 自動ドア。


 開く。


 四千七百十八メートルの身体が。


 二メートルの扉を。


 普通に通る。


 外。


 消える。


 ドア。


 閉じる。


 静寂。


「…………」


「…………」


 渾沌ちゃん。


「普通のお客だったね」


「どこがですか」


「注文して食べて帰った」


「そういう意味なら」


 秩序ちゃん。


 少し考える。


「……はい」


 確かに。


 そうだった。


 異常なのは。


 客ではない。


 客にとっては。


 いつもの店。


 いつもの注文。


 いつもの食事。


 おかしいのは。


 こちらが。


 その「いつも」を知らなかったこと。


 ◇


 秩序ちゃん。


 顧客履歴を開く。


 まだ残っている。


 8,421,992回。


 その中。


 一件。


 詳細。


『来店地点』


 知らない地名。


 次。


 別の地点。


 次。


 惑星番号。


 次。


 座標。


 次。


 意味不明な記号。


 次。


 ただ一文字。


『胃』


 次。


『死亡後』


 次。


『西東京市』


「…………」


 秩序ちゃん。


 スクロール。


 全部。


 同じ客。


 全部。


 ぱんでむ。


 店舗住所だけが。


 違う。


 いや。


 店舗という概念すら。


 同じではない。


 それでも。


 来店履歴は。


 一つに繋がっている。


「渾沌ちゃん」


「何」


「昨日までの仮説を修正します」


「どれ?」


「ほぼ全部です」


「いっぱいあるけど」


「全部です」


 秩序ちゃん。


 画面を見る。


「私たちは」


 言葉。


 慎重に。


「別々のぱんでむが接続していると考えていました」


「違うの?」


「少なくとも」


 履歴。


 8,421,992。


「この記録は、そう扱っていません」


「じゃあ何」


「一店舗です」


「…………」


「この客の履歴上」


「うん」


「全部」


 秩序ちゃん。


 スクロール。


 都市。


 宇宙。


 異世界。


 死後。


 生体内部。


 現代日本。


「同じ店です」


「…………」


 渾沌ちゃん。


 少し考える。


「チェーン店じゃなくて?」


「違います」


「支店?」


「違います」


「同じ名前の別店舗?」


「違います」


「じゃあ」


 渾沌ちゃん。


 店内を見る。


「これ全部?」


「わかりません」


「この店が?」


「わかりません」


「四キロの客が来る店も?」


「わかりません」


「死後も?」


「わかりません」


「宇宙も?」


「わかりません」


「何もわかってないじゃん」


「はい」


 秩序ちゃん。


 画面を閉じる。


「ようやく」


 小さく。


「そのことがわかりました」


 ◇


 その日の午後。


 二人目が来た。


 自動ドア。


 開く。


『いらっしゃいませ』


 秩序ちゃん。


 身構える。


 しかし。


 普通。


 中年男性。


 スーツ。


 鞄。


 疲れた顔。


「いらっしゃいませ」


「チーズバーガーセット」


「かしこまりました」


 普通。


 あまりにも。


 普通。


 秩序ちゃん。


 逆に。


 警戒する。


 会計。


 780円。


 正常。


「番号札をお持ちください」


「はい」


 男性。


 席へ。


 その瞬間。


 レジ。


 顧客照合。


『一致』


「…………」


 秩序ちゃん。


 見る。


『来店回数』


 1回。


「…………」


 初来店。


 普通。


 何もない。


 その下。


『所属実在』


 文字。


『基準』


 秩序ちゃん。


 目を細める。


「基準?」


 詳細。


 開く。


『世界適応率』


 0%


『翻訳率』


 0%


『店舗変形率』


 0%


 そして。


『PANDEMONIUM STATUS』


 ORIGINAL


 秩序ちゃん。


 完全に。


 止まった。


「渾沌ちゃん」


「今度は何」


「来てください」


「またでかい?」


「普通です」


「じゃあいいじゃん」


「普通だからです」


 渾沌ちゃん。


 来る。


 画面を見る。


「オリジナル?」


「はい」


「何の?」


「…………」


 二人。


 男性を見る。


 普通の人。


 普通のスーツ。


 普通のスマートフォン。


 普通の店内。


 そして。


 男性の背後。


 窓の外。


 いつもの街。


 車。


 自転車。


 信号。


 コンビニ。


 空。


 何も。


 異常がない。


「秩序ちゃん」


「はい」


「これ」


「はい」


「私たちの店がオリジナルってこと?」


「違います」


「なんでわかるの」


「表示を見てください」


 指差す。


『所属実在』


『基準』


「客の方?」


「はい」


 男性がいる世界。


 その世界におけるぱんでむ。


 適応率0。


 翻訳率0。


 変形率0。


 つまり。


 その世界では。


 ぱんでむは。


 何にも適応していない。


「…………」


 秩序ちゃん。


 喉が乾く。


 もし。


 これが。


 本当に。


 基準形なら。


 どんな店なのか。


 宇宙的施設?


 超巨大構造物?


 世界そのもの?


 理解不能な何か?


 違った。


 男性が。


 商品を受け取る。


「ありがとうございます」


「ありがとうございました」


 席。


 座る。


 包み紙を開く。


 食べる。


 普通のバーガー。


 普通のポテト。


 普通のコーラ。


 そして。


 秩序ちゃんの左目。


 継ぎ目。


 開く。


 一瞬。


 男性のいた世界が見えた。


 住宅街。


 夕方。


 小さな店。


 赤い看板。


 駐車場。


 高校生のアルバイト。


 家族連れ。


 老人。


 会社員。


 誰も。


 怪物ではない。


 世界も。


 壊れていない。


 厨房では。


 普通の人間が。


 普通の肉を。


 普通の鉄板で焼いている。


 壁には。


 普通のメニュー。


 チーズバーガー。


 ダブルバーガー。


 ポテト。


 コーラ。


 そして。


 店名。


 PANDEMONIUM BURGER


 それだけ。


 何もない。


 何も。


 異常ではない。


「…………」


 継ぎ目。


 閉じる。


 秩序ちゃん。


 しばらく。


 動けなかった。


「何見えた?」


 渾沌ちゃん。


「普通の店です」


「ここと同じ?」


「いいえ」


「じゃあ?」


「もっと」


 言葉を探す。


「普通です」


「…………」


 渾沌ちゃん。


 男性を見る。


「それがオリジナル?」


「わかりません」


「でも表示」


「表示が何を基準としているのかも不明です」


「じゃあ見に行けば?」


「どうやって」


「継ぎ目」


「開き方がわかりません」


「向こうから来てるじゃん」


「客がです」


「じゃあ客についてけば?」


「…………」


 秩序ちゃん。


 男性を見る。


 ちょうど。


 最後のポテトを食べ終えた。


 立つ。


 ゴミを捨てる。


 出口。


「ごちそうさま」


「ありがとうございました」


 自動ドア。


 開く。


 男性。


 外へ。


 その瞬間。


 秩序ちゃん。


 決断。


「渾沌ちゃん」


「うん」


「行きます」


「え」


 走る。


「ちょっと!」


 ドア。


 閉じる直前。


 秩序ちゃん。


 腕を入れる。


 開く。


 一歩。


 外へ。


 そして。


 止まった。


「…………」


 そこは。


 いつもの店の前ではなかった。


 住宅街。


 夕方。


 赤い看板。


 駐車場。


 道路。


 遠く。


 子供の声。


 風。


 男性は。


 普通に歩いていく。


 秩序ちゃん。


 後ろを見る。


 店。


 小さい。


 普通。


 ガラス張り。


 看板。


 PANDEMONIUM BURGER


 窓の向こう。


 高校生くらいの店員が。


 床を掃除している。


 そして。


 その奥。


 レジ。


 女性。


 秩序ちゃんは。


 息を止めた。


 知らない。


 普通の人間。


 ゴスロリでもない。


 異能もない。


 ただの店員。


 女性が。


 秩序ちゃんに気づく。


 笑顔。


 接客用。


 そして。


 口が動く。


「いらっしゃいませ」


 普通。


 ただ。


 それだけ。


 秩序ちゃんは。


 なぜか。


 四キロメートルの客より。


 こちらの方が。


 怖かった。


 背後。


「秩序ちゃん!」


 渾沌ちゃん。


 飛び出してくる。


「勝手に行かないでよ!」


「すみません」


「ここどこ?」


「わかりません」


「ぱんでむは?」


 秩序ちゃん。


 目の前の店を見る。


「あります」


「……普通じゃない?」


「はい」


「異常は?」


「現時点では」


「怪物は?」


「いません」


「世界終わってる?」


「見た限りでは」


「宇宙?」


「普通の空です」


 渾沌ちゃん。


 店を見る。


 そして。


 少し笑う。


「じゃあ」


「はい」


「入ってみる?」


 秩序ちゃん。


 答えない。


 店内。


 客。


 普通。


 メニュー。


 普通。


 価格。


 普通。


 全部。


 普通。


 その入口。


 営業時間。


『10:00 - 22:00』


 定休日。


『なし』


 その下。


 小さな注意書き。


 秩序ちゃん。


 読む。


『当店では』


 次。


『世界線』


『異常存在』


『超常現象』


『観測災害』


『実在変換』


『その他、架空概念に関する』


 次。


『お客様からのお問い合わせには』


 最後。


 『対応しておりません。』


「…………」


 渾沌ちゃん。


「秩序ちゃん」


「はい」


「これ」


「はい」


「普通じゃないよね」


 秩序ちゃん。


 店を見る。


 何の変哲もない。


 PANDEMONIUM BURGER。


「……ええ」


 そして。


 二人は。


 初めて。


 こちら側から。


 別のぱんでむへ。


 入店した。

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