第8話 島の遺跡
◇◇◇◇
南極近海の島が隆起した報告は、メタ・シャルマに届いてから三日後に、帝国全体
へと広まった。
最初の報告は簡潔だった。
「南極近海の海域に、不明の島が出現。地質調査の結果、自然な地殻変動によるもの
とは考えにくい。調査隊の派遣を推奨する」
調査隊の編成は速かった。
帝国にとって、不明の現象は全て調査対象だった。地球意思による変化か、それ以
外の何かによるものかを判断することが、帝国の役割の一つだった。
調査隊には、複数の属性の戦士が含まれた。地の属性を持つ者、水の属性を持つ者、
そしてエーテル・コアの感知に長けた者。総勢二十名の精鋭部隊だった。
その中に、元アシュヴィン金将隊の隊員だった一名が含まれていた。
ダレン・ヴォルク。超印三つを持つAクラス戦士だった。
好奇心旺盛で、行動派で、仲間思いで明るい人物だった。
それが、最後まで変わらなかった彼の姿だった。
◇◇◇◇
調査隊が島に到達したのは、出発から四日後のことだった。
島は小さかった。直径五キロほどの、岩と土だけでできた島だった。植生はなく、
水もなかった。ただ、地面が不自然に盛り上がっており、明らかに最近に隆起したこ
とがわかった。
地面の一部に、亀裂があった。
亀裂の奥は、地下へ続いていた。
「空洞がある」調査隊長が言った。「中を確認する」
隊員たちが亀裂を広げ、地下への入口を確保した。
暗かった。しかし通気があった。生き物の気配はなかった。ただ、何か特殊な気配
が、地下から漂っていた。
「……何だこの気配は」一人が言った。
「エーテル・コアに似ているが……違う」別の一人が言った。「何か、全く異なるも
のが混じっている」
慎重に降りた。
地下は広かった。天井が高く、広大な空間が広がっていた。そして、その空間の中
心に、遺跡があった。
◇◇◇◇
遺跡は古かった。
石造りの構造物が、風化して崩れかけながらも、その形を保っていた。文字が刻ま
れていたが、帝国の記録にある文字とは異なる形だった。非常に古い時代の、あるい
は全く異なる文明の文字だった。
「……これは」調査隊長が言った。「いつの時代のものだ」
「わかりません」調査員の一人が言った。「しかし地層の状況から、数千年以上前の
ものと推測されます」
「数千年以上」
「それ以上かもしれません」
調査が始まった。
記録と採取が行われた。全員が慎重だった。
しかしダレン・ヴォルクだけが、少し別の動きをしていた。
彼は遺跡の中心部にある、一つの石板に興味を持った。他の石造りの部分とは異な
る素材で作られた石板だった。その表面が、微かに光を帯びているように見えた。
「……これは何だろう」
誰にでもなく、つぶやいた。
「ダレン、勝手に動くな」仲間が言った。
「少し見るだけだ」ダレンは言った。「見るだけなら問題ない」
そして触れた。
軽い気持ちで、ただの好奇心で。
次の瞬間、全てが変わった。
◇◇◇◇
光があった。
石板の表面から、漆黒の光が溢れ出した。光と呼ぶには、それは暗すぎた。光の形
をした闇、とでも言うべきものが、石板からダレンの手を伝って全身に広がった。
ダレンが硬直した。
仲間たちが駆け寄ろうとした。しかし見えない力が、全員を押し返した。
「ダレン!」
ダレンはゆっくりと振り返った。
目が、変わっていた。
明るく好奇心に満ちた目が、邪悪な色に染まっていた。全く別の何かが、その目に
宿っていた。
「……ようやく」
ダレンの口が動いた。しかしダレンの声ではなかった。
「目覚めることができる」
声は低く、古く、この世界のものではない響きを持っていた。
「我は闇の御子、ツァド・クア」
遺跡全体が振動し始めた。
「これよりこの世界は余が思うままに――――」
調査隊の全員が、後退した。
ダレン・ヴォルクの体を乗っ取ったツァド・クアが、闇の光を纏って立っていた。
これが始まりだった。
帝国と闇の御子との戦いの、最初の火ぶたが切られた瞬間だった。




