第5話 ネオ・ファイター
◇◇◇◇
アスラ金剛騎兵団での最初の一ヶ月は、ロスタムにとって記憶の中で最も濃密な時
間となった。
起床は夜明け前だった。
朝の鍛錬が二時間。それから食事。それからアーティファクト・アーマー「メガロ
ン」の操作訓練が三時間。午後は実戦形式の演習が三時間。夜は座学が一時間。
部落での生活は体を使う仕事ばかりだったから、体力的な消耗には慣れていた。し
かしここでの訓練は、体の消耗だけではなかった。
考えながら動く、ということを要求された。
アーティファクト・アーマーを動かしながら、周囲の状況を把握しながら、次の動
きを考えながら、敵の位置を予測しながら、同時に複数のことを処理しなければなら
なかった。
最初の一週間は、うまくいかなかった。
メガロンが思い通りに動かなかった。体の感覚と機械の動きがずれた。頭で考えた
動きが、機械を通すと遅れて出力された。
クレイグが隣で言った。
「考えるな」
「考えなければ動けない」
「考えながら動くのではなく、動きながら考えろ。順番が逆だ」
「どう違う」
「試してみればわかる」
試した。わからなかった。また試した。少しわかった。また試した。だんだんわか
ってきた。
二週間目に、感覚が変わった。
メガロンが、体の延長になった瞬間があった。ほんの一瞬だったが、確かにあった。
機械が自分の皮膚のように感じられる瞬間があった。
その感覚を掴んでから、速かった。
◇◇◇◇
ロスタムがネオ・ファイターから超印一つ目を取得したのは、配属から三週間後の
ことだった。
超印の取得は、戦闘を通じて起きる。修行だけでは取得できない。実際に力を使い、
限界を超え、その積み重ねが刻印として体に刻まれる。
ロスタムの場合、演習中に起きた。
相手は超印二つ持ちのB級戦士だった。格上だった。通常ならネオ・ファイターが
どう動いても勝てない差だった。
しかしロスタムは、物質融合を使った。
意図してではなかった。追い詰められた瞬間、本能的に足元の地面と融合した。地
面の硬さと重さを体に取り込み、相手の攻撃を正面から受け止めた。
B級戦士が、驚いた顔をした。
「……今、何をした」
「わからない」ロスタムは正直に言った。「体が勝手に動いた」
その後の反撃も、体が勝手に動いた。
物質融合した状態で踏み込み、岩の硬さを持つ腕でB級戦士を押し返した。
B級戦士が後退した。
演習が終わった後、ロスタムの胸に刻印が宿った。
超印、一つ目。
それを見た周囲の者たちが静かになった。
「……三週間で一つ目か」クレイグが言った。
「早いのか」
「平均は二ヶ月だ」
「そうか」ロスタムは言った。「感覚が掴めてきた気がする」
「物質融合の力か」クレイグは言った。「お前の力は……俺たちとは全く違う。正直、
どう評価していいかわからない」
「俺も同じだ」ロスタムは言った。「ただ、体が動く方向に動いている。それだけだ」
◇◇◇◇
ガインがロスタムの元を訪れたのは、超印一つ目を取得した翌日だった。
個室の扉がノックされ、入ってきたガインはいつもの落ち着いた様子で椅子に座っ
た。
「一つ目を取得したな」
「昨日のことをもう知っているのか」
「俺の部隊で起きたことは全部知っている」
「それは少し怖いな」
「慣れろ」
ロスタムは少し笑った。ガインの「慣れろ」という言葉は、もはやアスラ金剛騎兵
団内で定番の言葉になっていた。
「物質融合の感覚は掴めてきたか」ガインは言った。
「少しずつ」ロスタムは言った。「意図して使えるようになってきた。ただ、まだ安
定していない」
「安定するには時間がかかる。焦るな」
「焦っていない」
「焦っていないようには見えないが」
「……少し焦っている」ロスタムは認めた。
ガインは少しの間、ロスタムを見た。
「一つ聞く」ガインは言った。
「どうぞ」
「ブリリアント・クイーンとの融合は、どんな感覚だ」
ロスタムは少し考えた。
「常に、胸の奥にいる感じがする」ロスタムは言った。
「邪魔ではない。むしろ……安心する感覚がある。落ち着いているというか、見守られているというか」
「共鳴しているということだ」ガインは言った。
「エーテル・コアと融合した者は、コアの性質と共鳴することで力を引き出す。ブリリアント・クイーンの場合は……その共鳴が特別深い」
「なぜ」
「レジェンド級だからだ」ガインは言った。
「そしてお前を選んだ理由が、力や才能ではなく『心』だったからだ。心で繋がったコアとの共鳴は、通常のコアとは根本的に異なる」
「それが、物質融合という力に現れているのか」
「そうだ」ガインは言った。
「物質融合は属性に縛られない力だ。なぜかわかるか」
「わからない」
「全ての物質は、根源的には同じものでできているからだ」ガインは言った。
「地も水も炎も風も、根源まで遡れば同じ素材だ。ブリリアント・クイーンはその根源に近
い場所で融合した。だからお前は属性を超えた物質融合という力を持つ」
ロスタムはガインの言葉を聞きながら、胸の奥の温かさを感じた。
ブリリアント・クイーンが、その説明に反応しているような気がした。
「……合っているのか」ロスタムは胸に向かって心の中で問いかけた。
温かさが、大きくなった。
合っているということだと、ロスタムは理解した。




