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Breakgod  作者: 風雅 白眉


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第4話 メタ・シャルマ

◇◇◇◇


 メタ・シャルマを、ロスタムは上空から初めて見た。


 輸送ヴィマーナの窓から見下ろした時、最初は地形だと思った。山のような、大地

のような、巨大な何かが雲の下にあった。


 しかしそれは動いていた。


 全長百二十キロメートル。その数字を聞いた時、ロスタムには想像ができなかった。

しかし今、目で見て、体で感じて、初めてその規模を理解した。


 想像を、超えていた。


 山より大きかった。都市より大きかった。ロスタムが生まれ育ったジャングルより

も、はるかに大きかった。そのヴィマーナが空に浮き、ゆっくりと移動していた。


「……あれが」ロスタムはつぶやいた。


「メタ・シャルマだ」ガインが傍らで言った。「慣れろ」


「慣れられるものか」


「一週間で慣れる」


 ロスタムは窓から目を離せなかった。


 メタ・シャルマの表面には、無数の建物が立ち並んでいた。都市一つが、ヴィマー

ナの上に乗っていた。中心部には巨大な塔が聳え立ち、そこが聖都廟だとガインが教

えてくれた。


「聖帝がいる場所だ」


「聖帝とは」


「地球意思の代弁者だ。この世界の最高権力者」


「ガイン司令は、その人の下にいるのか」


「一応な」ガインは言った。「一応、という部分が重要だが」


 ロスタムは「一応」の意味を聞こうとした。しかしガインはすでに窓から離れ、椅

子に座って目を閉じていた。


 質問を受け付ける気がないことは、明らかだった。


◇◇◇◇


 メタ・シャルマに降り立った瞬間、ロスタムは圧倒された。


 人の多さが、まず違った。部落の人口が二百人足らずだったのに対し、メタ・シャ

ルマには数十万の人間が暮らしていた。その全員が、様々な目的で動き回っていた。


 次に、音の種類が違った。


 エンジンの音。ヴィマーナの駆動音。ブリル・ドライブが発する低い振動音。部落

では聞いたことのない音が、至る所から届いてきた。


 そして気配が違った。


 エーテル・コアと融合した者の気配が、そこらじゅうにあった。強い者、弱い者、

様々な属性を持つ者。その全員から発せられる固有の周波数が、空気に滲んでいた。


 ロスタムはその中で、自分の周波数が特別に強いことを感じた。


 周囲の人間が、ロスタムを見ていた。


 注目されていた。しかし誰も声をかけてこなかった。


「なぜ皆、俺を見る」ロスタムはガインに言った。


「ブリリアント・クイーンと融合した者の周波数は特別だ」ガインは歩きながら答え

た。「この場にいる全員が感知している」


「それは目立つのか」


「かなり」


「困ったな」


「慣れろ」


 ガインは同じ言葉を繰り返した。



◇◇◇◇


 アスラ金剛騎兵団の区画は、メタ・シャルマの東側にあった。


 区画に入った瞬間、空気が変わった。訓練の空気だった。鍛錬の音が至る所から聞

こえた。金属同士がぶつかる音、気合の声、ブリル・ドライブの機動音。


 ガインが区画に入ると、周囲の動きが変わった。


 訓練中の者たちが視線を向けた。上官への礼をとる者もいた。しかしガインは全員

を無視して歩き続けた。


 やがて一つの広場に出た。


 そこで訓練をしていた者たちが、ロスタムを見た。


「新入りか」一人が言った。


「そうだ」ガインが答えた。「ロスタム・ジーク。今日からここに入る」


「ブレイクゴッドのガイン様が直接連れてきたのか」別の一人が言った。


「そうだ」


「どんな素質を持っているんですか」


「自分で確かめろ」


 ガインはそれだけ言い残して、広場から去っていった。


 ロスタムは一人、広場に残された。


 周囲の者たちが、ロスタムを見ていた。


 好奇心の目、警戒の目、品定めの目。様々な視線が交差した。


「ところで」ロスタムは言った。「俺は何をすればいいんだ」


 全員が顔を見合わせた。


「自分で考えろ、とガイン様は言わなかったか」一人が言った。


「言わなかった」


「それは珍しい」


「俺も同感だ」


 また全員が顔を見合わせた。


 一人の男が前に出た。がっしりとした体格で、超印の数が多い気配を持っていた。


「俺はクレイグ。このアシュヴィン金将隊の一員だ」


「ロスタムだ」


「ガイン様に連れてこられた理由は」


「知らない」


「……知らないで来たのか」


「呼ばれたから来た」


 クレイグが、腕を組んで考えた。


「まあいい」クレイグは言った。「まずは装備を受け取れ。それから今日の訓練に参

加しろ。わからないことは誰かに聞け。俺は忙しい」


 クレイグは訓練に戻っていった。


 ロスタムは広場を見渡した。


 誰もロスタムに教えようとしなかった。


 しかしロスタムは困らなかった。


 部落で育った者に、全員が親切な環境などというものはなかった。自分で動いて、

自分で掴むしかない。それはここでも変わらないことだと、ロスタムは感じた。


 歩き出した。装備の受け取り場所を探しながら。


 誰かに聞けばいい。それだけの話だった。



◇◇◇◇


 その夜、ロスタムは与えられた個室に座っていた。


 個室といっても狭かった。寝台一つと、小さな机と、荷物を置く棚がある。しかし

それで十分だった。部落では数人で一部屋を使っていたのだから。


 胸の奥の温かさが、また感じられた。


 ブリリアント・クイーンがそこにいた。融合して以来、常にそこにあった。話しか

けようとするとうまくいかなかった。しかし、伝わってくるものはあった。


 今は、落ち着いている、という感覚が伝わってきた。


「お前も、初めての場所は緊張するのか」ロスタムはつぶやいた。


 返事はなかった。しかし温かさが、少し揺れた。


 それが答えだと、ロスタムは思った。


 扉がノックされた。


「入っていいか」クレイグの声だった。


「どうぞ」


 クレイグが入ってきた。手に何かを持っていた。


「飯だ。食堂を知らないだろうと思って持ってきた」


「ありがとう」


「礼はいい」クレイグは食事を置いた。「一つ聞いていいか」


「どうぞ」


「お前の周波数は……ブリリアント・クイーンか」


「そうらしい」


 クレイグはしばらく黙った。


「あの存在を、俺は知っている」クレイグは言った。「長年、誰とも融合しなかった

レジェンド級のコアだ。帝国の情報部門が長年追いかけていた。ガイン様も個人的に

動向を把握していたと聞く」


「そうらしいな」


「なぜお前を選んだと思う」


 ロスタムは少し考えた。


「俺が仲間のために死のうとした時に、融合した」ロスタムは言った。「だからそれ

が理由だと思う」


「仲間のために死のうとした」クレイグは繰り返した。


「そうだ」


「その程度のことで、レジェンド級が動くのか」


「程度の話じゃないと思うが」ロスタムは言った。「俺には、それ以外の理由は思い

つかない」


 クレイグはまたしばらく黙った。


「……そうか」クレイグは言った。「明日、訓練がある。朝は早い」


「わかった」


「ガイン様の部隊に入ったということは、それなりの修行が待っている。覚悟しろ」


「覚悟はできている」


「言うのは簡単だ」クレイグは立ち上がった。「おやすみ」


「おやすみ」


 扉が閉まった。


 ロスタムは食事を食べ始めた。


 部落の食事とは全く違う味だった。しかし旨かった。


 窓の外、メタ・シャルマの夜景が広がっていた。


 数十万の灯りが、空の下に広がっていた。


 ロスタムは、その灯りを見ながら思った。


 自分はここで、何かになる。


 それが何かはまだわからない。しかしブリリアント・クイーンが選んだということ

は、そういうことだと思った。


 胸の奥の温かさが、静かに応えた。



◇◇◇◇


 翌朝、訓練が始まった。


 ロスタムは、生まれて初めてアーティファクト・アーマー「メガロン」を見た。


 巨大だった。人間が着込む鎧の形をしていたが、その大きさは人間の三倍ほどあっ

た。全身が金属で覆われ、各所にブリル・ドライブの駆動部が埋め込まれていた。動

く時には独特の機械音がした。


「これを着て戦うのか」ロスタムは言った。


「そうだ」クレイグが答えた。「アスラ金剛騎兵団の主力装備だ。ブリル・ドライブ

で動く。慣れれば体の延長として動かせるようになる」


「慣れるまでどのくらいかかる」


「早い者で一週間。遅い者で一月」


「俺は早い方だといいが」


「それは本人次第だ」クレイグは言った。「まず着てみろ。感覚を掴め」


 ロスタムはメガロンに腕を通した。


 重かった。想像以上に重かった。しかし不思議なことに、ブリル・ドライブが起動

した瞬間、重さが消えた。機械が重さを補助していた。


 一歩、踏み出した。


 思ったより動いた。


 二歩、三歩。動きのコツを探りながら動いた。


「……なんとかなりそうだ」


「言うのは早い」クレイグは言った。「動かしてみてからにしろ」


 その時だった。


 広場の反対側から、声が来た。


「新入りはロスタムか」


 声のした方を見た。


 一人の男が立っていた。クレイグよりも年上に見えた。超印の気配が、クレイグよ

りも明らかに多かった。


「そうだ」ロスタムは答えた。


「聞いていたより、平凡な顔をしているな」


「よく言われる」


「ブリリアント・クイーンと融合したと聞いた。力を見せてみろ」


「今すぐかい」


「今すぐだ」


 ロスタムはクレイグを見た。クレイグが小声で言った。


「アシュヴィン金将隊の古参だ。逃げても無駄だ」


「逃げるつもりはない」ロスタムは言った。「ただ、アーマーを着たまま戦うのは初

めてだ」


「初めてのことは、誰でも初めてだ」と古参は言った。「構えろ」


 ロスタムはメガロンの中で構えた。


 これが、アスラ金剛騎兵団での最初の試練だった。


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