第16話 ダゴン登場
◇◇◇◇
静寂があった。
五秒。十秒。三十秒。
誰も動かなかった。誰も声を出さなかった。六人のブレイクゴッドも、アスラ金剛騎兵団も、四聖導騎士も。全員が、この静寂の中に立っていた。
終わった。
ツァド・クアが消えた。
その事実を、全員が確かめるように、静寂の中にいた。
しかし静寂は、長く続かなかった。
ツァド・クアが霧散した場所に、亀裂が生まれた。
空間が、裂けた。
亀裂の奥から、暗黒のエネルギーが溢れ始めた。しかしツァド・クアのものとは、質が違った。
ツァド・クアの暗黒は「侵食する闇」だった。
亀裂から溢れるものは「飲み込む深淵」だった。
バルト・ロメオが、初めて声を荒らげた。
「全員、退け!」
◇◇◇◇
「今の俺たちでは、あれとは戦えない」
バルトの言葉が、その場にいた全員に届いた。
筆頭ブレイクゴッドが、戦えないと言った。
その意味を、全員が理解した。
後退が始まった。
ガインがロスタムの元に来た。
「動けるか」
「動ける」ロスタムは立ち上がった。
「退くぞ」
「わかった」
しかしロスタムは、亀裂から目を離せなかった。
亀裂の奥から、二つの目が見えた気がした。
それはロスタムを見ていた。
「お前か」
声が届いた。ロスタムだけに届いた。
亀裂の奥から来る声だった。深く、重く、しかし明確な言葉だった。
「兄者を倒した力の根源は、お前にある」
ロスタムは動かなかった。
「面白い.....我はダゴン」声は続けた。
「兄者がやられた理由が、わかった気がする」
「……お前が、ダゴンか」ロスタムは言った。
「そうだ」声は言った。
「次に会う時を楽しみにしているぞ」
亀裂が、閉じ始めた。
「ロスタム」ガインが呼んだ。
ロスタムは亀裂から目を離した。
退き始めた。
亀裂が完全に閉じた。
静寂が戻った。
◇◇◇◇
戦いが終わった後、ガインがロスタムの傍に来た。
「あれの声が聞こえたか」ガインは言った。
「そうだ。ダゴンといった。俺だけに届いた」
「何と言っていた」
「次に会う時を楽しみにしている、と」ロスタムは言った。
「そして俺に、ツァド・クアを倒した力の根源があると」
ガインは少しの間、黙った。
「ダゴンについて教えてくれ」ロスタムは言った。
「ツァド・クアが右手だとすれば、ダゴンは本体だ」ガインは言った。
ロスタムは黙った。
「今の俺たちでは、バルトが言った通り戦えない」ガインは続けた。
「しかしいずれ、必ず来る」
「その時のために」
「そうだ」ガインは言った。
「強くなれ」
「わかった」
いつもの口調だった。しかしその言葉の重みは、これまでとは違った。
「ガイン司令」ロスタムは言った。
「なんだ」
「……よくやった、と言ってもらえるだろうか」
ガインは少しの間、ロスタムを見た。
「……よくやった」ガインは言った。
「ロスタム・ジーク」
それだけだった。
しかしロスタムには、それで十分だった。




