第15話 物質融合の真価
◇◇◇◇
六人が同時に動いた。
バルト・ロメオが精霊の力で、ツァド・クアの注意を引いた。
ソニック・バスターが龍神の咆哮を連続して放ち、暗黒の柱に圧力をかけ続けた。
ジョー・ツェッペリンが神霊の力でツァド・クアの動きを一部拘束しようとした。
ジオン・ディ・パラディンが四聖導騎士と共にディーヴァ・ストライクを展開し、
暗黒の柱の外縁を削った。
トロイメル・デューンが魔術で暗黒想念の流れを乱し、ツァド・クアの判断を一瞬鈍らせた。
ガイン・アスラ・カシュヤパが万能の力で、全体の連携を支えながら各所の隙を埋めた。
六人が同時に動く光景は、これまでの帝国の歴史上、最大の力の集結だった。
その光景の中を、ロスタムが歩いた。
走らなかった。
一歩ずつ、確かめながら、歩いた。
◇◇◇◇
ツァド・クアが気づいた。
六人の攻撃の隙間を縫って、一人が近づいていることに。
「……お前か」ツァド・クアは言った。
「人の子のくせに、暗黒が届かない者よ」
「そうだ」ロスタムは歩きながら言った。
「余に融合しようというのか」
「そうだ」
「愚かだ」ツァド・クアは言った。
「余は無数の暗黒の総体だ。融合しようとすれば、お前の全てが余になる」
「なるかどうかは、やってみなければわからない」
「……」
ツァド・クアが力を向けた。
暗黒想念の全てが、ロスタムに集中した。
これまでの比ではなかった。
ロスタムの物質融合の防御が、圧力に押された。崩れそうになった。
しかし崩れなかった。
地に足を踏ん張った。地の力と融合した。地の底から力を引き出した。
物質融合の全段階が、同時に展開された。
身体強化融合。流体融合。融合装甲。物質射出。気体融合。物質再構成。
全てが同時に、ロスタムの中で動いた。
暗黒想念を、物質として感知した。
その感知の精度が、これまでになかったほど高まった。
ツァド・クアの本体の構造が、見えた気がした。
◇◇◇◇
ロスタムは踏み込んだ。
暗黒の柱の中心へ。
全身が、暗黒のエネルギーに包まれた。
飲み込まれる感覚があった。
ツァド・クアの意識が、ロスタムに流れ込んできた。
古い意識だった。非常に古い。この世界が生まれるより前から存在していた意識が、
ロスタムの中に入ってこようとした。
ロスタムは、胸の奥の温かさに集中した。
ブリリアント・クイーンがいた。
揺らがなかった。
どんな古い意識が来ても、どんな暗黒が流れ込んでも、その温かさは消えなかった。
「……これが」ロスタムは暗黒の中でつぶやいた。
「お前の全部か」
「……」
「大きい」ロスタムは言った。
「しかし」
物質融合を、内側に向かって解放した。
暗黒想念を、物質として取り込み始めた。
感染者の暗黒想念を処理してきた感覚の、数千倍の規模だった。
苦しかった。
飲み込まれそうだった。
しかしロスタムの中の根が、地の底に繋がっていた。物質融合の根が、地球そのものと繋がっていた。
地球意思が、ロスタムを支えていた。
その瞬間だけ、ロスタムは理解した。
ブリリアント・クイーンが自分を選んだ理由の、根の部分を。
◇◇◇◇
「よし!形として捉えたぞ!今だ!」
バルト・ロメオが声を上げた。同時に六人の全力が、一点に集中した。
オベラニア(バルト・ロメオ)の最大奥義”精霊破邪水晶撃”が放たれた。
バハムブルム(ソニック・バスター)の”五色竜撃砲”の最大咆哮が轟いた。
バルトール(ジョー・ツェッペリン)の”神光烈破”全力が発動した。
ティルフレイ(ジオン・ディ・パラディン)の”虚空清浄斬”と四聖導騎士のディーヴァ・ストライクが同時炸裂した。
アストラディーン(トロイメル・デューン)の”グングニルランサー”巨大な魔術の矢の極みが解放された。
ルドラブリトラ(ガイン・アスラ・カシュヤパ)”雷武雷斗”雷撃を纏いし力の全てが、一点に向かった。
六人の力が、ロスタムが取り込んだ暗黒想念の隙間を通り、ツァド・クアの核心へと届いた。
「……」
ツァド・クアが、初めて声を失った。
暗黒の柱が、揺れた。ビキビキっと奇怪な音を立ててヒビが入った。
揺れが大きくなった。ヒビがさらに全体に広がっていった。
そして、崩れ始めた。
◇◇◇◇
「……面白い」
ツァド・クアの声が、遠くなり始めながら言った。
「余を、物質として融合した。人の子が、余の暗黒を物質として扱った」
「そうだ」ロスタムは言った。
「理解できない」ツァド・クアは言った。
「なぜお前は飲み込まれなかった」
「支えてくれるものがあったからだ」ロスタムは言った。
「……何が」
「地球と、ブリリアント・クイーンと」ロスタムは言った。
「仲間と。それだけだ」
ツァド・クアが、声を持たなくなった。
暗黒の柱が、砕け散った。
光の粒子でも、消滅の光でもなかった。ただ、霧散した。
それまで三千名の感染者たちを支配していた暗黒想念が、一斉に霧散した。
感染者たちが、倒れた。倒れながら、その目に色が戻った。
メタ・シャルマに、静寂が来た。
ロスタムは、その場に膝をついた。
力が抜けた。全身の力が、一気に抜けた。
クレイグが駆け寄った。
「ロスタム!」
「……大丈夫だ」ロスタムは言った。
「立てる」
「立てなくていい。今は休め」
「そうする」ロスタムは言った。そのまま地面に手を突いた。
地面の温かさが伝わってきた。
地球が、温かかった。
ブリリアント・クイーンの温かさが、胸の奥で、静かに揺れた。




