第11話 ツァド・クア本格始動
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ダレン・ヴォルクの体を乗っ取ったツァド・クアが最初に行ったのは、各地への暗黒想念の放出だった。
それは目に見えなかった。音もなかった。しかし効果は確実だった。
帝国の各地で、エーテル・コア融合者の一部が突然行動を変えた。
ある者は同僚を攻撃した。ある者は任務を放棄した。ある者は全く別の方向へ動き始めた。
共通していたのは、目の色が変わっていることだった。
「外法感染者が増加しています」帝国の情報部門から報告が来た。
「これまでの外法認定基準とは異なる。本人の意思によらない感染が広がっている可能性があります」
ブレイクゴッドたちが、それぞれの戦線で対応を始めた。
精霊系筆頭ブレイクゴッド、バルト・ロメオが北方へ向かった。
竜神系ブレイクゴッド、ソニック・バスターが海上防衛を強化した。
神霊系ブレイクゴッド、ジョー・ツェッペリンが感染者の無力化を担当した。
聖騎士系ブレイゴッド、ジオン・ディ・パラディンが聖都廟の防衛に就いた。
魔導系ブレイクゴッド、トロイメル・デューンが暗黒想念の分析を開始した。
そして万能系ブレイクゴッド、ガイン・アスラ・カシュヤパが、全体指揮を担った。
◇◇◇◇
ロスタムは、この騒動の中で一つのことに気づいた。
自分が、暗黒想念の影響を受けていなかった。
周囲の者たちが、微かな違和感を訴える中で、ロスタムだけは全く普通だった。
むしろ、暗黒想念の流れが「見える」気がした。
どこから来て、どこへ向かっているかが、ぼんやりとではあるが感じ取れた。
「……俺には届かない」ロスタムはつぶやいた。
胸の奥の温かさが、応えた。
ブリリアント・クイーンが、何かを防いでいるのかもしれない。
物質融合の力が、暗黒想念を「物質」として感知し、無意識に対処しているのかもしれない。
その仮説を、ロスタムはまだ誰にも言わなかった。
しかし、いつか役に立つ日が来ると感じた。
その感覚は、正しかった。
◇◇◇◇
後日に、一つの場面があった。
ロスタムがヨトゥン・ヘイムへの定期任務で訪れた時、エリナの扉の前に立った。
「また来た」エリナは言った。
「また来た」ロスタムは言った。
「外が騒がしいな」エリナは言った。
「ここにも気配が届く。.....暗黒想念だ」
「知っているのか」
「文献で読んだことがある」エリナは言った。
「しかし実際に感じるのは初めてだ。これは……厄介なものだ」
「あなたには、届くのか」エリナは続けた。
「届かない」ロスタムは言った。
エリナの目が、少し動いた。
「……なぜだと思う」
「ブリリアント・クイーンが防いでいるかもしれない」
「物質融合の力が、暗黒想念を物質として処理しているということか」
「そうかもしれない」
エリナはしばらく考えた。
「ロスタム」エリナは言った。
「なんだ」
「その力は……これからの戦いで、決定的に重要になる可能性がある」
「同じことを感じていた」
「お前の力は特殊だ」エリナは言った。
「精霊系でも神霊系でも魔術系でもない。物質融合という根源的な力だ。暗黒想念もまた、物質の一形態として捉えることができるなら……お前だけが、その核心に届ける」
「核心とは」
「ツァド・クアの本体だ」エリナは言った。
「暗黒想念の源。そこに物質融合の力が届けば……」
エリナは言葉を止めた。
「続けてくれ」ロスタムは言った。
「まだ仮説だ」エリナは言った。
「しかし……私が長年積み上げてきた知識と、お前の力が合わされば、答えが出るかもしれない」
ロスタムはエリナを見た。
「協力してくれるのか」
「お前が来るたびに、少しずつ教えてやる」エリナは言った。
「ここを出られないからな。これが私にできることだ」
「ありがとう」
「礼はいらない」エリナは言った。
「面白い問題を持ってきてくれた方が、礼を言うべきだ」
その目が、これまでで一番、笑っていた。
ロスタムは、エリナが「敵か味方かわからない」存在ではなくなりつつあることを感じた。




