第六十四話 覚悟 ー小太刀ー
学生の観覧席が騒がしい
それもそのはず
初めて筆頭の春日が小太刀を抜いた
抜かせた三年生は
その斬り付けさえもを躱した
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春日はゆっくりと開始線へ歩む
二回目の「待て」
今のも自分が負けていた
押し負けていた
ただ、
斬り下げも
間合いの疑問も
理解した
小手を合わせた刹那
相手の動きを感じた
(足捌き)
袴の下の動き
それが答えだ
理解はした
それで…
(俺は勝てるのか?)
開始線が
さっきよりも、
さらに遠くに見えた。
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「私なら、脚を壊す 蹴り折る! 」
弓場が呟く
「ただ… 蹴れる距離まで私は近寄れないけどね」
御影を見る
「江梨子は?」
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(脚だ 脚を制しない限り 勝てない)
(足捌き……間合いを“作っている”)
(作るだけじゃない、惑わされている)
開始線の前で春日は相手の袴を見る
袴で動きを隠している
(せめてもう一度、小太刀の距離に)
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弓場に聞かれ 即座に返す
「投擲で間合いを崩す 決して近寄らせない」
「先手は渡さない」
弓場は武道場を見ながら言い切る
「でも、そこまで… 私は間合いにさえ入れないよ」
「入った時点で斬られる…」
ーーーーーー
(小太刀… その前に間合いを取られる)
(崩せない… 切っ掛けが作れない)
開始線 生田先輩が再び構えている
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「私は… 間合いの中へ入れる」
大石が弓場に向かって話す
片手剣の取り回し
早希なら可能だろう
「でも、その前に先手を取られる」
「入っても、きっと押し負ける… 切り崩せない」
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再び対峙の軸をずらされる
明らかに生田先輩が場を制している
(崩せない… 入れない… 押し負ける…)
(全部、見えているのに――届かない)
(打つ手はないのか?)
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鴨子ヶ原水鳥流兵法
戦国時代の兵の法
矢の雨の中を駆け抜けるための技。
対峙する相手が刀とは限らない
自分の得物も刀とは限らない
刀さえ折れてるかもしれない
時代に沿い
術理を残しつつも
身につける教養の一つとして
今に残る流派
春日はあらためて知る
受け継がれ、積み重ねられたもの
それが――強み。
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こんな先輩がいる
なのに俺は…
素手で勝つと言い切った
自己満足だ
剣を抜かない
独り善がりの最たるもんだ
俺の剣は負けた剣です
澪先輩、俺は自己陶酔に浸っていました
ありがとうございます
先輩方に甘えて自分を…
出し切る
拘りは
今は降ろす
独りよがりだった自分を壊す!
先輩方に答える!
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開始線ーー
納刀し構え直す
観客席が目に入る
御影さん達がいる
真っ直ぐ此方を見てくれている
ありがとう…
いつも付き合ってくれて…
負けるかも知れない
それでも、またカフェ 一緒に行ってくれるかなぁ
もう、無理だろなぁ…
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――それが、覚悟だ
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新開地先輩の言葉が脳裏を走る
新開地先輩は、
自分の打ち込みが避けられる事を
――微塵も考えない
思わず、笑ってしまった
主審が横目で見る
(なぁ…んだ。)
(俺って負ける覚悟もなく、ただ逃ていただけかよ)
(こんな素晴らしい先輩方と手合わせしている…)
(負ける事の素晴らしさを理解できなかった)
(負ける事よりも…)
大きく息を吸い直す
(でも、俺にも術はある)
(間合いに入る歩法もある)
(体術? 素手?)
――誰の話だ。
―― 足りないのは覚悟のみ
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「はじめ!」
合図
生田先輩は間合いの外
右正眼。
切っ先が、わずかに揺れる。
先手を制する構え。
あと半歩詰めれば、
逆に間合いを取られる。
――なら。
春日は小太刀を抜く。
大上段。
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大上段の構えを見て
観客席がざわつく
御影も大石も目を見開く。
(大上段?)
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生田の眉が、わずかに動く。
不利な構え。
あり得ない選択。
静止。
対峙
一瞬の均衡。
――先に動いたのは、生田。
正眼から半身へ。
切っ先がわずかに引かれる
その刹那
春日が飛び込む
半歩… いつもより深く、重く
小太刀を撃ち下ろす
生田が凌ぐ
春日が押し込む
さらに押す
小太刀が鎬を走る
生田が鍔元で、小太刀を止める
それでも強引に押し込む
生田の脚が一瞬止まる
春日の左手が生田の肘を弾く
崩れる
春日の返す手が生田の胸に
押し込む
仰け反る
鍔元から小太刀が抜ける
そのまま斬る
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「一本」
「勝者 春日」
静寂。
生田がゆっくりと開始線に戻る
春日を見る。
「……いい踏み込みだ」
「一年生」
あらためて春日は礼をとる
「ありがとうございました!」




