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半歩 ~守・破・離 短き刃 長き道~  作者: 止水


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第六十三話 水鳥 ー水面の下ー

水鳥は優雅に水面を泳ぐ

されど、水面の下は…


ーーーーー


春日の名が呼ばれた

武道場に上がる


対するは

鴨子ヶ原水鳥流 三年生の生田


独特の足捌き

居合を主体とした総合剣術


自分から上位者へ挑むことはないも

ランキング戦 その度に順位を上げてきている


ーーーーー


お互い開始線に立つ


「はじめ」

春日は両の手を上げる

剣では上段の構えに似ている


生田が抜刀術の構え




生田の構えに春日が違和感を覚える


対峙線がずれている


その位置から抜刀しても春日に対して切り遅れる


(何か 狙っている)


春日は左に身体を流し間合いを取る


生田が間合いを合わせるが、

やはり対峙線がずれている


(右から切り込んでくる…)


ー刹那

間合いが縮むー


抜付け


春日が飛び下がる


打ち込み


躱す


切り上げ


再び春日が大きく間合いを取る


三度の斬り付けに春日は対応できたが、踏み込みは出来きない



ーーーーーーーーーーーーーー


(間合いは外したはずだ)


間合いだけではなく、軌道も――


それでも

踏み込めなかった


予想よりも剣が届いた


剣先の斬り返しが早かった



春日は確信する

(強い…)


そして

(動きを研究されている…)


ーーーーーー

何が違う…


何かを崩されている…


素手と刀


春日から相手の動きを読めない今

素手の春日から踏み込むことは敗北と同意


こちらから崩したくても、切っ掛けを得られない

受け身…


(長引けば… 負ける)


相手が切っ先を振り、誘ってくる


(来い、という事か…)



誘っているように見せて


生田が間合いを詰め、踏み込んできた


「なっ!」


すり足


にもかかわらず、半歩間合いが伸びる


交差での打ち返しが出来ない


後に大きく飛びのく


体勢を崩す


後に転倒


転がるように春日が逃げる


「待て!」

主審の声が掛かる


声が掛かる


ーーーーーーーーーーー


「待て」が掛からなければ


無残に負けていたかもしれない


逃げ回る醜態をさらしていたかもしれない


澪先輩の言葉が思い起こされる


(「私たちと戦ってもないお情け筆頭が調子に乗るな!」)


正にその通りだ



この試合は学園内外の関係者が見に来ている


その中で

学園筆頭の自分が床を転げまわって逃げている…


もう一人の筆頭…本山先輩は剣舞のような試合運び


「情けない…」


自分の在り方をもう一度考える


今の自分を俯瞰しろ



すでに生田は納刀し開始線に立っている


開始線が遠くに見える


今は、

自分のために勝つのではなく


澪先輩

本山先輩

鷹宮先輩

御影さん


勝敗ではなく

恥ずかしくないよう戦おう


自分を育ててくれている

学園を汚さぬよう振舞おう


開始線に向かう


始めて勝敗を超えた何かが春日の中に生まれた

だが、本人にその自覚はない


ーーーーーーーーーー


開始線。


一歩下がる


呼吸が落ち着く。


視界が、静かになる。


向こうで、生田が構える。


変わらない。


対峙の線は、やはりずれている。


(……違うな)


春日の目が細まる。



(“外している”)



間合いも。

軌道も。


最初から、噛み合わないように。


なら――


(読む必要はない)


足を下げる。


半歩。


身体に溜を作る



もう半歩。

間合いを作る



生田の指が、わずかに動く。


抜付け。


今度は、下がらない。


――踏み込む。


「……!」


生田の”斬り”が、置かれている。


その線上に春日の小太刀

鎬が在る



春日の左手が生田の手首を抑える


小太刀が生田の刃を滑る


完全に春日の間合い


打ち込み


生田の上半身が右に抜けた

当らない…


「……っ」


生田が斬り返そうとするも

小手は春日に制しられている


生田と春日が小手で押し合い体勢を崩し合う


春日が間をついて一蹴


生田が床に飛び込むように転がり逃げる


蹴り技が空間を斬る


再び「待て」の声


ーーーーーーーーー


(やはり…)


独特の歩法

足さばきか…


納刀した生田が再び先に開始線へ


生田さん 強い…


なぜこんな強い方たちがいる学校で

俺は独り善がりをしていたんだ…


静に小太刀を納刀する


もう、自分には抜かない選択は


ー 無い ー


ーーーーーーーーーーー


御影と大石が観覧席でも乗り出した


春日が初めて小太刀で戦った


斬り結んだ 声も出ない驚きであった


(春日くん…)


「今の春日くん 負けてたね」


弓場が一言



「え??」


蹴りは当たらなかったとはいえ、床を転がったのは生田先輩だ…


二人には弓場の言葉の意味が分からない



「小手の崩し合い… 春日くん押され負けていた」


「あれ、狙った蹴りじゃない。体勢を崩されて苦し紛れの蹴りだよ」


弓場が淡々と続ける



「小太刀で斬られないよう春日くんを制していた」


「あの蹴りに対して… 深追いせず、敢えて”受け身”で間合いを作ったんだよ」


ーーーーーーーーーーー


水鳥は流麗に水面を泳ぐ

まるで滑るように

静かに


だが、水面の下ではその流麗さとは、大きくかけ離れている

脚は大きく早く、

そして忙しく細かく


動きを作る 見えない動き

鴨子ヶ原水鳥流の奥義である





















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