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半歩 ~守・破・離 短き刃 長き道~  作者: 止水


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第四十ニ話 カフェを出た後 ー揺れる狸ー

カフェを出た後。

夕方前の、少しだけぬるい風。


「……ねえ」

弓場が隣の御影に声をかける。


「ん?」


「私さ」

少しだけ間。

「なんか、変かも」


御影、ちらりと見る。

「いつもじゃん」


「そういうのじゃなくて!」

即ツッコミ。


だが、そのあと。

少しだけ声が落ちる。

「なんかさ……」


言葉を探す。

「気になる」


御影、歩幅を少しだけ合わせる。

「春日くん?」


「うん」

即答。


「いや、でも違うよ?」

弓場、すぐに続ける。


「ほら、ああいうタイプってさ」

「珍しいじゃん?」


「ま~あね」


「で、技も面白いし?」

「あの歩法とか意味わかんないし?」


「うん」


「だから観察対象として――」


「それはわかる」


御影、笑う。


弓場は、少しだけ黙る。


カバンが揺れる。

そこについた、小さなタヌキのキーホルダー。


「……ねえ」

また、声をかける。



「ん?」


「さっきさ」

「“半歩が通じる側で見たい”って言ったじゃん?」

「言ってたね」


「たぶんさ」

少しだけ、笑う。


「それだけじゃなくて…」


御影、何も言わない。


弓場は、少しだけ歩みを止め――

「もっと…ちゃんと見たいんだと思う」


「何を?」

「……春日くん、何してるのか」


「なんであんな動きになるのか」


さらに

「なんで、あんな顔で戦うのか」


御影、少しだけ目を細めて、

観念したように、息を吐く。

「これさ」


少しだけ苦笑して。

「たぶん、“興味”だけじゃないかも」


御影、わざとらしく首をかしげる。

「じゃあ何?」


弓場、少しだけ視線を逸らして――

「……ちょっとだけ」


そして、小さく。

「……ちょっとだけ、春日くんへの好感度が増えたかも…」


御影、笑う。

「ほ~~~」


「なによ~~!」

弓場、そっぽを向く。


だが。

その顔は、少しだけ楽しそうだった。


カバンのタヌキが、嬉しそうに揺れている


ーーーーーーーーーーーーーーー


澪は、いつものようにカフェオレを飲んでいた。


足音。


「……澪先輩」


「ん?」

顔も上げずに返す。


春日が、目の前に立つ。


「報告があります」


「重いな。何?」


一拍。


「弓場さん、御影さんとカフェに行きました」


ぴたり、とカップが止まる。


「……へぇ?」


ゆっくりと顔を上げる。

「で?」


「問題なく終了しました」


「何それ、報告書?」


澪、少し笑う。


春日は真顔のまま続ける。


「適当に会話し、相槌を打ち、質問も行いました」


「やったんだ、それ」


「はい」


「で、殴った?」


「していません」


「よし」


即答。


一拍。


「楽しかった?」


核心。


春日は、わずかに言葉を探す。


「……」


考える。

選ぶ。


「……はい」


ほんの少し、間。


だが――

「楽しかった、と思います」


澪の口元が、わずかに緩む。


「ふーん」


カフェオレを一口。


「で?」


まだある。


春日が、ゆっくりと続ける。


「自分は――」

一瞬、迷ってから。


「“勝つため”ではない何かを、探しているのだと……」



澪、止まる。


「へぇ」


短く。


だが、少しだけ嬉しそうに。


「いいじゃん」


それだけ。


春日は、小さく頷く。


「はい」


一拍。


「あと――」


澪を見る。


「澪先輩、ありがとうございました」


「なに?」


「これに気づくことが出来たのは、澪先輩のおかげです」


「なに?」


「これに気づくことが出来たのは、澪先輩のおかげです」


一拍。


澪は、少しだけ春日を見て――


ふっと、視線を外した。


「別に」


素っ気ない。


カフェオレを一口。


「私は何も教えてないよ」


春日、首を振る。


「ですが」


「問いをいただきました」


「答えは出ていませんが」


一拍。


「考えることが出来ています」


澪は、何も言わない。


ただ、少しだけ口元が動く。


ぽつりと。


「自分で考えたやつの方が、強いからね…」



少し笑いながら

「感謝されること、何もしてないよ」


軽く肩をすくめる。


春日は、少しだけ考えてから――


「それでも」


顔を上げる。


「ありがとうございました」


まっすぐ。



「……はいはい」


誤魔化すように

笑いながら手を振る澪。


春日は、

ほんの少しだけ。


以前より、力の抜けた顔をしていた。


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