第四十一話 カフェでの会話 ー在りたいー
カフェのテーブル。
飲み物が揃い、少しだけ落ち着いた空気。
御影が、ふと思い出したように言う。
「そういえばさ」
春日を見る。
「前に聞いたけど――なんで私が今も手裏剣やってるか? わかった?」
一拍。
弓場が先に一言
「今どき、わざわざやるものでもないじゃん?」
御影は、少しだけ笑う。
「そうかもね」
それだけ。
弓場は、すぐに肩をすくめる。
「あー、はいはい。答える気ないやつだ」
「ないね」
即答。
「でしょ」
軽く流す。
そして、そのまま話をずらす。
「じゃあさ」
自分のカップを軽く持ち上げる。
「なんで私が空手やってるか、知ってる?」
御影、即。
「強いからでしょ」
「雑」
「じゃぁ、殴ってストレス解消」
弓場、笑う。
春日は、少しだけ姿勢を正す。
「……興味があります」
「でしょ?」
弓場は、少しだけ楽しそうに続ける。
「最初はね、単純」
「普通に、勝ちたいから」
一拍。
「当たり前だけど、強くなりたいから」
御影が、頷く。
「まあ、王道」
「うん」
弓場は、目線をカップに向け
「でもさ」
少しだけ、声が落ちる。
「やってるうちに、ちょっと変わってくるんだよね」
春日が、静かに聞いている。
「競技ってさ」
弓場は、指でテーブルを軽く叩く。
「“勝つためのルール”があるじゃん」
「はい」
春日が答える。
「その中で、どう勝つか」
「どう効率よく、どう確実に」
御影が補足する。
「そう」
弓場は頷く。
「だから、ある意味“最適解”を探す感じ」
「そして、最初の目的が目的じゃなくなってくるのよ」
「まぁ、そこは置いとくけど。」
一拍。
「でも」
少しだけ、笑う。
「武道とか武術って、違うじゃん?」
春日が、顔を上げる。
弓場は続ける。
「基本は、別にルールないし」
「勝てばいい、でもない」
「むしろ――」
少しだけ言葉を選ぶ。
「“どう在るか”みたいなの、入ってくるでしょ?」
御影が、静かに言う。
「面倒くさいやつね」
「そう、それ」
弓場は笑う。
「だからさ」
春日を見る。
「春日くんも江梨子も、そっちじゃん?」
一拍。
「“勝つためだけ”じゃないでしょ」
「ルール無しで勝つだけなら、何でも有りじゃん」
春日は、答えない。
弓場は、軽く肩をすくめる。
「でも、それってさ… 」
弓場は、少しだけ前に乗り出す。
「なんで、今もそれやってるの?」
「そう、春日くんも…」
春日は、一瞬だけ視線を落とす。
(……なぜ)
少しだけ、間。
そして、ゆっくりと口を開く。
「……まだ、分かりません」
弓場、少しだけ目を細める。
「正直」
「はい」
一拍。
「ただ――」
春日は、言葉を探す。
「“勝つため”だけではない、と」
「思う時がありました…」
御影が、ほんの少しだけ笑う。
弓場は、続きを待つ。
春日は続ける。
「自分の学んだものは」
「“当たらないため”ではなく」
一拍。
「“当たる前を消す”ものだと 感じたんです」
静かに。
弓場の手が、止まる。
「勝つことがすべて… そう思っていました」
「でも、御影さんに問われて…それが大きく揺らぎました」
春日は、少しだけ迷う。
だが、言う。
「相手を倒すためだけのものではない、のではと…」
「澪先輩を見て…問われ… 再び、そう思いました」
御影が、小さく頷く。
弓場は、しばらく黙る。
春日は ゆっくりと
「今は 此処までしかわかりません…」
そして――
御影を真っ直ぐにみて
「御影さんが…なぜ手裏剣を今も学び続けているかも…」
「自分がなぜ素手で在りたいのかも…」
「答えが出ません」
一拍おいて
春日が
「あっ…」
急に何かに気が付いた顔になった
(拘りじゃない)
(在りたいんだ……)
春日の言葉を聞いた御影
ふっと笑った。
そして一言
「なるほど、湊川先輩ね…」
(さすがね…)
弓場が、ぽつりと
「やっぱ面白いね、春日くんは…」
「……そうでしょうか」
「うん」
「かなり、めんどくさいけど」
御影、即。
「それ、わかる~~」
「褒めてないよね 景子」
「褒めてるって」
弓場は笑う。
一拍。
「でもさ」
少しだけ、優しく。
「それ、ちゃんと見つけたら」
「たぶん、もっと強くなるかもよ」
(見てみたいかも…)
春日は、ゆっくり頷く。
弓場は、そう言ってから――
少しだけ、自分の言葉に引っかかった。
(なんで、こんなこと言ってるんだろ)
強くなるかどうかなんて、どうでもいいはずなのに。
一拍。
春日を見る。
真っ直ぐで。
不器用で。
まだ、何も持っていない顔。
でも――
“勝つ”でもない。
“技”でもない。
もっと手前の何かを、
この人は――本気で探している。
その在り方が。
少しだけ。
(めんどくさいなぁ、こういうの)
自分で思って、少し笑う。
ほんの少しだけ、
意識してしまうほどに、視線が長くなる。
カフェの空気は、相変わらず軽い。
その中で――
“勝つため”ではない何かを、
春日は初めて探し始めていた。
そしてそれぞれが、
少しずつ――違うものを見始めていた。




