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半歩 ~守・破・離 短き刃 長き道~  作者: 止水


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第三十七話 オープンキャンパス一日目 午後2 演武と組手 ー素手の在り方ー

「十二間!」


掛け声とともに――

御影の手から、十字手裏剣が放たれる。


十二間。

およそ二十メートル先。


空気を裂く音。


――ドスッ。


的へ刃が、吸い込まれるように突き刺さった。


次の瞬間――

どよめきと歓声が、中庭に広がる。


「……流石だ」


春日は、小さく呟いた。


(あれが……御影さんの手裏剣術)


(あの距離でも“通している”。)



――そして。


中庭での演舞は、何事もなく終了した。


ーーーーーーーー


「お疲れ様、御影さん」


「どういたしまして」

軽く笑う。


「春日くんも、裏方ありがとうね」


「こちらこそ、ありがとうございました」



「……で」


御影が、さらりと言う。


「弓場が待ってるよ?」


「……?」


春日が、わずかに首をかしげる。


「どういう意味ですか?」


「第三武道場」


短く。


「景子が、組手の準備して待ってる」


「……は?」


間の抜けた声が漏れる。


「女の子、待たせるなんて最低だよ?」

くすっと笑う。


「早く行きなよ」


――逃げ道は、ない。


ーーーーーーーー


「来た来た!」


第三武道場。


そこには――

すでにプロテクターを装着した弓場がいた。


軽くステップを踏んでいる。


「遅いよ」


笑っている。

だが、目は完全に“準備済み”だ。


「早くやろうよ」


(御影さん……そういうことか……)


春日は、静かに理解する。


仕組まれていた。


「春日くんって、首席でしょ?」


弓場が、楽しそうに言う。


「しかも――素手」


一歩、近づく。


「なら、格闘家だね」


「違います」


即答。


「え? じゃあ剣士?」


首をかしげる。


「それも、違うよね?」


「……」


春日は、答えない。


「今日はさ」


弓場は、肩を回す。


「申し込みすれば、剣士学園の人と練習できる日でしょ?」


軽く拳を合わせる。


「私、打撃系の空手」


「剣士とは、正直かみ合わないんだよね」


一拍。


「でも――」


にこっと笑う。


「春日くんは、素手専門でしょ?」


一歩、踏み込む。


「お願いしますよ♡」


そのとき。


「私からもお願い」


後ろから、声。


御影が、いつの間にか入ってくる。


「春日くん♡」


軽い。


だが、逃がさない声。


「手裏剣のお礼、すると思って」


「……」


春日は、黙る。


(組手――)


(素手同士の、打撃)


頭の中で、整理する。


自分の動き。

相手の動き。


噛み合わない。


いや――

(合わせたことが、ない)


“剣を持たない自分”


それは、想定外ではない。

だが――


(どう動く)


迷いが、生まれる。


「……」


「わかった!」

弓場が、ぱっと顔を上げる。


「カフェ、付き合うから!」


「……は?」


「終わったら一緒に行こう」


にっこり。


御影も、すぐに乗る。


「私も行く」


「だから――」


一歩、間を詰める。


「組手、付き合って」


「見てみたいの」


静かに。


「春日くんの動き」


逃げ場は、完全に塞がれる。


春日は――


ゆっくりと息を吐いた。


「……わかりました」


観念に近い。

いや、観念した。


一歩。


武闘台へ上がる。


「ありがとう、春日くん」


弓場の声。


春日は――




答えず、静かに構えた。


「……」「――じゃあ、軽くね」


弓場が、構える。


肩の力が抜けている。

だが、重心は低い。


いつでも踏み込める位置。


春日も、静かに構える。


――剣を持たない構え。


ほんのわずかに、違和感。


「始め」


御影の声。


次の瞬間。


弓場が、動いた。


まるで無防備に間合いを詰める


詰めると同時に、拳が伸びる。


――直線。


体験会と速さが違う。


途中で、角度が変わる。


フェイント。


さらに、もう一段。


蹴り。


低い。


足払いに近い軌道。


(多い……)


春日の内側で、判断が走る。


一つではない。


連続。


流れ。


(捌く――)


身体を、ずらす。


当たらない位置へ。


――のはずだった。


掠る。


浅く。


だが、確実に触れた。


(……近い)


間合いが、違う。


剣の間合いではない。


詰められている。


さらに。


弓場の攻めは、止まらない。


打つ。

打つ

崩す。

打つ

そして、繋ぐ。


間を作らない。


(往なす……)


春日は、動く。


軌道を見切れない。


外す。


――だが。


(足りない)


半歩。


その“半歩”が、取れない。


距離が、ない。


踏み込みの幅が違う。


打撃の間合いは、短い。


速い。


そして。


逃がさない。


「いいね」


弓場が、笑う。


攻めながら。


「ちゃんと見てる」


さらに、踏み込む。


今度は――


正面。


春日が、反応する。


手を出す。


当てるためではない。


止めるため。


崩すため。


だが。


弓場は、止まらない。


軽く、角度を変える。


ほんのわずか。


それだけで。


春日の手は、空を切る。


(……浅い)


当たり前の軌道。


当たり前の打点。


当たり前のタイミング。


空手家にとっては――


「普通」


弓場は、避ける必要すらない。


「その打ち方」


軽く、言う。


「見慣れてるよ」


一歩、外しながら。


「だから――」


打つ。


短い。


速い。


的確。


春日の体が、わずかに揺れる。


(入ってる……)


重くはない。


だが、通っている。


確実に。


春日の首元を弓場が逆手で引っ掛け

崩しに来た


「……っ」


春日は、咄嗟に距離を取る。


だが――


すぐに詰められる。


(離れない……)


剣の間合いなら。


この距離は、すでに“終”だ。


だが、ここでは違う。


むしろ―― “活”だ。


弓場が、止まらない。


攻める。


崩す。


誘う。


そして。


また、触れる。


浅く…


一蹴。

春日の側頭部に蹴りが決まる


「……」


打点は、ずらした

だが、確実に弓場の脚は春日の頭部に届いていた


「ちっ」

弓場も今の蹴りでは倒しきれない自覚があった


…時間が、過ぎる。


やがて。


「止め 時間」


御影の声。


動きが、止まる。


静寂。


息だけが残る。



軽く礼を取るとともに

「……ありがとうございました」


御影が言う。


だが。


その場にいる全員が、分かっている。


内容は――


明らかに、弓場の優勢。

春日は何もさせてもらえなかった。


呼吸を整えながら。


弓場が、プロテクターを外す。


「なるほど…」


楽しそうに。


「面白いね」


春日を見る。


「間合いが繊細だね」


「そして、外し方も独特」


一歩、近づく。


「拍子も」


「やっぱり空手じゃないんだね」


目を細める。


「……だからなの?」


一拍。


「素手の間合いで、崩れるね」


はっきりと。


言う。


否定ではない。


評価でもない。


ただの事実。


春日は、何も言わない。


だが――


否定もしない。


御影が、横から口を挟む。


「でしょ?」


軽く笑う。


「だから面白いんだよ」


弓場が、少しだけ笑った。


「うん」


視線は、春日のまま。


「次は――」


ほんの少しだけ。


楽しそうに。


「ちゃんと、見せてよ」


「“そっち”」


春日は――


わずかに、目を伏せる。


(そっち……)


分かっている。


自分の“軸”。


自分の“原点”。


――剣。


だが。


今は。


ここにはない。


静かに。


拳を、握る。


(……足りない)


初めて。


はっきりと、自覚する。


自分の“限界”を。


そして――


自分の“形”を

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