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半歩 ~守・破・離 短き刃 長き道~  作者: 止水


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三十六話 裏 オープンキャンパス 昼休み2

剣士学園の学食


トレイに手を付けず、真っ直ぐ座っている少年。

(見つけた)

(練習場の“説明係”くん)


思い出す。


遅い打ち込み。

甘い軌道。

普通なら、当たる。

でも、ほんの少しだけ――位置がズレた。


(確かに面白いよ江梨子…)


---------


「今度のオープンキャンパス 遊びにおいでよ」

「え~~ 剣士学園て男はむさくるしい者ばかりでしょ~~」

「確かに言えてる~~」

「でも面白い子いるよ ひとり」

「何それ?」

「一年生で筆頭!」

「それ、すごくない!」

「何と!剣を抜かずに全勝!」

「嘘~~」

「しかも驚くなかれ!」

「いや、嘘バレバレだし~」

「ホントホント それで~その彼は、わたしの弟子なのだ~」

「は?」


ーーーーーーーーーーーーーーーー


体験者の剣が、ことごとく外れる。

(あれ、意図してやってる)

しかも――無駄がない

弓場の口元が、少しだけ緩む。


少年――春日。

向かいには。

(あっちは……)

少女。カフェオレ。


(……あれも、変)

強いとかじゃない。

上手いとも違う。


(“馴染んでる”)

場に。

空気に。

“そこにいること”に。

(……へえ)


トレイを持ち上げる。

立つ。

歩く。

人の流れ。

邪魔にならない位置。

視線の死角。

(ここ)

横に入る。


「ねえ」


自然に。

止まらない流れの中に、差し込む。

少年が顔を上げる。


(ちゃんと見る)

いい。


逃げない。

「隣、いい?」

一瞬だけ。

隣の少女を見る。

許可を取る。


(関係性、はっきりしてる)


「……どうぞ」


通る。

座る。

トレイを置く。

音は小さく。


視線を向ける。


「さっきの――“説明係”さんですよね」


反応。

(止まった)

当たり。


「……はい」


無駄がない。

(やっぱりいい)

少しだけ、目を細める。


「さっきは、ありがとうございました」

本音。

嘘じゃない。


「すっごく、面白い動きしてましたね」

どこまで自覚してるか。

返答を見る。


(……濁す)

(無自覚寄りだね)

さらに良い。


「初めまして」

軽く頭を下げる。

「向洋高校の、弓場といいます」

名乗る。

全部は出さない。


(でも、知りたい)


カフェオレの音。

(……気づいてる)


あの少女。

完全に。

こちらを見ている。


(いいね)

ほんの少しだけ、口元が上がる。

(面白いの、いた)

(しかも、二人)


視線だけは、切らない。

(しばらくは、観察だね)


(でも… まぁ 話、振っとくか)

「さっきの動き すごくよかったです」

「お昼からもさっきの練習場に居るのですか?」


「いえ、お昼からは別の場所に居ます」


「また見たかったです あの動き」


「ありがとうございます ですが、昼からは別の場所で…

 今度は裏方です」


「裏方なんてもったいない! もっと見たいです」


澪が、黙って二人を見ている


(あれ? こっちの娘、話に入ってこないなぁ……)

(まぁ、いいか。)


「説明係さんのお名前お聞きしても?」

(私は名乗ってぞ~~)


春日が向かいの少女をみる

少女は何も言わない

「春日といいます 一年生です」


「私も一年生です♪ 同じ学年ですね」

(明るく可愛く で、どうよ!)


「はい、同じ学年ですね」

(反応、薄~)


「ねえ」

軽い声。


「さっきの動き」


少しだけ、間を置く。


「避けてるんじゃないよね?」


春日の手が、わずかに止まる。


「……どういう意味ですか?」

(あったり~~~!)

弓場は、少しだけ笑った。


「当たらない位置に“いる”んじゃなくて」

「そもそも“そこにいない”ようにしてる… とか?」


「違ったかな?」

(どうよ!)


春日は、答えない。


だが――否定もしない。


弓場の目が、わずかに細くなる。

(ビンゴ!)


(それと…)

「足…」


「踏み込みに合わせて、半歩ずらしてる」


(そして、相手の軌道に“入って”、外してるよね。多分…)


(だけど、これ普通はやらない)


「だから――」


その瞬間。


「そこまでね。」


すっと、声が入る。


澪。


カップを置く音。


軽い。


だが――空気が変わる。


弓場が、ちらりと視線を向ける。


(来た)


澪は、いつものように笑っている。


だが。


目は、笑っていない。


「見学はいいけど」


にこり、と笑う。


「そこ――踏み込みすぎかなぁ」


柔らかい言い方。

だが、明確な制止。


弓場は、一瞬だけ黙る。

(この子 間合いがうまい! 何者?)


そして、理解した

(あ、これ以上はダメなやつだ)


そして。

「ごめんなさいね」

(ここは、やめとこ)


あっさり。

引く。


だが――


「でもー 面白いのは、本当ですよ」

(このふたり 面白過ぎ~~!)


少しだけ、首を傾ける。

視線は、春日のまま。


澪は、それを見て。


ほんの少しだけ、笑った。


「でしょ?」

「だから、うちにいるんだよ」



弓場の眉が、わずかに動く。

(“うち”)

(何それ…)


澪は、カフェオレを一口。


「まあ――」

「見るのはいいよ」


(へ~~ いいんだ)


弓場は、何事もなかったかのように。


「春日くん」

(えへへ…)


「午後、裏方なんだよね?」

「どこで?」


「中庭です」


「じゃあ、覗きに行くね」


少し、澪を見て


「でも、終わったら、もう一回、見せてね 春日くん♪」


(逃がさないよ 君、面白そう!)


春日は、少し悩んだ感じで

「……機会があれば」


(昼からは江梨子の所でしょ~~)

(ごめんねぇ 知ってるんだ~~)


「じゃあ、 後で行くね」

(とりあえず、あの子いるし――退散、退散)


弓場は去っていった


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「澪先輩…」


「なんだぁ?」


「今の…」


「ん?」


「俗にいうナンパですか?」


澪は、数秒止まってから――

呆れたように、ふっと笑う。


「でも、まあ」


ちらりと弓場の方を見る。


「ある意味、間違ってはないかもね」


一息、おいて


「“獲物を選んでくるタイプ”」


春日は、真剣に頷いた。


「あれがナンパですね。理解しました」


「いや、してないでしょ」




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