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半歩 ~守・破・離 短き刃 長き道~  作者: 止水


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第三十話 苦悩 ー苦参 仲秋ー

竹刀を持つ春日。


向かい合うのは、蓮。


構える。

静かに、距離が生まれる。


(……見る)


春日は意識する。


相手を。

目を逸らさず。

動きも、呼吸も。


すべてを。


踏み込む。


蓮は動かない。

わずかに遅れて応じる。


打突。


受けられる。

返される。


遅れる。


踏み込みが止まる。


もう一度。


見る。

見ようとする。


(……違う)


分からない。


次が出ない。


蓮は崩れない。

攻めてもこない。


ただ、そこにいる。


間合いを保ったまま。


(見ている)


そう感じる。


逃げ場がない。


踏み込む。


――遅れる。


受けられる。

返される。


崩れる。


体勢を立て直す。


(見えてるのに)

(動けない)


視線が絡む。


外せない。

外したくない。


――怖い。


一瞬、足が止まる。


その隙。


打たれる。


浅い一撃。

だが、十分。


「――そこまで」


澪の声。


静寂。


春日は息を吐く。

構えを解く。


蓮も竹刀を下げる。


「……どうした?」


一歩だけ近づく。


「竹刀なんて」


春日は答えない。


蓮は肩をすくめる。


「お前、素手の方が強いだろ」


一拍。


「竹刀、嫌いなんだろ」


春日の呼吸が止まる。


「……はい」


否定できない。


「で」


短く。


「何がしたい?」


春日は答えられない。


言葉が出ない。


「おい、……呼び出して、だんまりか?」


わずかに呆れる。


その空気を切るように。


「蓮、そう言わずに付き合ってやってよ」


澪の声。


軽い。


だが、視線は冷たい。


春日が、小さく言う。


「……“自分”が、分かりません」


蓮は黙る。


(自分、ね)


小さく息を吐く。


「そっか」


それ以上は踏み込まない。


「もう一本、やるか?」


軽く言う。


春日は顔を上げる。


迷い。


それでも。


「……お願いします」


構える。


(見る)


踏み込む。


視線を外さない。


怖い。


それでも。


外さない。


打たれる。


崩れる。


立て直す。


また見る。


また遅れる。


それでも。


やめない。


――時間が過ぎる。


何度も。


同じことを繰り返す。


終わる。


息が荒い。


春日は膝に手をつく。


蓮は、静かに見る。


「……何か分かったか?」


春日は顔を上げる。


「……分かりません」


一拍。


(遠い)


それでも。


胸の奥。


かすかに。


動いている。


蓮は、小さく笑う。


「そっか」


肩をすくめる。


「まぁ、いいんじゃね」


春日は顔を上げる。


「……え?」


「分からないってのはさ」


少しだけ視線を外す。


「悪くない」


それだけ。


横で。


鷹宮が笑っている。

澪は、呆れたように息をつく。


春日は、目を逸らしたくなる。


(弱い)


自分の内側が、見える。


逃げたくなる。


(これが……)


言葉にならない。


ただ、残る。


蓮は、それ以上言わない。


澪が、軽く声を投げる。


「春日~ 後片付け、よろしく~」


軽い声。


振り返らない。


二人はそのまま出ていく。


残される。


竹刀を握る手。


(違う)


何かが、違う。


(あの人たちと)


比べてしまう。


(俺は――)


視線が落ちる。


(弱い)


それだけは、分かる。


分かってしまう。

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