閑話 ズレた距離感 ー 無責任な一言ー
訓練場の隅。
春日は黙々と素振りをしている。
無駄のない動き。
静かな呼吸。 規則正しい音。
その背後には、同じ一年生の御影江梨子
「ねぇ春日君」
「……御影さん 何ですか?」
振り向かない。
「今さ… 100回目くらい?」
御影は、春日の横にしゃがみ込む。
「132回目です」
「数えてるんだ」
「はい」
「めんどくさ」
「精度の確認です」
御影は、じーっと春日を見上げる。
そして、ぽつり。
「じゃあさ」
「はい」
「135回目に、ちょっと変えてみて」
「……何をですか」
「振り方」
「却下です」
即答。
御影は、けらけら笑う。
「はやっ」
「理由を聞いてもいい?」
「崩れるからです」
「そっか~ うん、崩れるよね」
「…」
「でもさ」
御影が、人差し指を立てる。
「崩れないフォームってのも、伸びなくない?」
「……」
一瞬だけ、春日の動きが止まる。
「安定と停滞は、仲良しだからね~」
「……語感で言ってませんか」
「ばれた? でも、半分くらいは…ね」
にやり。
「でもさ、ちょっとだけ崩して戻せるなら、それって強くない?」
「……」
春日は黙る。
御影は、にやにやしている。
「ほらほら、やってみて?」
「……一回だけですよ」
「お、素直」
春日は構え直す。
ほんの少しだけ、角度を変える。
踏み込みを変える。
振る。
――ビュッ。
「ふむ…」
「あ、今の変」
「言うの早くないですか」
「だって変だもん」
「……」
「もう一回!」
「もう一回??」
「春日君、お願い♡」
「却下です」
「なんか… 冷たい もう手裏剣 教えるの辞めようかなぁ…」
「……やります」
春日は、もう一度振る。
今度は、少し整う。
「お、さっきよりマシ」
「比較対象が低いですね」
「伸びしろってことだよ」
「……」
三回、四回。
少しずつ、動きが馴染んでくる。
春日の表情が、わずかに変わる。
「……これは」
「うん?」
「悪くないかもしれませんが…」
「でしょ?」
御影は満足げに頷く。
「じゃあさ、今のフォームで200回やろっか」
「却下です」
即答。
「えーなんで」
「検証は終了です」
「早くない?」
「これで、十分です」
「え~!」
御影がぶーぶー言っていると――
「うるさい そこの一年!」
二人とも、ぴたりと止まる。
振り向くと、そこには――
澪。
「訓練場で騒ぐな」
御影が軽く手を振る。
「ごめんなさい 型の話をしてました」
「音量が普通じゃない!」
御影は、ちょっとだけ口を尖らせる。
「はーい 申し訳ありません」
澪は、春日に視線を移す。
「春日!」
「はい!」
春日は、直立!
「御影さんに、変なこと吹き込んでいないだろなぁ?」
一瞬の沈黙。
春日、御影を見る。
御影、にっこり笑って、
「……少しだけ」
「おい!」
春日がすかさずツッコむ。
澪は、ため息。
「ほどほどにしろ」
「はい!」
澪は、もう一度だけ二人を見て、背を向けた。
去り際に、ぽつり。
「……まぁ 今日は、良しとしておく」
それだけ言って、去っていく。
御影が、にやにやしながら春日を見る。
「それほど怒らねかったね~」
「……」
「よかったね、春日君」
「いや………あれ、後が怖いパターンだと思う…」




