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半歩 ~守・破・離 短き刃 長き道~  作者: 止水


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第二十七話 勝者なのに立場が弱い人 ー怖くない先輩ー

昼休み。


本館一階、掲示板の前。

「校内順位」


試合を棄権した自分の名前。

その後の対戦結果。


それを、ただ確認するために来ただけだった。


掲示から日数は経っている。

なのに、ざわついている。

いつも以上に。


雪は、その端で静かに立っていた。


(……なんか、多くない?)

(私……見られてる?)


人。

視線。

ひそひそ声。


「聞いた?」

「やばくない?」


「ねえ、あれ雪先輩だよね "あの"」

「昨日も……」

「そう、“あの”」


(“あの”? “昨日も”?)


雪は、少しだけ眉をひそめた。


「鷹宮先輩を……」

「〆たっていう……」


「……は?」


思わず、声が漏れた。


「いや、私じゃないから!?」


反射で否定する。


(たぶん、それ澪だ!)

(間違いなく澪だ!)


だが——


周りは一瞬静かになり。


すぐに。


「ほら本人!」

「やっぱり本当なんだ!」


(なんでそうなるの!?)


「しかも飲み物、パシらせたって……」

「怖……」


(私もその場にいた!)

(でも、違うってば!!)


雪は、深く息を吸った。


落ち着け。

説明すればいい。


「えっとね、それは——」


「雪」


聞き慣れた声。


振り向く。


澪だった。


「……澪」


周囲が、さらにざわつく。


澪は、いつも通りだった。

普通に歩いてくる。


「なにしてんの?」


「いや、誤解を解いてて……怖がられてるの」


「無理じゃない?」


即答。


「なんで!?」


澪は、少しだけ考えて。


「だって、私、負けたし」


「そこ!?」


「事実でしょ?」


「事実だけど、そういう話じゃなくて!」


澪は、ふっと笑う。


「いいじゃん、別に」


「よくないよ!」


「雪が勝ったんだから」


「……」


一瞬、言葉が止まる。


澪の声は軽い。

でも——


少しだけ、真っ直ぐだった。


「……でもさ」


雪は小さく言う。


「なんか……怖がられてるのって……」


澪は、周りを見た。


確かに、少し距離が空いている。


「……あー、なるほどね」


「でしょ?」


一拍。


「面白いね」


「面白くないよ!?」


そのとき。


「よおっ!」


鷹宮先輩だった。


「……あ」


雪の表情が、少し緩む。


「掲示、見た?」


「うん……それはいいんだけど」


蓮は周囲を見て、首を傾げる。


「……何かあった?」


「雪が恐れられてます」


澪が即答する。


蓮は、少し考えて。


「……雪は強いからね…」

「しょうがないよ」


蓮は続けて

「怖いと思う人がいても、おかしくはない」




雪の動きが止まる。


「そ、そうなのかな……」


「そりゃそうだろ」


蓮は


「でも、雪は怖いというタイプじゃないなぁ」


「……え?」


「とても、優しいけど」

蓮が口を開きかけて——


閉じた。


(……剣以外は、ポンコツだしな)


言わない。


澪も、少しだけ口を開いて。


(生活力は、ないけど……)


やめた。


代わりに。


「それと」


澪が言う。


「試合のあと、ずっと泣いてたよね」


「言わなくていいですから、それ!!」


雪、赤面。

顔を覆う。


「もうやだ……」


「澪に泣かされたんだよな」


蓮が続ける。


「うん……」


雪は顔を隠したまま、小さく頷く。


その横で。


「はぁ!!? 私!?」


「そりゃそうだろ。澪の試合が原因だし」


「ぐぬぬぬ……」


雪が、くすっと笑う。


「ほら、な? 雪は怖くない」


「怖くないよな、澪」


「まぁ、雪は怖いタイプじゃないよね」


雪は、少しだけ顔を上げた。


周りの視線は、さっきより柔らかい。


「……ほんとだ」


「だろ」


蓮は、少しだけ優しく笑った。


昼休みのざわめきが戻る。


ただ一つだけ。


“怖い先輩”という噂は。


いつの間にか——


“泣くくらい真剣な先輩”に変わっていた。



その横で。


澪が、ぼそりと呟く。


「でもまあ」


一拍。


「雪の作ったお弁当、想像するとちょっと怖いよね」


雪は、ゆっくり顔を上げて。


「……そこ?」


――――――――――――――――


今回の根本の原因は、

“澪が先輩の蓮に対して行った、あの一件”。


雪はもう、忘れていた。



(……やっぱり、ポンコツだな)


ひそかに思う澪だった。

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