閑話 学食最強決定戦(未開催) ートマトカレーの味ー
数日後。
昼休みの学食。
一年男子のテーブルでは、
またまた、同じ話題が盛り上がっていた。
「でさ、この前の続きというか…」
「聞いた聞いた!!」
「凄すぎるよ」
「湊川先輩の追加情報は!!」
その一言で、周りの一年が身を乗り出す。
(というか、前より人数増えてないか?)
やっぱり、蓮もそこにいた。
今日はトマトカレー。
「湊川先輩が春日をぶん殴ったらしいぜ!」
「知ってる知ってる」
「ただ殴っただけじゃなくて、顔面にマグカップまでぶつけたらしい」
(いや、それプラスチックのカップだ。柔らかいから)
「その上、投げ飛ばしてテーブルでぶん殴ったとか」
「学食のテーブル、吹っ飛んだらしいよ」
(いや、テーブルごと投げ飛ばした……)
(……ここは、あんまり変わらんか……)
「素手で三年生を倒す春日。その春日をぶん殴ってぶっ飛ばす湊川先輩って…」
「惚れてまいそう…」
「ごめん、それはない」
一斉にみんな頷く。
(俺も……ない)
「それで春日、そのあとトイレで再び〆られて――」
「頭から水ぶっかけられて」
「みんなの前で平謝り」
「その上、パシらされて飲み物を買わされてた」
「そこは俺、マジで見た。カフェオレ頼んでた」
「見たのかよ!」
「髪の毛は濡れたまま、売店でカフェオレ買って
ダッシュで湊川先輩の所へ走っていった」
「湊川先輩、マジこわ~~」
(春日、カフェオレを洗いに行ってただけなんだけど……)
(まぁ、パシられたのは合ってるけど)
「その春日を鷹宮先輩が助けたらしいよ」
(俺?? は?? 何その誤解?)
「しばらく、ご機嫌斜めの湊川先輩に鷹宮先輩が話しかけてた」
「なんでも次の日、三年の教室まで春日が行って
平謝りというか、お礼を述べていたらしい」
(ああ、あの事ね……だいぶ違うけど)
「やっぱり」
「これはガチだよなぁ」
「なに?」
「湊川先輩」
「剣を持ってない時の方が強い!」
沈黙。
「たしかに…」
「あの春日より…」
一年生は一斉に声を合わせて。
「強い」
「強い」
その一言で、テーブルが妙に納得した空気に包まれた。
(いや、なんでそうなる)
蓮はスプーンを止めたまま、カレーを見つめる。
(論理が飛躍しすぎだろ)
だが——
もう止まらない。
「いや待てよ」
一人の男子が、妙に真剣な顔で言い出す。
「つまりだぞ?」
「湊川先輩は——」
「武器を持つと弱体化するタイプ」
「「「ああ〜〜〜!!」」」
一斉に頷く一年生たち。
(納得するな)
「あるある! 素手最強系!」
「制限かかってるやつだ!」
「剣持つとリミッターかかるやつ!」
(ゲームじゃないんだよ)
蓮は静かにご飯を口に運ぶ。
(やばいな……この話、止めないと)
そう思った、その時。
「じゃあさ!」
別の男子が身を乗り出す。
「逆にさ、春日は?」
「え?」
「素手で三年倒すんだろ?」
「うん」
「でも剣持ったら——」
一拍置いて。
「さらに強くなるんじゃね?」
「「「ああ〜〜〜!!」」」
(だから納得するなって)
「つまり何?」
「春日は“武器強化型”?
湊川先輩は“素手特化型”」
「完全にビルド違いじゃん」
(なんの話だよ)
そこに一年の御影が——
パスタとサラダの乗ったお盆を持っていた。
席を探しているようだ。
「なぁ御影、お前、春日と知り合いだろ?」
「え? 何?急に?」
「この前の春日と湊川先輩の話、知ってる?」
「まぁ、雑談的に少しだけ聞いたよ」
「「「おーーーーーー!」」」
盛り上がる一年生。
「いや私、本人じゃないから……」
「でも関係者っぽいし」
(おいおい、“関係者っぽい”ってなんだ)
蓮は軽くため息をついた。
「湊川先輩が殴ったのは事実?」
「らしいよ……まあ、春日君、否定はしてない」
「「「うおおおお!!!」」」
(なんで盛り上がる)
「じゃあテーブルは!?」
「投げたの!?」
「……よく知らないけど、投げ飛ばされた春日君が修理したって。本人がやったって聞いた」
「「「投げ飛ばされた!?」」」
「修理って、テーブルが壊れるくらい!?」
「え?私に聞かないでよ」
(確かに……澪が投げたからなぁ)
「じゃあやっぱり——」
また一人が、確信した顔で言う。
「湊川先輩、“範囲攻撃型”だわ」
「なにそれ? 私もよく知らないから」
御影はそのまま去っていく。
「御影、もし次なんかあったら実況頼むわ!」
「細かいとこちゃんと!」
「湊川先輩 すげ~~!」
(だから納得するな!!)
蓮はついに額を押さえた。
(ダメだ……もう収拾つかん)
その時。
がたん、と椅子の音。
一人の一年が、ゆっくりと立ち上がる。
「つまり結論はこうだ」
やたらと厳かな声。
「春日 vs 湊川先輩は——」
全員が息を呑む。
「剣を使ったら春日有利」
「素手なら湊川先輩有利」
「「「おお……」」」
「そして——」
さらに続ける。
「至近距離戦闘になった瞬間」
「「「……」」」
「学食が壊れる」
「「「それは確定」」」
(確定すんな)
蓮は静かに立ち上がった。
(……帰るわ)
トレーを持ち上げる。
(これ以上聞いてたら、こっちの認識まで歪みそうだ)
(全部違うのに、全部“それっぽい”のが一番タチ悪い)
ーーーーーーーーーーーーーー
その頃。
学食の端。
少し離れた席で——
「……なにあれ」
澪がぽつりと呟いた。
隣で雪が笑いをこらえている。
「いやー……広がってるねぇ」
「間違ってる」
「うん、だいぶ」
「……なんでああなるの」
雪は肩をすくめた。
「人はね、“面白い方”を信じる生き物だから」
「……」
澪は少しだけ考えて——
ぽつり。
「じゃあ」
「うん?」
「次、もっと面白くする」
「それ、やめて」
雪は即答だった。




