第九十一話 勝敗の先 ー在りたい姿ー
剣士学園
満員の武道館
決勝戦
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雪の四の太刀
澪が弾く
渾身の打ち下ろし
片膝立ち
隙間が生じた
その隙間
雪は決して見逃さない
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四の太刀…
繋いだ
澪の刀は
私の身体には届かない
間合いは開いた
(取る!)
雪の長刀の扇
澪の側頭部
横面へ流れる
(入る!)
(ごめん 澪…)
片手横面打ちー
ーその前に
澪の
片手小手打ち
雪の小手に吸い込まれた
(え?)
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長刀は重い
連撃
遠心力を利用した重圧
私の小さな体格では
ー凌ぎきれない
必ず隙間に太刀が来る
ならば
隙
来る
その前を斬る
近づく
その小手を落とす
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雪の長刀が
手から離れる
澪の横を
かすめ飛ぶ
壇から離れ
門下生のいる壇下
控え席まで
斬り付け
残心
雪から目を離さない
雪は飛んだ長刀を目で追っている
放心
目が合う
静寂
ゆっくり柄を眉間に
血振り
納刀
そして下がる
一礼
「一本 勝者 湊川澪!」
割れんばかりの歓声が上がる
武道館が震える
ーーー
鳴り止まぬ歓声の中
二人は開始線に戻る
「お互い 礼」
二人は互いに礼を取る
また、目が合う
一直線に雪が駆け寄ってきた
「優勝! おめでとう!! 澪!!」
満面の笑み
そのまま全身で渾身の抱擁
「え! ちょっと! 雪」
「澪! おめでとう!! おめでとう!!」
「え? 分かってる? あなた負けたのよ!」
「知ってる 私負けたの!」
抱擁がひときわ強くなり
「でも… だから…
一番に言いたかったの!
おめでとう って」
壇上の中央
雪が澪を抱きしめて離れない
澪は困ったように笑い
それでも 振りほどかなかった
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春日は
壇の下、控え席で
ふたりの抱擁を見ている
(……凄い)
(俺は…… まだ、 あそこまで辿り着いてない)
勝敗以上に、
自分が今どこに居るのかを
見せつけられた試合
自分が求めていたもの
言い換えると
“剥き出しの武”
だったのかも知れない
俺は ずっと何かに抗い
誰かに拘っていた
そして
(否定してきた…)
弱さを
術を
誰かに頼ることを
澪先輩は、
小さな体格
間合いの劣位
それを全部理解した上で
今がある
本山先輩がいる
鷹宮先輩もいる
そして
御影さんたちも…
俺も…
澪先輩の横にいたい
そして本山先輩は、
真っ先に 澪先輩を祝福した。
俺は初めて理解した
「武とは、 相手を否定するものじゃない」
と目の前で見せられました
昔の俺なら、
間違いなく思っていた
(負けた相手に…
あんな顔できるのかよ……)
羨ましい…
俺は
俺は
自分は、 どう在りたい
澪先輩
本山先輩
鷹宮先輩
そして
新開地先輩
御影さん
…俺は…
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武道館の熱気
歓声
笑い声
その全てが 今は遠く聞こえた
ただ
壇上の二人だけが 真っ直ぐに見えていた
春日は静かに目を閉じる
深く、
息を吐いた
そして、
もう一度壇上を見上げる
その眼は、
以前の春日ではなかった




