第九十話 四半歩の剣 ーあと四半歩ー
此処は、雪の間合い
私は届かない
下がる…
いや、今は下がらない
きっと、分からない…
武を志す者
身体的な劣位
哀しさを…
ーーーーー
柔よく剛を制す
あれ
ほとんど
無いから…
(ほとんどの場合はね…)
力のない技は意味がない
そう言われてる
(でも、)
力が全てとは思わない
(だから…)
技術も、
力も磨かなければいけない
(そして、精神”力”もね…)
”柔”は”
柔らかい”って意味もある
身体だけじゃなくて
(柔軟な精神!)
ーーーー
雪の一の太刀
薙ぎ斬り
間合いを読んで
躱す 届かさない
長刀が返す
二の太刀
逆からの薙ぎ切り
澪が踏み込む
深く
居合刀で受ける
入り込む
弾く
長刀が跳ねる
三の太刀
斬り落とし
澪が受ける
(…!)
柔らかい
(…吸われる)
雪の斬撃
衝撃の重さが
吸われる
流される
澪が入る
一閃
雪が後方に飛びのく
澪の切っ先が
届くーー
ーー届かない
わずかの間合い…
二人が離れる
ーーーーーーーーーーー
(噓でしょ…)
雪は信じられなかった
降り下ろされた長刀の重さ
それが
(消された…)
戦慄
歓喜
混濁した感情が沸き上がる
そして、こんな澪の技
(私… 知らない…)
ーーーーーー
あと… 四半歩の間合いが…
(欲しい…)
どうやって作る…
澪は目付を雪から離さない
納刀
居合
抜付けの構え
常在戦場
この心だけは離さない
ーーーーー
雪の向こうで
春日が私を見ている
(そうだよね…)
春日は
今でこそ剣を抜くが
素手に拘った
剣に対して素手
その不利
今の私以上だったはず
それでも勝ちに拘った
それは褒められた事てはないが
(その心意気は よし… て、
ところかな…)
私も少し、雪に対して拘った…かな?
ーーーー
壇上の中央
雪は澪を見る
雪の間合い
踏み込めば澪に届く
澪からは未だ遠い
澪に隙は無い
今は踏み込めない
あと四半歩
深く踏み込まないと
僅かな動きの隙間を澪に取られる
刹那の差で立場は変わる
相手は澪
私の知らない動きを…
(きっと、残してる…)
私なら… そうする
隙間に入れる
手筋
を残す
そして
必ず直伝夢野流居合術で
(来る!)
ーーーー
お互いの動きは止まったまま…
どちらも
下がらない
踏み込まない
観客席では
誰も話さない
御影達も何も言わず
ふたりの挙動に
注目している
控え席の春日は
真っ直ぐ澪を見ている
一瞬、澪先輩が此方を見たように感じたが
ふたりに動きは無い
ーーーー
正面には雪
その向こう
壇の下には
春日…
(そう…)
勝つ
ではなく
雪に勝ちたい
なっていたかも
そう
試合の相手が
たまたま雪だっただけ
決勝戦が
またまた今日だっただけ
常在戦場
居合の本質
私は
私の直伝夢野流居合術
これで 勝つ
ーーーー
澪の感じか変わった?
和らいだ?
雪はそう感じた…
(上げてきた… )
やはり澪は、何かしてきた
(負けない…)
雪の眼に力が入る
ーーーー
間合いの中で
雪が動く
その初動を読み切った
澪も動く
お互いが踏み込む
大きく
お互いがお互いの
間合い
雪の一の太刀
打ち下ろし
澪が抜き付ける
右に雪の長刀を弾く
二の太刀
薙斬り
澪が凌ぐ
返す刀で
斬り下ろす
雪の三の太刀
で澪の刃を
流す
雪は太刀筋に合わせて
間合いを取っていた
二の太刀…
三の太刀…
ともに四半歩下がりながら斬っていた
四の太刀へ
隙を作らず繋ぐ
力をのせる
斬り降ろす
澪が
再び長刀を打ち弾き
振り切る
四の太刀へと繋いだ流れ
重量のある長刀
力をこめた打ち下ろし
澪の体格では
居合刀 渾身の打ち込み
それでなければ弾けない
弾かれた長刀が
扇を描き
流れるように雪の左で舞う
返す
澪は腰を落とし片膝立ち
芸術のような
打ち下ろし姿勢
面が空く…
澪に隙間が
生じた




