外伝 在るということ ー断ち切ることー
桜の花が咲いた
一は再び直伝夢野流の道場へ
裏門
少し壊れているが
朽ちてはいない
清掃は行き届いている
今日、訪れる事は
文にて伝えてある
一が門をくぐる
その先には 綾殿が
「お久しぶりですね 一さん」
綾の笑顔があった
ーーーーー
道場へ通される
御宗家と綾殿
「お久しぶりでございます」
深々と礼をとる
「一殿 良き顔になられましたな…」
「ありがとうございます」
再び頭を下げる
「父の居位… 在処というべきでしょうか…」
「少しわかった気がします」
御宗家は
ただ一言
「では、形を見せて頂けますか?」
「はい」
一は立ち上がり
ゆっくり歩む
眼には、相手はいない
自分を確かめるように
歩む
手を
身体を
送る
回す
御宗家が
「剣は如何ですか?」
「はい」
一が答える
綾が木刀を渡す
そう…
宗一郎殿が置いて行かれた木刀
それを
一は知らない
ただ
妙にしっくりと来る
——理由は、分からない
それだけを感じた
形と呼べるほどの動きは無い
ひとつ ふたつの動作を
確かめるように繋ぐ
鍛錬…
「ほう…」
御宗家が微笑む
「宗一郎殿を思いだします…」
綾が少し涙ぐんでいる
一連の動作を行い
礼をとる
「ありがとうございます」
ーーーーーー
御宗家が話をはじめる
はじめてここへ来た理由
本住吉流との仕合
宗一郎殿の願い
そして
先の御宗家との
約束
一は何も返さず聞いている
綾もはじめて聞かされる
口を開いたのは 綾
「なぜ、そこまで本住吉流に…」
御宗家は一言
「それが宗一郎殿なのだろう」
一は、
(今なら、わかる…)
父はきっと、ここに来るまでは
鏡の前に立てなかったであろう
そして、誰よりも鍛錬を怠らなかったであろう
父を導いたのは
先の御宗家
父を許したのも
先の御宗家
そして
自分が
ここに 在る
一はゆっくりと
頭を下げる
「ありがとうございます」
「父だけではなく…」
言葉が詰まる
再び頭を下げる
床に額をつける
顔が上げられない
——失礼にも
床を濡らしてしまった
ーーーーー
裏門
「今日はありがとうございました」
御宗家と綾殿が見送りに
「剣は人を斬るものです…」
御宗家が語りはじめる
「何を述べ立てても、それが本質です」
春日は御宗家を真っ直ぐ見る
「ですが、剣が在ればこそ 繋ぐ縁もあります」
「先代の宗家 宗一郎殿 そして…」
「一殿も…」
一は綾の笑顔を見る
そして春日さんの顔を思い出す
静寂が流れる
そして、御宗家が続ける
「学園を作ります…」
「私の父である先代が、人を導いたように…」
「では、一殿
この裏門は今日を境に取り壊します」
綾が驚いたように御宗家の顔を見る
その意味、一は理解している
「ありがとうございました」
深々と礼を取る
ゆっくりと裏門をくぐる
綾がその背中を見つめる
春の日差しが、背を押した
——振り返らない




