第八十四話 距離 ー間合いの檻ー
午前中の準決勝
白熱した試合
その興奮は午後にまでつながっていた
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学園ランキング戦
三位決定戦
(これが俺にとって これが学園最後の試合)
「しっかりと見せてやるとするか…」
控え席から蓮が立ち上がる
横には徳井
(今のは… 俺にじゃないですよね…)
蓮は壇上の向かい――
春日を見据える
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「澪先輩 行ってきます」
「おう 行ってこい!」
澪が控え席で春日を見送る
(蓮は強いぞ…)
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「両者、前へ」
ともに武道場へ礼を取る
登壇
静寂
開始線で向かい合う二人
公式戦に戦うのは初
名が告げられる
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二階 観客席では
「私… この三日間で心臓 止まりそうだよ…」
「江梨子 クールに見えて意外に感傷的だしね…」
弓場も
「この学園の試合… 空気感が一段、高いね…」
御影がうなずく
「うん… 私… もう、誰の応援もできない… 」
誰も笑わない
張り詰めたまま、空気が止まる
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お互い が礼を取りる
公式戦では
はじめての顔合わせ
「はじめ」
主審の声
春日は素手
やや上段に構える
蓮は抜刀
下段寄りの中段
春日の足捌きに対処
そのまま少し斜めに
春日が一歩 前
蓮もゆっくり一歩 前
切っ先が春日の足元へ向いている
未だ間合いの外
春日が右へ
そして一歩 前へ
間合いを詰める
半歩 詰める
蓮の間合い まで半歩
蓮は動かない
動かず間合いを制している
春日が半歩間合いを削る
ー削れない
(上手い…)
蓮の切っ先が、わずかに揺れた
――春日の進む先へ
まるで、そこに導くように
(鷹宮先輩…)
春日が微笑む
半歩、右に身体を振る
蓮の切っ先が春日を追う
静寂
春日が少し大きく息を吸う
踏み込む
抜刀
そこには
蓮の切っ先が
弾く
春日がもう半歩踏み込む
蓮の切っ先が返る
小太刀で止める
流す
大きく踏み込む
下から蹴り上げる
蓮は動かない
ー動いていないように見えてだけ
ー蹴りを読まれた
蹴り足が
空を切る
そのまま踏み込み
ー次の蹴り技へ
そこには蓮の切っ先が
ーある
ー出せない
小太刀で弾く
弾かれた切っ先が回る
打ち下ろし
春日が下がる
間合いを外す
蓮が
完全に間合いを制している
春日の動きは
全て蓮の後手に回されている
(俺から、攻めたのに…)
遅れて歓声が上がる
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「あの、蹴りを見切ってる…」
弓場が呟く
「それよりも景子…」 大石が弓場に返す
「踏み込んで行った春日くんが、全て受けに回されたんだよ」
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(来いよ 春日… そんなもんか…)
蓮が一歩
踏み込む
また、一歩
踏み込む
足運びに合わせ
やや左傾に構える
無拍子
平突き
刹那
春日が避ける
剣を引く
打ち下ろし
春日が大きく下がる
間合いを大きくとる
(下がるなよ…)
蓮が
また一歩 前へ
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(今のは…)
避けれたのは
ー運
動きを読まれた
が、
読まれた気がした
動きを止めた
それが分かれ目だった
ーーだけだ
で、なければ
ー入っていた
(行くしかないのか…)
踏み込む
その先に蓮の打ち下ろし
春日の小太刀が
止める
そのまま流す
半歩間合いを詰める
蓮の切っ先が回る
春日が再び止める
鎬で鍔元まで流し込む
右脚が上がる
ー蹴り技
蓮が踏み込み
避ける
背中へ向う
剣は未だ鍔元で止められている
蹴りが軌道を変え
蓮を襲う
肩口を蹴り込む
蓮が耐える
剣を押し込む
春日の姿勢が崩れる
蓮が剣を鍔元から抜く
打ち下ろし
春日は転がりながら
間合いの外へ
深追いはしない
低い姿勢で
春日が構えている
その姿は、まるで
追い込まれた者
再び歓声が上がる
(受けられた… あの蹴りを…)
完全に蹴りの衝撃を受けられた
蹴り込んだのは春日
そして
体勢が崩れたのも、春日
低く構えたまま
春日は動かない
呼吸だけが、静かに落ちていく
(勝ちたい… いや…)
目の前に立ってくれているのは
鷹宮先輩だ
――向き合うべき相手だ
すっと息を吐く
肩の力が抜ける
姿勢を戻し、構え直す
春日の顔に再び笑みが…




