第八十二話 斬られた間合い ーそれでも、踏み込むー
小太刀の受け… すべて見切られた
次につなげられない
本山先輩の長剣…
三の太刀までで、すべての間合いを
ーー斬ってくる
間合いの中にいるだけで――終わる
小太刀だけでは勝てない
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流石、春日くん
的確に間合いに入る
打つ拍子を的確に読んでくる
小太刀で、扇を封じる
間に入る
そこで活きる
でも、それ以上は通さない
私の身体に小太刀は触れさせない
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本山先輩には
小手先の技は通じない
俺の技術では打つ拍子で斬られる
手裏剣は――ない
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春日くんは
多分…
投擲を仕掛けてこない
彼の投擲技は
何度か見た…
私には、通じない
それも――織り込み済み
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雪先輩の剣は
重くはない
速くもない
――空間を制している
それを崩すしか勝ち筋はない
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間合いは渡さない
私の間合いで――
春日くんの小太刀は、活かさない
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それなら…俺は
蹴り割る
地面も剣も 空間さえも
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春日が踏み込む
斬り下げ
一の太刀を春日が避ける
斬り返し
扇が開くように、二の太刀
小太刀が斬り上がる
鎬、鍔元へ
刃が流れる
止まる
そのまま天へ
搗ち上げる
二本の剣が天を向く
間合いが生まれる
――その刹那
蹴りが、空間を割る
――届かない
雪の柄が蹴りを落とす
そのまま
刃が春日へ
小太刀の返しが早い
受ける
流す
…
再び、離れる
間合いの外へ
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(まだ、届かないのか…)
春日は無意識に微笑んでいた
(柄打ちの形 実際に使うだなんて… 春日くん)
雪も微笑んでいる
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観客席
誰も何も言わない
観ているだけであった
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(動きを読んでたのか…)
痛みが走る
春日の足背が赤い
足に意識が向く
その一瞬を、雪が見逃さない
踏み込み
扇のような一の太刀
春日の対応が遅れる
避けられない
小太刀で止める
二の太刀 斬り下ろし
鎬で流す
流しきれない
鍔元まで押される
長刀が回る
鍔で止める
――止められた!
長刀が刎ねる
三の太刀 袈裟斬り
流す
離れる
間合いの外へ
(春日くん… )
雪が再び微笑む
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(取られかけた…)
痛みに気が行った
それを逃さない本山先輩…
(やっぱり、勝ちたい…)
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春日が踏み込む
一の太刀が来る 横薙ぎ
凌ぐ
鎬で受ける
押し込む
入る
流す
春日が打つ
雪が受け、打ち返す
さらに返す
小太刀が回る
長刀が回る
共に切れない
春日が押す
雪が引く
間合いは変わらない
長刀が流れる
小太刀の下へ
下から小太刀を押し上げる
春日が下がる
雪はその場で薙ぎ切る
春日が沈む
床まで沈むように躱す
小太刀が跳ね上がる
雪が下がる
同時に斬り下げる
流す
離れる
間合いの外へ
斬り合ったのは
間合いだけであった
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「あれだけ斬り合って…
斬ってないの 斬れてないの…」
弓場がつぶやく
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雪が大きく踏み込む
身体を床まで倒す
一の太刀 脛打ち
春日が下がる
間合いが伸びる
斬る――前脚が上がる
斬られない
脚の下を刃が走る
斬り返し
ー跳ね上がる
春日は片足立ち
ー動けない
小太刀で止める
押し込まれる
胸元まで押される
だが、刃は止めた
脚を踏み込み、押し返す
長刀が戻る 回る 舞う
ー斬り落とし
受ける 押す 弾く
小太刀で突く
鍔元でいなす
返す動きが斬り落としへ
避ける
離れる
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(負けていい――なんて、
思った俺は……違う)
春日の眼が、鋭さを増す
雪は、その変化を逃さない




