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半歩 ~守・破・離 短き刃 長き道~  作者: 止水


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第八十話 在り方の剣 ー違和感ー

「今津先輩! 鷹宮先輩の所に行きましょう!」


今津が答える

「止めとけ…」


「なぜですか?」


「次の試合、見ておけ…」

「お前のためでもあるし…

 蓮のためでもある…」


「鷹宮先輩のため?」


「あぁ… この後、どちらかと戦うんだからな…」


「あっ!」


そう…

この後、雪と春日の試合


勝てば決勝 澪が待つ

負ければ、蓮の待つ三位決定戦へ向う


ーーーーー


「東 橘流 春日一成」


「西 本住吉流本院 本山雪 」



ざわめきが、ゆっくりと引いていく。


名前が呼ばれる。


二人が、開始線へ向かう


距離を取り、向き合う。


静かだ。


観客席の熱も、期待も、すべてが遠い。


ただ――互いの気配だけが、そこにある。


ーーーーーーーー


(ここまで来た)


春日は、ゆっくりと息を吸う。


”勝ちたい”その拘りは ーもう下げた



胸の奥で、言葉がほどける。


(俺は――何を示したい)

(どう、在りたい――)


観客席に目が向く


御影さんたちが居る


祈るようにこちらを見てくれている


(ありがとう…)

(以前とは全く違う気持ちで、ここに立つことが出来たよ…)


全ては

(どうして、私が手裏剣なんて学んでいると思う?)

その一言が始まりだった…


その答えは、今も言葉にはできない

でも、わかる その問いの意味なら――




向かいに立つ本山先輩へ視線を戻す


いつもと変わらない…


静かで…


そう、まるで雪原の只中にいるかのように、

音そのものが、消えていく静寂


以前は解らなかった本山先輩の

”隙のない立ち振る舞い”


思わず見とれそうになる…


ーーーーーーー


雪は


武道場全体を見ているわけではない。

 だが――確かに“見ている”。

 感じているに近い。


春日くんからは以前のような


怒りのような…

攻撃的な…


感情は感じられない…


(この数か月で… 本当に強くなったのね…)


確信する


ー 以前の春日くんとは 違う ー


ーーーーーーーー

対峙する二人


「はじめ!」


主審の声が武道館中に響く



春日は素手にて、構える。


足裏が、床を捉える。



雪はゆっくり抜刀


視線は静かに、まっすぐ春日を捉えている。



間合いが広い長刀


その間合いを制しようと

春日は拍子の隙間を… 狙う




雪がわずかに揺らぐ


いや、自ら揺らいだ


舞うような

前への切り込み


春日は間合いを取る


春日の少し前 空間を斬る


その斬り込んだ中心へと

雪の身体が入る


と同時に


斬り返しの

扇のような横薙ぎ


春日が柄に手をかける


扇も春日には届かない


春日が鯉口を斬る


雪の連撃

三の太刀、斬り下ろし

雪が身体を乗せる


しかし

春日には届いていない


刃が床へ流れる



春日が間合いに入る


  ーー入れない


斬り落とした刃


すでに

刃が天を向いていた


斬り上げの形が出来ていた


そう…

春日を迎え撃つ準備…


四の太刀が春日を待っていた…



静止…


お互い動かない

ーー(違う!)


雪は揺らいでいた…


わずかな揺らぎで

春日は雪の間合いに入れこまれていた


春日の背中に戦慄が走る


大きく後ろへ飛びのく


間合いを取る


雪はゆっくりと姿勢を正す

構え直す



ーーーーーーーーーーーー

「今の…」

徳井が絞るように声を出す…


「そうだ お前の得意な五連撃だ…」


見せたのは三連撃

実際には次の動き

その次の対処法もある…


「じゃあ、なぜと俺との…」

徳井は言いかけて止まる

本山先輩は五連撃をあえて使わなかった


そう…

その動きを熟知しているから…


「うっ…」

徳井が歯を食いしばる


今津は、それを横目で見る

見ているが、見ていないように…


ーーーーーーーーー


視線は静かに、まっすぐ春日を捉えている。


(春日くん 迷っていない)




雪は一歩、踏み込む。


(本住吉流は――剣を残すためのものではない)


間合い。


呼吸。


気配。


すべてを整える。


(人を導くための剣)


(そのために 私が剣となる)


ーーーーーー


人は強いものに憧れる


頼りたがる


それが人だから


だからこそ

強いものは人を正しく導く必要がある


正しく導きたいのであれば

 ー強く在れ


父の言葉

 力だけではなく

 心だけではなく


 思いや知識だけでは人を導けない

 優しさだけでは自分も導けない

 

 

(示す)


言葉ではなく、剣で示す


私の剣の在り方で。


この試合で春日くんへ!


ーーーーーーーーー



春日の肩が大きく動く


踏み込む。


速い。 鋭い。


足さばきで雪の間合いを翻弄する


雪は動かない


いや動いている


間合いを崩されぬように動いている


ーーーーーーーーーーー


大石が身を乗り出す

「何なの!あの歩法!!」


同じ短い刀で戦う大石


間合い外からの入り方

熟知している…  はず…


初めて見る歩法

軸が…

読めない


離れて全体が見渡せる観客席からも理解が出ない


弓場も気がつく

「脚が… あれ、私見せてもらってない!」

私との組手では片鱗もみせなかった動き


「凄いよ… 春日くん… 」

悔しそうに弓場がつぶやく


ーーーーーーーーー

舞うように動く

脚が交差する

体が揺らぐ


雪との間合いを半歩踏み込む


半歩下がる


半歩ずらす


その半歩が、雪に圧をかける

――はずだった。


雪は動かない…


切っ先がぶれていない


常に本住吉流の構えを保ち続ける


ーーーーーーーー


春日が止まる…


歩法を

体裁きを


止める…


再び雪と対峙する



その様を見て大石が

「なぜ? なぜそこで行かないの?」


「あの動きなら崩せるじゃないの…」



ーーーーーー


(さすが…です 本山先輩…)


(剣を動かすどころか…)

(全く動じない)

(心さえ、動いていないのでしょう…… 本山先輩)


春日は再び大きく肩を動かし

呼吸を変える


(俺は……今まで何を見てきたんだ)


(俺はこんな人に失礼な言葉を吐き続けていた…)

(本山先輩は… 間違いなく 強い)


(技だけじゃない)


(在り方そのものが、強い……)


(勝てなくて… あたり前じゃないか…)

(勝てなくても どう”在る”かだ)








――違う。 何かが違う


春日は、わずかに目を細める





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