表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半歩 ~守・破・離 短き刃 長き道~  作者: 止水


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/129

第七十一話 同門 ー読み合いー

準々決勝

第二試合



静まり返る武道場

「二年生 本住吉流 本山雪」


呼ばれ、雪が壇上へ上がる。


対するは――

「三年生 本住吉流 岡本恭一」


同門。


同じ構え。

同じ間。



―礼


――開始


踏み込まず、雪は半歩引く。


間が広がる。


そのまま、互いに動かない。


読み合う。


先に岡本が斬り込む


“流す”


雪は、

一太刀を受け、逸らし、間を外す


だが。

消えない。


(……残る)


圧が、残っている。


剣が、そこにある。


二の太刀。

逸らす。


三の太刀。

崩しが入る…


はず…


――その前に。

相手の刃が、そこにある。


(早い?)


雪の受けが通る


間合いが開く



(岡本さん… 形が崩れてる?)


違う…


“自ら形を崩しているの?”


(私、読まれてるのか…)


(……知られているからね…)



同じ形。

同じ起こり。

同じ“崩しの入り方”。


だから。

(そこに来る前提で、動ける)


再び

岡本が斬り込む


一の太刀。

二の太刀。

三の太刀。


流れは続く。


だが――

どこにも“抜け”がない。


(先に崩せない)


なら。


(此方も崩す!)


雪は、わずかに呼吸をずらす。


半拍。

遅らせる。


受けの起点を、変える。


――誘い。


相手も動く。


同時に。


――来ない。


(……乗らないか…)



見ている。


(そう、見られてる)


“誘い”を。


意図を。


その裏を。


(なら――)


雪がきり込む


一の太刀。

二の太刀。

三の太刀。


流れは続く。


まるで演武のように


どこにも乱れがない。


岡本はそれに合わせて

形のように受ける


そしてー


もう一段。

踏み込む。


本来の間より、半歩深く。


一の太刀。

二の太刀。

三の太刀。


流れを


“外す”


形を。


速さで力で崩す。


「――!」


入る。


その瞬間。


(軽い)


手応えが消える。


空を切る。

(外された)


違う。


(外した“つもり”を、外された)


相手は、そこにいない。


“そう動くと読んでいた位置”にいない。


そして。

その外側から――


刃が入る。


「……っ!」


一の太刀

受ける


二の太刀

遅れてくる

軸が浮く。


(……遅い)


半拍。

岡本がずらす


雪にとっては

そのズレが、致命的になる。


押される。


間が崩れる。


(違う)


理解する。


(今のは――)


岡本は

“破った”のではない。


“読まれた”


外すことも。


崩すことも。


その後の受けも


全部を。



(……浅かった)


距離が開く。


静止。


(岡本さん 刻んできましたね…)


雪は、息を吐く。



雪が

再び構えをとる


合わせるように

岡本も構える


ーーーー

二階の観客席


弓場が一言

「うーん…」


「何? 景子…」

御影が答える


大石も弓場を見る


弓場が

「同じだから、読みあってるの?」

「分からないなぁ…」


「え?どうして?」

「当たり前でしょ…」

大石も返す


弓場が続ける

「同門なら、ちゃんと噛み合うでしょ。」

「同じ動きなのに見合ってるよ」

「全く噛み合ってないじゃん!」

納得がいかない


ーーーーーーー


(読まれる…)


何をしても。


誘っても。


外しても。


崩しても。


全部。


“その先にいられる”


(どうする)


雪が微笑む


(当たり前か…)


(岡本さん、 しっかり学んでくれてるんだから)


私は、これでも家元の娘


指導もさせてもらってる


岡本さんが私の動きも熟知するなんて

当たり前過ぎる


対峙する時の気位

そして思考まで


門下生には教えてきた


私の今の状況…


これは


岡本さんが

その教えに忠実にこなしている証し


本来なら

本住吉流の家元として

歓ぶべき事


一瞬、顔が門下生を見る顔に戻る


指導稽古の顔に…



春日の言葉がよぎる

( 「……勝ちます」 )




(…違う!)


(今は、違う!)


(私も、勝つ!)


ーーーーー


雪が下がる


間合いを取る


大きく呼吸を行う



息吹?

何故、今?

観客には理解できなかった



岡本だけが、理解した


本山さんが、攻めに転ずることを


ーーーーーー


大石が弓場に答える

「景子…」


弓場は、眼は壇上に残したまま

大石の話を聞く


「剣だからね、一打で決まるの…」

「一瞬の隙間に 剣を入れる…」


御影も頷きながら聞いている


「同門だから…」

「隙を作れない」


「同門だから…こそ、」

「隙を作らない」


「だから… 決まる時は一瞬なの…」


弓場が

「なら、騙す… 」

誰に言うでもなく呟く


大石がその言葉に続ける

「そう… で、なれば」


「鍛錬の厚みで…押し通る…」


厚みの重み…

それは


弓場も知っている


もう、聞かなくてもいい

試合… 

しっかりと見だけだ



ーーーーー



岡本が、初めて見る。


家元の娘の表情。


道場では決して向けられない、


鋭く、研ぎ澄まされた眼。


わずかに息を吐く。


(ありがとうございます……師範)


胸の内で、静かに頭を下げる。


教えではなく。

情でもなく。


ただ――

一人の相手として、見られている。


それが、何よりも重い。


そして。

何よりも、嬉しい。


足が、自然に前へ出る。


“受ける側”では終わらない。

“読む側”で終わるつもりもない。


呼吸。


間。


起こり。


次の一合で――

すべてが、揃う。











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ