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半歩 ~守・破・離 短き刃 長き道~  作者: 止水


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第七十二話 合わせ鏡 ―破らず届くー

武道場

壇上


本住吉流の同門対決


ーーーーーーー


弓場も、理解した


一瞬の勝利


積み重ねの厚み


鍛錬の重さを


直接打撃系の試合は

お互いに打ち合う


打ち合う事により

相手を感じ取る

相手を知る


特に同門同士は

それがより鮮明となる


まるで非言語的な会話のように…


それが人を育む


だから人を壊す暴力でありながら

人を導く「道」であり続けられる



剣は違う


真剣であれば終わる…


己を出し

相手を知り

合わせては、

終る


一瞬の勝利

一合の決着


弓場は壇上から目を離さない


ーーーーー


ならば、


終わらしたくない

育てたい


繋ぎたい


それは…

傲慢なのだろうか…


ーーーーー


雪と岡本


まるで合わせ鏡のように

同じ構え



僅かな体格の差が

間合いの差になる


それは些細なこと


長刀

間合いの利


それ自体が間合いを制する


本住吉流 長刀の置き方


それが

勝利を決める





間合いが狭まる


お互いの間合いに入る


打たない


確実に決める

その意気地が見える


ーーーー


岡本が先に踏み込む


一の太刀

お互いの長刀が鎬を斬る


二の太刀

お互いの長刀が交差する

弾く


三の太刀


二の太刀からの斬り返し


同じ動き

同じ流れ


の、はず


雪の長刀が先に置かれていた


袈裟に斬り込まれていた



袈裟に斬り込まれたことにより

岡本は三の太刀を制しられた


長刀の流れるところには

既に雪の長刀がある



斬り込みからの


位置取り


そして残心…



一瞬、音が消える。


遅れて審判の声


「……一本」


遅れて、 観客席からのざわめき。


だが壇上だけは、まだ静寂の中にあった



雪は残心を解き


ゆっくりと刃を収める。


岡本は、動かない。


やがて、小さく息を吐いた。


「……流石です」


悔しさはある。

だが、それ以上の――納得があった。


雪は構えを解かず、わずかに視線を落とす。


「……二の太刀 少し早かったですね」


岡本が苦笑する。


「早く出た“つもり”でした」


一拍。


雪が、静かに首をふる

「でも……三の太刀には、繋がりませんでしたよね」


岡本が雪の顔を見る


雪は続ける。

「“そこで決める”と、分かってたので」


岡本の口元が、わずかに緩む。


「……やっぱり、読まれてたんですね」


「いえ」

雪は短く否定する。


「読んだ、というより――」


少しだけ考えて、


「岡本さんの形に… “揃えた”だけです」


その言葉に、

岡本は目を細める。


「……ああ」

小さく、息を吐く。


「だから、……遅れた」


雪は、何も言わない。


それが答えだった。


岡本は姿勢を正す。


「完敗です」


はっきりと。


雪も、まっすぐに向き直る。


静かに。

「私も、同じ形に助けられましたから」


岡本が、少し驚いたように見る。



一瞬、沈黙。


互いに分かっている。


あの一手。




岡本が頷く。


そして。

少しだけ、柔らかくなる。

「いい顔、してましたよ 本山さん」


雪が、わずかにだけ表情を崩す。


ほんの一瞬。

「……ありがとうございます」


短く。



主審の声が入る。


「お互い 礼」


視線が合う。


今度は、迷いはない。


「ありがとうございました」

「ありがとうございました」


深く、礼。


顔を上げた時には、


もう互いに、次へ向いていた。



ーーーーー


春日が控え席へ向かう



準々決勝 第三試合


小太刀の使い手――

春日 一成


もう、

素手に拘らない。


勝ちに、縛られない。



ただ――

自分で在り続けたい。




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