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半歩 ~守・破・離 短き刃 長き道~  作者: 止水


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第六十九話 届かない場所 ー長刀ー

静まり返る武道場。


午前中の余韻が、まだ残っている。


空気が変わる。


「三年生 本住吉流 王子 真」


ざわめき。


名は、知られている。

派手ではない。


学内で最も多い流派――長刀



「二年生 直伝夢野流居合術 夢野 澪」


小さな影。

居合刀。




「……よろしくお願いします」




「はじめ!」


動かない。


澪は抜かない。


王子も、動かない。


間の取り合いが続く


先に動いたのは――王子。


踏み込み。

長い。


一の太刀。


澪は――

半歩。


二の太刀。


澪の逃げた位置に


受ける

弾く。


重い。


三の太刀。


お互いが崩せない。



間合いが開く。



観客席がざわつく。



澪の目が細くなる。


(雪よりは、――力はあるね)


澪は納刀

抜刀術の構え



王子は何も言わない。


ただ、長刀を構える。


隙がない。


本住吉流の間合い取り



(こちらからは……入れないかぁ)



澪からは、抜けない。


間合いが

長い


居合が――

“意味を持たない距離”。




王子の踏み込み。


斬りつけ


長い。

正確。


澪は、また避ける。


追いつかれる。

(逃げ場が… 少ない…)



澪の呼吸が乱れる。

「……」


王子の目が、わずかに細くなる。


“読んだ”。


その瞬間。


「――っ」

澪が踏み込む。



しのぎ落とされる。


二の太刀を寸前で止める。


“入れなかった”。


間合いが開く。


静寂。


(……届かない)



確信する

(このままじゃ、勝てない)


澪の顔は裏腹に 微笑む

(それは 嫌!)


間合いが開いたまま、動かない。


王子 真


崩れない構え。


揺れない足。


呼吸すら、一定。



澪は、ゆっくりと息を吐く。


(悔しいけど、入れない)


距離。

長さ。

圧。


(流石に対策を打たれてるか)


すべてが、想定されている


届かない


(……違う)


(届かないんじゃない)


一歩、足を動かす。


王子は反応しない。


(先輩は、“届く場所”にいない)


澪が一歩下がりかける


その瞬間を狙い

王子が踏み込む。


速い。

正確。

無駄がない。


一の太刀。


澪は――

動いていない


「……っ?」


二の太刀。


“入っている”


だが。


澪は、そこにいる。


半歩。


外さない。

逃げない。

“受けない”。


刃が、頭上を斬る


(ここだ)


王子の目が、わずかに動く。


“想定外”。


三の太刀。


振り抜く。


澪は、踏み込む。


“内側”。


長刀の死角。


だが。


王子の剣が戻る。


速い。


澪は抜かない。

抜けない。


(まだ)


押し返される。


間合いが、また開く。


呼吸。


静かに、整える。



視線が落ちる。


鞘。

手。


ゆっくりと、顔を上げる。


王子が動く。


踏み込み。


一の太刀。


澪は――


残る。


半歩。

内側。


「……っ!」


王子の足が、わずかに止まる。


初めての“ズレ”。



澪の手が動く。

抜刀。


だが――

遅い。


王子の剣が先に入る。

(読まれてる)



澪は止まらない。

“そのまま入る”。



凌ぐ


凌ぎきる



「な――」


王子の剣が弾かれる


踏み込む。


身体が入る。


軸を奪う。


小手。


掴む。


崩す。


――投げ。


王子の身体がーー



浮かない



長刀が返される


鍔迫り合い



静止。


(押し負ける)


体格差は歴然


澪が引きつつ、

小手を打つ


止められる


再び、間合いが開きかける


王子も鎬から打ち下ろし


澪が避ける


王子は追わない



(流石…)


(読まれたか…)



澪は

王子の追い打ちに合わせて

斬り上げを狙っていた








静寂。


遅れて歓声



王子先輩が澪をみる


ゆっくりと。


歓声など無いかのよう

目も向けない


澪だけをを見る



一瞬だけ。

わずかに。

澪は笑う



澪も、観客席に目もくれない



ゆっくり下がる。


小さく息を吐く。



「本住吉流には…」


笑みが消える


「…負けれない」



ーーーーーーーーー

王子は澪に意識を向けている


観客席へ向ける余裕はない


ーーーー


…三連撃


全てが、

わずかにズレた

届かない


否、

ズラされた――それが、正しい


此方のズレにも――あわされた


小手投げ

そして

追い打ち待ち



一の太刀のズレにあわせ


半歩内側へ


抜刀し

入ってきた


切り返しても

剣が、弾かれた


踏み込まれた


軸を取られ小手投げ


湊川さんの体術

雪お嬢様に聞いていなければ、


(負けていた…)


その後の間合い…


静かに、理解する。


(……違う)


(読まれていた)

(いや)

(“置かれていた”)


(長刀の利が、成立していない)


当たる場所に

(呼ばれた)


こちらの間合いの“外”ではない。

そちらの“内側”へ。


(このままでは、当たらない…)


静寂。


歓声が遅れて来る。


聞けない…


視線を外す余裕もない




後輩の湊川さんは、

確かに小柄だ


だが。


そこにいる

直伝夢野居合流道場の湊川さんは


 偉大だ


(やはり、未だ届かないのか…)


いや、


届く。


届かせる。


この長刀で――




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