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旅仲間と、欲しかったもの

翌朝、在人がいた。


パンを食べていた。誰の皿かわからない干し肉まで食べていた。


出発のとき、在人もいた。いつの間にか荷物を持っていた。誰も何も言わなかった。


東仁が一度だけ在人を見て、前を向いた。


三日目の朝、街道で男に会った。


年は三十代後半か四十くらいだろうか。背が高く、荷物は少なかった。歩き方は一定で、止まらない、脇見もしない。まるで歩くことだけを長い間続けてきたような歩き方だった。


「師、あの人、前を見ているんじゃなくて、前しか見ていない感じがします」


「目が届いておるな」


部瑠太師はそれだけ言った。


昼過ぎ、宿場町の水場で英理が水筒を満たしていると、男も隣に来た。


「常世境へ行くのか」


「そっちの方向には行きます。あなたも?」


「ある。お前たちは?」


「私もあると思います。まだよくわかっていないんですが」


「よくわかっていないのに行くのか」


「気になるけん」


男は英理を見た。帽子の陰から、目だけが見えた。


「変な子だ」


「よく言われます」


「……正直だな」


「正直じゃないと話が続かんけん」


「話を続けたいのか」


「気になることがあれば」


男はもう一度英理を見た。それから視線を水に戻した。


「カエルという」


「英理です」


「変な名前だ」


「カエルって名前にそれを言われると思わなかったです」


カエルは少しだけ、口の端が動いた。笑ったわけではないかもしれないが、何かが緩んだ。


結果として一行は増えた。部瑠太師はカエルを特に歓迎も拒絶もしなかった。「道は一つじゃからな」と言って歩き続けた。


さらにその日の夕方、道端に倒れていた小さな魔獣を英理が拾った。トカゲに近い外見で、猫くらいの大きさ、目がつぶらで、傷だらけだった。


「……どうするんですか」東仁が言った。


「治す」


手のひらを当てると、温かさが広がった。使いすぎると腹が減る。でも傷が塞がる。


魔獣は目を覚まして英理をじっと見た。


「ボス?」


「ボスじゃないけど」


「ボスだ」


「……仮ボスでもない」


「じゃあ、仮の仮のボス」


「どんどん増えとる」


英理は荷物の中を確認した。魔獣を入れる場所はなかった。


こうしてリュウもついてきた。


夜、宿の炉端で、カエルが話した。女の人と子供たちが奥の部屋へ行った後、残ったのは英理と部瑠太師とカエルだった。


「常世境に行く理由を聞かれたな」


「聞いても構いません」


「妻がいた。二年前に死んだ。常世境に行けば、戻せると聞いた。昔話に、そういうものがある」


「なるほど」


少し間があった。


「……軽いな」とカエルが言った。


「重かったですか今の」


「重い話だろう普通は」


「そうですか」英理は炎を見た。「長い病だったんですか」


「長い病で、最後は苦しんだ。俺にはどうにもできなかった」


話し終わると、カエルは暖炉の火を見た。英理もしばらく火を見た。それから口を開いた。


「一つ、聞いていいですか」


「何だ」


「奥さんは、戻りたかったと思いますか」


カエルが顔を上げた。


「……は?」


「いや、怒らせたいわけじゃなくて」


「十分怒りそうだったぞ今」


「そうかな」


「そうだよ」


英理は少し考えた。


「でも、戻したいのはわかるんです。ただ、奥さん本人がどうしたかったのか、聞いたことあったのかなって」


部屋が静かになった。暖炉の火が、低く燃えていた。カエルは何も言わなかった。英理も何も言わなかった。


「わからない」カエルがようやく言った。


「そうですか」


「……聞いたことがなかった。そんなことを、聞く前に死んだ」


「わからないままで常世境に行くんですね、という話です。それがダメだとは思いません。でも、わからないことはわからないまま持っていく方が正直だと思うので」


カエルはしばらく英理を見た。それから低く言った。


「子供みたいなことを言う」


「子供なので」


カエルは何か言いかけて、やめた。暖炉がぱち、と鳴った。


部瑠太師が隣でぽつりと言った。


「英理」


「はい」


「お前は正確だな」


英理は何が正確なのかよくわからなかった。でも問い返すより眠い方が勝ったので、毛布を引き寄せて横になった。腹が鳴った。スープが薄かった。でもそれくらいは、なんとかなる、と英理は思って目を閉じた。



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