表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/21

入ってはいけない部屋、あるいは仕方ないということ

「あの部屋には入ってはダメです」「絶対に……」「いいですか、絶対!」


真理矢が口を開いた。開いて、閉じた。


「それって入りなさいってことよね……仕方ないけん」


ギぃ。


社の長はしばらく扉を見ていた。それから真理矢を見た。


「あ~やっぱり」


真理矢は何も言わなかった。


「いいかこのまま持ってくか。この子危ないし」


社の長は扉を開けて中へ入った。音がしなかった。英理は、その後ろに続いた。


壁が金だった。正確には、壁の中に金があった。石の奥から光が押し出されているような色だった。青い石が埋まっていた。赤い石が埋まっていた。金の線が蔓のように走っていた。


きれいだった。


気がついたら、壁の前に立っていた。


「英理、近づきすぎよ」真理矢が後ろで言った。「触らないで」


指先が、板に触れた。


奥行きが、生まれた。音が、なかった。


何かがいた。壁の中に。こちらを向いていた。動いた。少しだけ。首が、こちらへ傾いた。英理も少しだけ、首を傾けた。


怖くなかった。きれいだった。それだけだった。


「……英理?」真理矢の声が、遠かった。「英理、なに固まっとるん」


遠かった。


「社の長、なんか英理が」


「触ったんじゃろ」


「触ったんよ、絶対」


「だから言ったんじゃが」


「入ってはダメって言ったのに」


「それはお前らが」


「別の話です」


空気が冷たかった。でも痛くなかった。


「どのくらいで戻りますか」


「さあ」


「さあってことないよ」


「人による」


「英理は」


「……さあ」


英理はしばらくそこに立っていた。それは動かなかった。でもそこにいた。どのくらい経ったかわからなかった。


気がついたら、明るかった。回廊だった。


人がいた。白い袂の女が、回廊の端に立っていた。目が、どこも見ていなかった。どこかの遠い場所だけを、見ていた。


「業を返す」


と言った。足音なしに、消えた。


英理にはその言葉の意味がわからなかった。


真理矢が英理を見た。


「目が、遠い」


英理は少し考えてから言った。「あれ、左に傾いてましたか」


「壁に何もいなかった。石だけ」


「いた」


「絵もなかった」


英理は少し黙った。


「……そうですか」と社の長が、静かに言った。


真理矢が社の長を見た。「社の長、今の『そうですか』、絶対知っとるんよね」


「さあ」


「さあって」


「入ってはダメと言った」


「それはそうやけど!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ