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蜜檸檬の問い、あるいは旅の前のこと

冬の朝は、いつも鐘から始まる。


石造りの社殿に音が走り、窓の外の雪が少し揺れる。見習いの子どもたちはその音で目を覚まし、冷たい石床に足を下ろし、ほとんど反射で祈りの言葉を唱える。


尊き御名に栄あれ、今日も恵みを与えたまえ——


毛布はいるか。猪車だから要らない。でも山越えは冷える。


——傍らの者を慈しむ力をたまえ。


お守りの本は重い。でも持たないと不安だ。着替えは二枚か三枚か。蜜檸檬は——


「英理! 早く! 部瑠太師が呼んどる!」


回廊から声が飛んできた。同室の真理矢だった。もう旅支度を終えていて、背嚢の紐から蜜檸檬が二個ぶら下がって揺れていた。その状態で怒っていた。


「荷造り終わった?」


「考えとった」


「考えるな、来い」


「考えんと終わらんよ」


「終わってないけん」


正論だった。英理は荷物を抱えて回廊に出た。


社殿の中央広間はすでに騒々しかった。


海門の大社への参詣は年に一度あるかないかの行事で、街道を二日かけて行く本格的な参詣だった。前日から眠れていない子どもたちが、全員少し浮ついていた。


朱柱の前に立っていたのは、老社人の部瑠太師だった。


年齢はわからない。白髪で、背が低く、服がいつも少し皺だらけで、朝の拝礼中に居眠りしていても誰も怒らない、そういう種類の老人だった。何歳かを知る者が社殿内にいない。それが時々、不思議だった。


子どもたちを見回して、部瑠太師はゆっくり口を開いた。


「おやつは銀銭三枚まで」


はーい、と声が揃った。こういう時だけは皆声がそろう。


「ただし」


老人は続けた。


「蜜檸檬は、おやつに含みません」


沈黙。


三秒あった。


「無制限ってこと?!」


「食事扱い? じゃあ何個でも!」


「大勝利!!」


「待って待って、お腹壊れる」


「壊れない! 蜜檸檬だから!」


広間が爆発した。部瑠太師はとくに止めもせず、その様子を眺めていた。口元が、ほんの少し緩んでいた。


英理は広間の隅で、静かに立っていた。


一人だけ。


周りが「無制限」「大勝利」と騒いでいる中で、英理の頭には別の問いが引っかかって、離れなかった。


——おやつに含まれない。


では、おやつとは何なのか。


「始まった」隣で真理矢が小声で言った。


「何が」


「英理の考えすぎる顔。眉が内側に寄るやつ」


「そんな顔してない」


「しとる。去年も『祝福の範囲はどこまでか』って一晩考えとったでしょ」


「あれは大事な問いだった」


「三日後に答えを見つけるまで食事が喉を通らんかったんよ」


英理は少し黙った。それは正直なところ、そうだった。


「でも気にならんよ? おやつって何を指しとるんだろうって」


「気にならんよ」真理矢ははっきり言った。「蜜檸檬が銀銭三枚で買えるなら、おやつに入るけん。部瑠太師が変なだけよ」


「でも師が変だとしても、言葉には意味があるはずで——」


「英理」


「うん」


「猪車は昼前に出る」


「うん」


「考えるのは乗ってから」


「……うん」


猪車に乗る前に、英理は部瑠太師を捕まえた。


老人は朱柱の陰で干し果物をつまんでいた。荷造りを手伝う気はないらしかった。荷物も持っていなかった。どこから来てどこへ行くのかも、なんとなくわからない種類の老人だった。


「師、さっきの話ですが」


「うん?」


「蜜檸檬がおやつに含まれないのは、なぜですか」


部瑠太師は英理をしばらく見た。それから干し果物を一つ口に放り込んで、静かに答えた。


「昔からそういうもんじゃ」


「……それだけですか」


「それだけじゃ」


英理はもう少し押そうとしたが、部瑠太師はもう目を閉じていた。立ったまま眠る気らしい。干し果物を持ったまま。


「蜜檸檬は果物ですか。食事ですか。それともおやつですか」


「さあ」


「師は何だと思いますか」


老人は薄目を開けて、遠くの山を一瞬だけ見た。


「腹が減っているときに食べれば食事じゃ。遊んでいる合間に食べればおやつじゃ。誰かにあげれば贈り物になる」


英理はそこで少し止まった。


「名前は……食べ方で変わる?」


「名前は人が決める。果物は何も決めない」


「……なんかそれ、すごく大事なことを言った気がするけん」


「そうか? 当たり前のことじゃが」


部瑠太師は本当に眠ってしまった。


英理はその言葉を頭の中で転がした。


——名前は人が決める。果物は何も決めない。


うん。絶対大事なことだ、これ。


猪車の中は賑やかだった。蜜檸檬論争の続きをしながら、毛布を奪い合い、窓の外の雪景色に歓声を上げ、蜂蜜菓子をめぐって小さな取引をしていた。


英理は窓側の席に座って外を見ていた。石畳の街が遠ざかり、森に入り、白い平野が広がった。


「英理まだ考えてる?」真理矢が横から顔を寄せた。


「少し」


「何を?」


「名前が境界線を引く、っていうこと。蜜檸檬はおやつじゃないって言った瞬間、蜜檸檬がおやつじゃなくなる。でも蜜檸檬にとっては関係ないけん」


真理矢はしばらく黙った。「……英理って、物の肩を持つよなあ」


「物に肩はないけど」


「そういうとこ」


猪車が揺れた。遠くに山脈が見えた。白く、高く、静かだった。


英理はそれを目で追いながら、ふと気がついた。


——鐘の音がする。


猪車の中に鐘はない。街の鐘ももう遠い。それでも確かに、どこかで金属が澄んだ音を立てていた。薄い金属が何かに触れるような、薄くて硬くて、不思議に遠い音。


「……真理矢」


「なに?」


「何か聞こえん? 鐘みたいな……金属の音」


真理矢は首を傾げた。「聞こえない。考えすぎ」


英理は頷いたが、耳を澄ませるのをやめられなかった。


音は続いていた。まるで誰かが、遠くの山の奥で硬い金属を一枚ずつ数えているような音が。


何を数えているんだろう。


特に答えは出なかった。


昼の休憩で猪車が止まり、外に出た。蜜檸檬を一個取り出して食べると、甘くて冷たかった。


「おいしい?」真理矢が聞いた。


「おいしい」


「それだけで十分よ」


「うん」


食べ終えた芯を雪の上に置いた。少し前まではおやつで、その前は誰かが市場で選んだ果物で、その前はどこかの木に実っていた。


名前は人が決める。果物は何も決めない。


やっぱりこれ、大事だ。


そのとき、荷物を確認したら——


蜜檸檬が、二個残っていた。


食べかけでも、かじりかけでもない。まだ手をつけていない二個が、袋の底で、妙に輝いていた。


英理はしばらくそれを見た。


瞬きをした。


もう一度見た。


輝いていた。


輝く、というのは比喩ではなかった。磨かれた金属のような、硬くて深い黄色だった。傷一つなく、腐りの気配もなく、まるで今採ったばかりのように艶があった。


——なんで。


そのとき、また聞こえた。金属の音。今度は、少し近かった。


英理は顔を上げて山を見た。鳥がいなかった。この季節なら枯れ木に止まっているはずの鳥が、山の方向だけ、一羽もいなかった。雪も降っていなかった。平野は積もっているのに、山の斜面だけ、乾いた岩肌が見えていた。


「英理、乗るよ」真理矢が呼んだ。


「うん」


英理は荷物を閉じ、猪車に乗った。蜜檸檬を袋の底にしまった。腐らないなら、まあいいか、と思いながら。


夕方、海門の大社の屋根が遠く見えてきたころ、猪車の中はほとんど眠っていた。


英理だけが起きていた。名前と、境界と、おやつの話がまだ頭の中を回っていた。


海門の大社の鐘が鳴り始めた。深く、重く、石畳に響く音。それとは別に、もう一つの音がした。薄く、硬く、硬い金属のような音が、英理の耳の奥で小さく鳴り続けていた。


おやつの問いはまだ解決していなかった。


それはそれで——なんとかなる気がした。



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