散歩と、食べながら行けるかという問い
山を下りていた。
一歩。また一歩。鉱石の音が、後ろで遠くなっていた。踏むたびに鳴っていた音が、遠ざかるにつれて、薄くなった。でも消えなかった。頂上に、鉱石はあり続けるから。
英理は足を止めた。
「少し」英理は言った。
「何だ」東仁が振り返った。
「帰る前に、もう少しここを見てもいいですか」
沈黙があった。
「……目的は果たしたんじゃないのか」
「果たしたと思います」英理は言った。「でも」
「でも」
「果たしたから帰る、というのが、少し違う気がして」
東仁が天を仰いだ。
カエルは何も言わなかった。でも止まっていた。立ち止まっていた。戻る気も、行く気も、今のところないらしかった。
「律は」英理は言った。
「律の書 第四十二節に、目的なき歩みは——」
「今はいいです」東仁が言った。
「そうですね」律は言った。傷ついた様子はなかった。
「在人は」英理は言った。「どうしますか」
「そのへん」在人は言った。
「そのへんを散歩しますか」
「そのへん」
英理はその答えをひとまず受け取った。在人はどこにでもいた。それがこの人物のやり方だった。
リュウが英理の肩に戻ってきた。普段より静かだった。頂上にいる間、ずっと静かだった。
「行きましょう」英理は言った。
「どこへ」東仁が聞いた。
「わかりません」英理は言った。「でも」
腹が、鳴った。
「食べながら行けるルートを知っている人を探してから」
東仁はしばらく英理を見た。「……そこから始めるのか」
「そこから始めないと続きません」
東仁は何か言いかけて、やめた。
部瑠太師は少し離れた場所で空を見ていた。何も言わなかった。でも、止まっていた。老人が止まっているのは、去る気がないということだった。
愚者は、笑みがあった。笑みはあった。でも今日の笑みは、少し薄かった。「面白い」とだけ言った。準備された声ではなかった。何かを確かめているような「面白い」だった。
常世境の端の方に、荷を積んだ者がいた。
老人だった。背が丸く、荷が大きく、荷の方が老人より主張していた。立っているのか休んでいるのか、判断がつかなかった。荷の脇に座って、何かを確かめていた。数えていた。
「すみません」英理は言った。
老人が顔を上げた。目が細かった。細い目のさらに奥に、何かがあった。たくさんのものを見てきた者の目だった。長く、ここにいる者の目だった。
「旅の人か」
「そうです。常世境を少し散歩したくて。食べながら行けるルートを教えてもらえますか」
老人は英理を一度見た。荷を一度見た。また英理を見た。
「……その問い方で来た人間は、初めてだ」
笑い声が出た。小さな笑いだった。でも確かに笑った。荷が揺れるくらいに笑った。
「皆、近道を聞くか、安全な道を聞く。食べながら行けるかどうかを聞く者は」老人は笑いを収めた。「初めてだ」
「ご存知ですか、そういうルート」
「知っている」老人は言った。「ただし」
「ただし」
「その道には試練がない代わりに、何かを拾うかもしれない」
「拾う?」
「名前のないものを見ると、名前をつけたくなる。名前をつけると、持ち帰ることになる」
英理はその言葉を頭の中に置いた。名前をつける。持ち帰る。
「拾っていいですか」英理は聞いた。
老人はまた笑った。今度はさっきより大きく。荷が揺れるくらい。「その問いも、初めてだ」
「ご存知ですか。拾った人間の話」
「知っている」老人は言った。「みんな重くなって帰る。でも」
「でも」
「軽い人間もいた。一人だけ」
「その人は」
「何も言わなかった。ただ、嬉しそうだった」
英理はその言葉を受け取った。
腹が、鳴った。「……」老人が目を細めた。「腹が減っているな」
「減っています。ルートを教えてもらえますか」
「その途中に、果物の木がある」
「何の木ですか」
老人は少し考えた。「さあ。ただ、黄色い」
黄色い果物の木。英理は荷物を持ち直した。
「ありがとうございます」
「名前を聞かせてもらえるか」
「英理です」
「英理か」
老人は荷を持ち直した。帰り支度をするような仕草だった。どこへ行くのかはわからなかった。ここにいる者は、どこかへ行くのかもしれなかったし、どこにも行かないのかもしれなかった。
「困ったことがあれば、私の名前を出せ。常世境の者は通してくれる」
名前を告げた。英理はそれを頭の中で一度繰り返した。「わかりました」
「行け。黄色い木は、道の真ん中に立っている。見逃すことはない」
「真ん中に、ですか」
「真ん中に木が立っているから、道が木の周りになっている。どちらへ回っても、また合わさる」
英理はその言い方を少し面白いと思った。「行きましょう」英理は振り返った。
カエルが腕を組んで立っていた。「話は済んだのか」
「済みました。黄色い果物の木があるそうです」
「それだけか」
「それだけです」
カエルは何か言いかけて、やめた。東仁が前を向いた。
腹が、また鳴った。老人が後ろで、また小さく笑った。
腹が、また鳴った。老人が後ろで、また小さく笑った。
英理は前を向いた。食べながら行けるルートがある。黄色い木がある。老商人の名前がある。頭の中に置いた。それで十分だった。
常世境の端は静かだった。試練の場所とは違う静けさがあった。岩もなかった。急な斜面もなかった。草があった。光があった。どこかで鳥が鳴いていた。行きに通った道とは、音が違った。




