二十三歳の結婚式後編
神戸での研修が始まって数日後。
小百合は、球団事務所の廊下で立ち止まっていた。
掲示板に、新人配属予定一覧が貼り出されている。
自分の名前は、すでに確認していた。
――国際対応・ファンサービス部門。
英語力と、防災知識が評価された配属だった。
けれど、その隣に――
「……え?」
思わず声が出た。
もう一つの名前。
森川航平
配属先:
・トレーナー部門
・スポーツビジネス部門(企画・運営補助)
「航平くん……?」
その時、後ろから声がした。
「見た?」
振り返ると、航平がいた。
少し照れくさそうに笑っている。
「採用されたって……聞いてない」
「言おうと思ってた。でも、同じタイミングで発表になるって言われて」
小百合は、しばらく言葉が出なかった。
そして――
「なんで黙っちょったが!」
涙を浮かべながら、少し怒った声。
航平は慌てた。
「ごめん。でも、サプライズになるかなって……」
「サプライズ強すぎるがよ……」
小百合は笑いながら泣いた。
*
「一緒に働けるね」
航平が言う。
「うん……」
「小百合は球団を支える側、俺は選手を支える側」
小百合はうなずいた。
「両方で支えられるね」
航平は少し真面目な顔になった。
「災害があった時も、球場に来た人たち守れるようにしよう」
その言葉に、小百合は強くうなずいた。
「うん。絶対に」
*
夜。
小百合は栄子に電話をかけた。
「お母さん」
『うん?どうしたが?』
「航平くんも……タイガースに採用された」
一瞬、沈黙。
そして――
『ほんまに!?』
「トレーナーとスポーツビジネス」
『すごいね……ほんまにすごい』
栄子の声が少し震えていた。
『二人で同じ場所で働けるがやね』
「うん」
『なんか……運命みたいやね』
小百合は小さく笑った。
「うん。ちょっとだけ思った」
*
電話を切ったあと、小百合は窓の外を見た。
神戸の夜景。
その向こうに、甲子園がある。
そして、遠くに――高知の海。
怖かった海。
すべてを奪った海。
それでも、自分をここまで運んできた人生の流れ。
小百合は、そっとつぶやいた。
「お父さん、お母さん、兄ちゃん、美波」
「私、一人じゃないよ」
隣には航平がいる。
支えてくれた栄子がいる。
そして今、自分は誰かを支える側に立っている。
次回予告(更新版)
第44話「失った家族への報告」
神戸での新生活が始まった小百合と航平。
二人は、同じタイガースの球団職員として歩き始める。
そして、高知へ――
父、母、兄、美波、そして栄子の家族へ。
結婚したこと。
夢が叶ったこと。
二人で同じ場所で働いていること。
墓前で語る、これまでとこれから。
次回、
第44話「失った家族への報告」
「私たち、ちゃんと生きちゅうよ」




