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海の声が聞こえなくても・土讃線が止まった秋  作者: リンダ


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手をつなぐ理由

 

 第40話


 手をつなぐ理由


 隆との再会は、小百合の心を静かに揺らした。


 幼い頃、少しだけ胸が弾んだ相手。

 防波堤を一緒に走った人。

 あの災害を生き残り、同じように家族を失った人。


 けれど、今の小百合の隣にいるのは航平だった。


 何も急がせない。

 過去を無理に聞かない。

 沈黙を怖がらない。


 墓参りの帰り道、小百合はしばらく黙って歩いていた。


 航平も何も言わず、歩幅を合わせてくれた。


 夕方の道に、二人の足音だけが響く。


「航平くん」


「うん」


「私、まだ怖いことがいっぱいある」


「うん」


「海も、地震の音も、大きな音も、急に思い出すことも」


「うん」


「でも……航平くんといると、少し息がしやすい」


 航平は立ち止まらなかった。


 ただ、やさしく言った。


「そばにおるよ」


 小百合は、自分から航平の手を取った。


 その手は、温かかった。


 恋という言葉は、まだ少し照れくさかった。


 けれど小百合にはわかった。


 この人となら、未来を考えられる。


 失ったものを抱えたままでも、誰かと一緒に歩ける。


「私、航平くんと真剣に付き合いたい」


 航平は小百合を見た。


「うん。俺も」


 小百合の目に涙が浮かんだ。


 でも、その涙は悲しみだけではなかった。


 怖いから手をつなぐ。

 信じたいから手をつなぐ。

 離れたくないから手をつなぐ。

 未来へ行きたいから手をつなぐ。


 その日から、小百合と航平の、将来を見据えた真剣な交際が始まった。


 次回予告

 第41話「少しずつ話せるように」


 航平との交際が始まった小百合。


 大切な人ができたことで、彼女は少しずつ、自分の過去を言葉にし始める。


 父のこと。

 母のこと。

 兄のこと。

 美波のこと。


 全部を一度には話せない。


 けれど、航平は待ってくれる。


 次回、

 第41話「少しずつ話せるように」

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