表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海の声が聞こえなくても・土讃線が止まった秋  作者: リンダ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/79

誰かを助けたい

第36話


誰かを助けたい


 小百合は、人前で語れなかった。


 声が震え、喉が詰まり、涙が先にあふれてしまう。


 けれど、ノートには書けた。


 あの日のこと。

 逃げること。

 助かった後の避難所のこと。

 美波のこと。

 そして、もう誰にも同じ思いをしてほしくないという願い。


     *


 防災担当の先生は、そのノートを読んで長く黙っていた。


 そして、静かに言った。


「白田さん」


「……はい」


「これは、あなたにしか書けない言葉だよ」


 小百合は顔を上げた。


「うまく話せなくてもいい。泣きながらでもいい。書いたものを誰かが読むだけでも、これは伝わる」


 先生はノートをそっと返した。


「体験した人の言葉は、資料の数字とは違う。命の重さがある」


 小百合はノートを抱きしめた。


     *


 その夜、小百合は栄子に話した。


「お母さん」


「うん」


「私……誰かを助けたい」


 栄子は黙って聞いた。


「助けられんかった人が、いっぱいおる。お父さんも、お母さんも、兄ちゃんも、美波も」


 小百合の声が少し震えた。


「でも、これからの誰かは、助けられるかもしれん」


 栄子の目が潤んだ。


「うん」


「逃げてって言える人になりたい。避難所で困っている人に、何が必要か考えられる人になりたい」


 小百合は少し間を置いた。


「タイガースの仕事もしたい。外国から来る人を助ける仕事もしたい。でも、防災のことも、ずっと学びたい」


 栄子は、小百合の手を握った。


「小百合ならできる」


「ほんま?」


「ほんま」


 栄子はやさしく笑った。


「苦しんだことを、誰かを守る力に変えようとしゆう。それは、すごいことやき」


     *


 小百合はノートを開いた。


 新しいページに、ゆっくり書いた。


私は、誰かを助けたい。


逃げる勇気を伝えたい。


助かった命を、そのあとも守りたい。


美波のことを、忘れない。


 鉛筆の線は、もう以前ほど震えていなかった。


 悲しみは消えない。


 けれど、悲しみの中から生まれた願いがあった。


 誰かを助けたい。


 それは、小百合が未来へ向かうための、新しい言葉だった。



次回予告


第37話「二十歳の春」


 時は流れ、小百合は二十歳になる。


 高校を卒業し、大学へ進学した小百合。


 英語、防災、スポーツビジネスを学びながら、タイガースの球団職員になる夢へ近づいていく。


 そして二十歳の春、彼女は初めて自分の人生を振り返る。


 次回、

 第37話「二十歳の春」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ