表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
199/250

第23話『主人公権』Opening 「観測者接触」

 第二十二話ラスト。

 観測者たちは、ついにレオノーラ・ヴァレンシュタインを“認識”した。


 ただ見るだけではない。

 ただ評価するだけでもない。


 ――欲しがり始めた。


 彼女を。


 “作品の中心”として。


     ◆


 夜。


 ヴァレンシュタイン邸の窓辺に、レオノーラは一人立っていた。


 眠れない。


 理由は分かっている。


 空だ。


 王都上空を覆う巨大魔法陣。

 あの“目”。


 閉じない。


 ずっと、こちらを見ている。


 呼吸するみたいに脈動する光が、夜空全体をゆっくり染め上げていた。


 静かだった。


 なのに。


 見られている。


 肌へ直接、視線を押し当てられているみたいな不快感。


 レオノーラは目を細めた。


「……気持ちの悪い空ですこと」


 呟いた瞬間だった。


 視界が、歪む。


     ◆


 王都が変わっていた。


 いや。


 王都“そのもの”は変わっていない。


 変わったのは、見え方だ。


 石畳。

 街灯。

 噴水。

 建物。


 全部が、不自然に美しい。


 まるで。


 舞台装置。


 そして。


 通行人たちが、一斉にこちらを振り返った。


 ぞわり、と空気が震える。


「レオノーラ様!」


「悪役令嬢!」


「主人公!」


 拍手。


 歓声。


 熱狂。


 人々が道を開ける。


 自然に。


 当たり前みたいに。


 まるで世界そのものが、彼女を中央へ立たせようとしているみたいだった。


 花弁が舞う。


 風が吹く。


 光が、彼女だけを照らす。


 異常だった。


 完璧すぎる。


 そして何より――甘美だった。


 選ばれている。


 世界から。


 全ての視線が、自分へ集まっている。


 その感覚は、人間の本能を直接撫でる。


 恐ろしいほど、心地いい。


 レオノーラは奥歯を噛んだ。


「……っ」


 その瞬間。


 景色が反転した。


     ◆


 巨大劇場。


 暗闇。


 無数の客席。


 だが。


 観客の顔は見えない。


 輪郭すらない。


 あるのは、“気配”だけ。


 膨大な期待。


 熱。


 欲望。


 声が降ってくる。


『君は特別だ』


『君こそ主人公だ』


『物語を導け』


『君なら最高の結末を作れる』


 レオノーラは、舞台中央へ立たされていた。


 逃げ場はない。


 スポットライトが眩しい。


『選ばれろ』


『愛されろ』


『輝け』


『君は人気がある』


 その言葉は、呪いみたいだった。


 けれど。


 同時に。


 抗い難い誘惑でもあった。


 主人公。


 世界の中心。


 誰にも忘れられない存在。


 それは、人間が本能的に求める承認そのものだった。


 レオノーラは理解してしまう。


 なぜ人が“選ばれたがる”のか。


 なぜ人が“特別”へ憧れるのか。


 これは、麻薬だ。


     ◆


 翌朝。


 王都。


 異常は、現実へ侵食していた。


 人波が自然に左右へ割れる。


 市場の喧騒が、彼女の声だけ静かに通す。


 衛兵が無意識に姿勢を正す。


 子供たちが目を輝かせる。


 噴水広場を歩けば、都合よく風が吹く。


 空から花弁。


 意味不明。


 しかも。


 誰も不自然に思っていない。


 世界そのものが、


 “レオノーラ中心”へ再編され始めている。


 完全な主人公補正。


 対策本部へ入った瞬間。


 セシルが顔を引きつらせた。


「……うわ」


 珍しく、本気で嫌そうだった。


「何ですの、その反応」


「いや」


 セシルは頭を抱える。


「観測者側、本気で推し始めたぞ」


 ベアトリクスが術式盤を睨んだまま呟く。


「世界重心が、レオノーラ様へ偏移しています……」


「偏移?」


「主人公座標化です」


「嫌な単語を増やさないでくださる?」


 だが、冗談では済まなかった。


 術式盤には、明確な変化が表示されている。


【観測集中率】

 レオノーラ・ヴァレンシュタイン:急上昇


【演出補正】

 優先適用中


【物語中心性】

 再構築開始


 沈黙。


 ミレイユが、不安そうにレオノーラを見る。


「……レオノーラ様」


 その目には、怯えがあった。


 主人公になること。


 “選ばれる”こと。


 それが何を意味するのか。


 彼女だけは知っている。


 レオノーラは静かに空を見上げた。


 巨大な目。


 こちらを見ている。


 期待している。


 盛り上がりを。


 最高の主人公を。


 最高の物語を。


 レオノーラはゆっくり目を細めた。


「……なるほど」


 静かな声。


「わたくしを、“次の主役”にしたいわけですのね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ