ラストシーン 「人気」
観測術式が、
悲鳴みたいな音を立てる。
地下観測室全域へ、
警告光が走った。
観測接続率、
限界突破。
感情波形、
制御不能。
ベアトリクスが、
術式盤へ手を叩きつける。
「まずい……!」
「観測層側が、
逆流してきます!」
空間が、
軋む。
巨大魔法陣が、
王都上空で激しく脈動した。
どくん。
どくん。
まるで、
巨大な心臓。
その瞬間。
地下観測室の時間が、
止まった。
音が消える。
空気も。
呼吸も。
光さえ、
静止する。
完全停止。
ミレイユが、
息を呑んだまま固まる。
セシルの煙草の灰が、
空中で止まっていた。
誰も、
動けない。
そして。
初めて。
“言葉”が届いた。
『君は人気がある』
声。
男とも女とも分からない。
老人にも。
子供にも聞こえる。
無数の声が、
重なっている。
なのに。
意味だけは、
異様にはっきり伝わる。
地下観測室が、
凍りついた。
ベアトリクスの顔色が、
完全に消える。
「直通……?」
掠れ声。
「まさか、
観測層から直接……」
巨大観測盤が、
激しく発光する。
そこへ。
文字が浮かび上がった。
【対象認識】
一拍。
【レオノーラ・ヴァレンシュタイン】
沈黙。
ミレイユが、
ゆっくりレオノーラを見る。
セシルは、
舌打ちした。
「最悪のファンレターだな」
だが。
終わらない。
観測層から、
さらに言葉が流れ込む。
『もっと見たい』
『君は面白い』
『最高の悪役だ』
『反逆者キャラ、
好き』
『曇らせ甲斐がある』
『最後どうなるんだろ』
『絶対盛り上がる』
地下観測室の空気が、
粘つく。
熱狂。
期待。
好奇心。
その全部が、
レオノーラへ向けられていた。
完全に。
“作品”を見る視線。
ミレイユが、
震える声で呟く。
「レオノーラ様……」
レオノーラは、
答えない。
ただ。
静かに、
空を見上げていた。
怒りではない。
恐怖でもない。
もっと冷たい感情。
嫌悪。
なぜなら。
彼女は、
理解してしまったから。
観測者たちは、
怪物ではない。
異形でも。
邪悪な神でもない。
むしろ逆。
あまりにも、
“人間的”だった。
面白いものへ熱狂し。
感動へ涙し。
魅力的な人物を応援する。
その感性自体は、
自分たちと変わらない。
だからこそ、
気味が悪い。
だからこそ、
許せない。
他人の人生を、
物語として消費することへ、
慣れきっている。
巨大魔法陣が、
不気味に脈動する。
まるで。
新しい主役を、
見つけたみたいに。
レオノーラは、
静かに目を細めた。
そして。
吐き捨てるように呟く。
「ついに観測者は、
わたくしを“作品”として評価し始めましたのね……」




