シーン4 「ミレイユの拒絶」
観測層から、
なおも感情が流れ込む。
『ここ泣ける』
『この展開好き』
『主人公かわいそう』
『もっと曇らせて』
『救済まだ?』
『最後どうなるんだろ』
地下観測室の空気は、
既に限界だった。
感情密度が高すぎる。
他人の期待。
熱狂。
好奇心。
それらが、
生のまま脳へ流れ込んでくる。
ミレイユ・フェルナンは、
両耳を押さえて蹲った。
「や……」
小さな声。
だが、
止まらない。
『ここで自己犠牲来そう』
『絶対泣くやつ』
『主人公には幸せになってほしい』
『でも曇ってる時が一番輝く』
その言葉が。
彼女を、
じわじわ削っていく。
ミレイユの肩が震えた。
「わたしたち……」
涙が零れる。
「誰かの暇潰しだったの……?」
沈黙。
誰も、
答えられない。
だって実際。
観測者の一部は、
軽い娯楽感覚で、
この世界を見ている。
泣きながら。
笑いながら。
片手間に。
人生を、
消費している。
ミレイユは、
俯いたまま呟く。
「苦しかったのに……」
声が震える。
「怖かったのに……」
「死にそうだったのに……」
涙が、
ぽたりと床へ落ちた。
「それを……」
掠れた声。
「楽しんでたの……?」
重かった。
あまりにも。
地下観測室の誰も、
言葉を返せない。
セシルは、
苦々しく目を逸らす。
ベアトリクスも、
唇を噛んだまま黙っている。
レオノーラだけが、
静かにミレイユを見ていた。
そして。
彼女は、
はっきりと言う。
「違いますわ」
ミレイユが、
ゆっくり顔を上げる。
涙で滲んだ瞳。
レオノーラは、
真っ直ぐ彼女を見る。
怒鳴らない。
激情でもない。
静かだった。
だからこそ、
断定に聞こえた。
「暇潰しで終わるかどうかは」
一拍。
「わたくしたちが決めます」
沈黙。
観測層から、
まだ無数の感情が流れ込んでいる。
期待。
熱狂。
消費欲。
それでも。
レオノーラは、
一歩も引かない。
「観測されても」
「物語化されても」
「消費されても」
彼女は、
静かに続ける。
「最後に、
人生の意味を決めるのは当人ですわ」
地下観測室が、
静まり返る。
それは。
第四部の核心だった。
たとえ誰かに見られていても。
たとえ娯楽として消費されても。
自分の人生が、
誰かの物語になったとしても。
最後に、
どう生きるかを決める権利だけは。
奪えない。
ミレイユは、
小さく息を呑む。
胸を押さえる手が、
少しだけ緩んだ。
荒れていた呼吸が、
ほんの僅かに整っていく。
レオノーラは、
なおも観測層を睨んでいた。
無数の視線。
無数の期待。
その全部へ向けて。
まるで、
宣戦布告するみたいに。




