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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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シーン3 「観測者の目的」

地下観測室。


観測層接続は、

まだ続いていた。


術式盤の上を、

膨大な情報が流れていく。


感情波形。


観測反応。


期待収束率。


ベアトリクスは、

ほとんど狂気じみた速度で解析式を書き換えていた。


瞳の下には、

濃い隈。


指先は震えている。


それでも止まらない。


「……まだ、

 奥があります」


掠れた声。


セシルが眉を顰める。


「おい、

 限界超えてんぞ」


「脳焼けるんじゃなかったのか」


「もう焼けてます」


怖い。


そして。


次の瞬間。


巨大観測盤中央へ、

新しい構造図が浮かび上がった。


地下観測室の空気が、

変わる。


レオノーラが、

静かに目を細めた。


「……これは」


ベアトリクスが、

青ざめた顔で解析結果を表示する。


そこには。


観測者側の“期待収束”が、

明確に可視化されていた。


感情出力が、

最も増大する瞬間。


つまり。


観測者たちが、

最も熱狂する展開。


術式盤へ、

巨大な文字列が並ぶ。


【世界崩壊】


【主人公自己犠牲】


【悲恋】


【裏切り】


【親友決裂】


【最終決戦】


【涙の別れ】


【死後再会】


【滅亡直前告白】


沈黙。


全部。


観測反応最大。


術式盤の数値が、

異常なほど跳ね上がっている。


ミレイユが、

息を呑んだ。


「なに……

 これ……」


セシルが、

乾いた声で呟く。


「終末エンタメじゃねぇか……」


誰も否定できない。


むしろ。


あまりにも綺麗に、

構造化されていた。


観測者たちは。


“最高の盛り上がり”を、

求めている。


幸福な日常では、

足りない。


平穏な人生では、

弱い。


もっと激しく。


もっと痛く。


もっと泣ける結末を。


ベアトリクスが、

震える指で術式を拡大する。


「観測者たちは……」


声が、

かすかに掠れる。


「“最高の最終回”を、

 求めています」


その瞬間。


全員が理解した。


今、

この世界で起きている異常。


悲劇の増加。


主人公演出。


脇役消失。


終わらない演出暴走。


全部。


全部。


“終盤盛り上げ”だった。


物語を、

最高潮へ持っていくための、

演出強化。


世界そのものが、

クライマックスへ向かって加速している。


レオノーラは、

静かに巨大魔法陣を見上げる。


空の向こう。


見えない観測層。


そこから、

無数の期待が流れ込んでくる。


「続きが見たい」


「もっと感動を」


「最高のラストを」


その欲望が。


世界法則を歪めている。


ミレイユが、

小さく震える。


「じゃあ……

 わたしたち……」


「最後には、

 死ぬの……?」


誰も答えられなかった。


なぜなら。


観測反応グラフの頂点に。


最も巨大な出力として、

表示されていたからだ。


【自己犠牲エンド】


地下観測室へ、

重苦しい沈黙が落ちる。


セシルが、

吐き捨てるように言う。


「最悪だな」


「盛り上がるなら、

 世界ごと燃やす気かよ」


だが。


本当に恐ろしいのは、

そこではなかった。


レオノーラは、

ゆっくり目を閉じる。


そして、

理解する。


敵は、

単なる観測者ではない。


もっと根深い。


もっと巨大。


“盛り上がりを求める構造”そのもの。


誰かが悲しめば、

熱狂が生まれる。


誰かが死ねば、

感動が増える。


その仕組み自体が。


世界を、

終末へ押し流しているのだ。

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